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「こんな所で何をしている? この娘は怪我人だ。それが分かっていての狼藉か?」


 凍りつきそうな程の冷たい声に思わず私はトワを二度見するが、私以上にフレッドが驚愕した様子でトワを見上げて湿布を持ったまま固まっている。


「……ぜ、絶対零度の戦場の……悪魔?」

「何故その名を? お前、騎士か?」

「いや、医者だけど……戦場にもよく出向くから……」

「なるほど。医者なら女性のドレスを脱がせても構わないと?」


 トワの冷たい眼差しは今にもフレッドを斬り殺してしまいそうだ。


 思わず私は痛む腰を抑えながらフレッドに今にも斬りかかりそうなトワの剣を下げた。


「ちょっとトワ! 違うから! この人ぎっくり腰をやっちゃった私を助けてくれたのよ」


 聞いたこともない無いトワの声音に背筋が凍りそうになって思わず早口で言うと、トワはキョトンとした顔をして私を見下ろしてくる。


 どうやらルチルが教えてくれたあの二つ名は伊達では無いようだ。実際に美形の冷淡な顔は引くほど怖い。


「ぎっくり腰?」


 私の言葉にようやくトワの声がいつものトーンに戻った。それを聞いて私はホッとする。ようやくいつものトワだ。


「あー、こっちではぎっくり腰じゃないんだっけ。フレッドさんさっき何て言ってた? 魔女の鉄槌だっけ?」


 出来るだけ物事を穏便に済ませたい私が明るく言うと、フレッドは吹き出して言う。


「鉄槌ってめちゃくちゃ痛そうだな! 魔女の一撃?」

「そう、それやっちゃったの」


 言いながら腰をさすると、トワは分かりやすく青ざめて私の膝裏に手を差し入れ軽々私を持ち上げる。


「すぐに医者に行こう、ヒマリ。あとしばらく動くのは禁止」

「え、それは無理! いったたたたた!」

「おいトワ、もっと慎重に運べよ! ヒマリがツルハシ握れなくなったらどうするんだよ!」


 抱き上げられた衝撃に思わず私が顔をしかめると、クリスがいつものようにトワに抗議するが、そんなクリスに相変わらずトワは塩対応だ。


「その時はあなたが持てばいいでしょう? 大体どうしてそんな力仕事を女性にやらせるのです? いくら高位妖精でも感心しませんね」

「うっせー。僕は力仕事には向いてないんだよ!」

「ああ、何せツルハシの方が大きいですもんね?」

「んな訳ねーだろ!? やんのか、こら!」


 いつも通り喧嘩を始めそうな二人だが、思い出してほしい。私はぎっくり腰をやって今にも腰が砕けそうだということを。


「いた、いたたた! ちょ、トワありがたいんだけどあんまり揺らさないで!」


 情けない声で言う私にトワとクリスはようやくハッとして互いの顔を見合わせて慎重に歩き出そうとしてくれたのだが。


「おい待てよ。あんた達がこの女の知り合いって事は分かったけど、まさかそのまま町まで運ぶ気かよ?」


 フレッドの声にトワはくるりと振り返って冷たい顔でフレッドを睨みつける。


「そうだが?」

「そりゃオススメ出来ねぇな。あんたらが思ってる以上にこいつ、重症だぞ」

「……」


 フレッドにそんな事を言われてトワが私を真顔で見下ろしてくるが、私とてここまではっきりとぎっくり腰になった事など無い。


 だが今までの腰痛とはひと味もふた味も違う事だけは分かる。だからとりあえず頷くと、トワは分かりやすく息を呑んでクリスに早口で言った。


「あなた高位妖精でしょう? 何とか出来ないのですか?」

「無茶言うな! 僕たち妖精は自然にまつわる魔法しか使えないんだよ! お前もそんぐらい知ってるだろ!?」

「はぁ……そうでしたね。天候は操れても怪我の一つも治せないとか」

「うっせ!」

「とりあえず絶対零度の悪魔、ヒマリを下ろせよ。湿布貼ってやるから」

「……わざわざ二つ名で呼ぶのは止めろ。ついでに湿布は俺が貼る」

「いや、トワも危ない。僕がやる」

「あなたはもっと危ないでしょう? 俺が貼ります。俺はヒマリの婚約者なので」

「それは仕事上の話だろ! ヒマリは優雅な独身生活を貫いて豊かな老後を過ごすんだよ! 僕と二人でな!」

「それこそありえない。大体あなたはヒマリの裏表の激しさと一生暮らす覚悟があるのですか? それこそ奴隷のように毎日パシられる覚悟は?」

「今我慢できてんだから出来るに決まってるだろ! お前こそ出来るのか!? 朝から鼓膜破れそうな程の大声で叩き起こされて炎天下の中一日中草むしりさせられるんだぞ!? それが終わったら買い物だ! 重い荷物ばっかり頼まれて腕千切れそうになるのに耐えられんのか!?」

(おや? 雲行きが怪しいな?)


 私は頭の上で喧嘩する二人の言葉を聞きながらちらりとフレッドを見ると、フレッドも青ざめながらこちらを見ている。

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