聖なる光の正体は殺意です。追放されたので、私のストレスを主食にする謎の毛玉『おつまみ』と優雅な隠居生活へ!元職場がパニックでも知りません。私は南の島で一生ダラダラします。
CWAVE の第一・第三日曜 21:30-22:00
「みちこの寄り道くまもと話」投稿テーマが「おつまみ」と言うことで、投稿原稿書いてるつもりがこんなストーリになりました。
第2章 殺意を食む白い毛玉
その日の夜。
王都の下町にある安宿の一室で、私はマグカップに注いだホットミルクを両手で包み込んでいた。
王都を出て行くのは明日。
荷物は最小限。国から支給されたドレスも聖杖も全部置いてきた。手元にあるのは小銭と少しの着替えだけ。
「はぁ……清々した!」
ベッドに腰掛け、ミルクを一口。
甘い。温かい。
本来なら、追放された絶望で泣き崩れる場面かもしれない。でも、湧いてくるのは圧倒的な安堵感。
……けれど、少しだけ。
ほんの少しだけ、胸の奥がチクリとした。
怪我をしたアルドを一晩中治癒し続けたこと。
民のために自分の寿命を削るようにして結界を維持したこと。
あんなに尽くしたのに、誰一人として私を庇わなかった。
「……バカみたい」
ズズッ、と胸の奥が重くなる。
ドロリとした黒い感情が、胃のあたりから湧き上がってくる。
これが「負の感情」。
そして、世間が「聖女の輝き」と勘違いしているものの正体。
私が聖女として輝いていたのは、この膨大なストレスが常に飽和状態で、それを体外に放出し続けていたからだ。
最近、光が弱くなったと言われたのは、ある存在が私のストレスを食べてくれていたから。
つまり、私はただの「精神安定した健やかな一般人」に戻りつつあったのだ。
空間が、ふわりと歪んだ。
『…………』
音もなく現れたのは、直径一メートルほどの白い毛玉。
目も口もない。手足もない。
ただただ、圧倒的に白く、神々しいほどにフワフワした「何か」。
私が「おつまみ」と呼んでいる、高位次元の存在だ。
悲しい時、寂しい時、疲れている時。
一日を終えようとふと自分を振り返る時に、この子は現れる。
「あら、来てくれたの? 今日は早いのね」
私はホットミルクを飲みながら、毛玉に手を伸ばす。
指先が極上の毛並みに埋まる。
それだけで、脳髄が痺れるような快感が走る。
『…………』
毛玉は何も言わない。
ただ、私の体から滲み出る「未練」や「恨み」や「虚無感」といった黒いモヤを、見えない口で掃除機のように吸い込み始めた。
しゅごおおおおお……。
音が聞こえるわけではない。
でも、魂から泥が抜けていく感覚がある。
おつまみちゃんは、私の負の感情をその根源から根こそぎ飲み込んでいるのだ。
「あぁ……そこ……」
私が吐き出した「アルドへの殺意」が吸われると、おつまみちゃんの毛並みがほんのりピンク色に輝いた。どうやら今の感情は珍味だったらしい。
「もう、働きたくないなぁ。ずっとダラダラしてたい」
私が本音を漏らすと、おつまみちゃんはブルンと体を震わせた。
次の瞬間、私の脳内に直接、鮮烈なイメージが叩き込まれる。
《青い海》
《白い砂浜》
《ハンモックに揺られ、ココナッツジュースを飲む私》
《上司も、締め切りも、早起きもない世界》
それは、現世での地上天国。
魂の浄化への誘い。
「……うん、そうだよね。もういいよね」
私は悟った。。
この国には、私が守るべきものはもう何もない。
「おつまみちゃん。私、明日ここを出るわ。一緒に行く?」
毛玉は、肯定するように私の頬にスリスリと体を擦り付けた。
その感触は、「全力で連れて行きます。お客様(ストレス供給源)は神様です」と言っているようだった。
最後まで読んでいただき、感謝です。ありがとうございます。
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それでは、また次のストーリーでお会いしましょう!




