第1話 来訪者
マイが眠りに入って、半年が経った。
村は静かだった。配下が動いていた。スミレが転生者たちの話を聞いていた。
カイも毎朝村を見回って仕事を始めた。
その朝、魔具が鳴った。
◇◇◇
マイが眠っているマイの実家を管理するNPCからだった。
「来客です」
「誰だ」
「名乗りません。でも、結界を普通に通り抜けてきました」
カイは転移鏡を取り出した。国東の家の玄関をイメージした。
鏡に映ったのは、玄関の前でじっと座っている大きな生き物だった。
ずんぐりとした体。平たい頭。ヌメヌメしてそうな茶色い皮膚。体長は一メートルを超えていた。
たしか、オオサンショウウオという生き物のはずだ。
動かなかった。ただそこにいた。
「行く」
◇◇◇
転移して、玄関の前に立った。
生き物がカイを見た。目が合った。
「マイ様に会いに来た」
喋った。
カイは少し止まった。
「お前、喋れるのか」
「グオーだ」生き物が言った。「マイ様に会わせろ」
カイはその名前に聞き覚えがなかった。
「グオー」
「そうだ」
「マイ、あー、魔王から聞いたことがない」
「眠る前に話す機会がなかったんだろう」グオーが言った。「俺はマイ様の配下だ。起こしてほしい」
「魔王は今眠ってる。簡単には起こせない」
「知ってる。だから起こしてほしいと言っている」
カイはその生き物をしばらく見ていた。ずんぐりとした体で、じっとカイを見返していた。動じなかった。急かさなかった。ただ待っていた。
「理由を言え。俺が判断する」
グオーは少し黙った。
「マイ様から承ってる仕事の関係の話だ。マイ様の判断が必要だ」
「それだけか」
「それだけだ」
カイはもう一度グオーを見た。嘘をついている様子はなかった。
「待ってろ」
◇◇◇
マイを起こしたのは夕方だった。
マイが目を開けた。カイの顔を見た。
「カイ」
「ああ」
「まだ半年しか経ってないよね」
「そうだ」
マイは少し不満そうな顔をした。
「なんで起こしたの」
「来てくれ」
◇◇◇
玄関に連れていくと、グオーがまだそこにいた。
マイを見た瞬間、グオーがゆっくりと立ち上がった。ずんぐりとした体で、マイの前まで来て止まった。
「グオー」とマイが言った。
「マイ様」グオーが答えた。
カイはその場面を見ていた。マイがグオーを知っていた。当然のように名前を呼んだ。
「知り合いか」とカイが聞いた。
「うん」マイが言った。「昔から」
「なんで俺に言わなかった」
「言う機会がなかった」
マイがグオーを見た。久しぶりに見る顔だった。
「で、何しに来たの」
グオーはしばらく黙った。それから、ゆっくりと話し始めた。




