草の死と木の生3
3.
「ヒィィィィイイイイイイッッット!!!」
昇天している最中に腕に鈎針が刺さったので思わず腕を引いたら女の子の叫び声が聞こえた。
何を言っているか分からないって?僕だって分からない。
「えっ!なんだこれっ、なんだこれぇぇぇぇえええっ!」
叫び声に驚いていると、腕がグイッっと空に向けて引っ張られる!
「ぬわっ!ちょっ!このぉっ!」
反射的に引かれる力に逆らい、腕を自分の体に向かってもう一度引き寄せる。
とはいえ僕の意思に関係なく現在昇天中だし、病院生活の長かった僕に腕力など期待しないでいただきたい。
「ダ、ダメだぁ~」
我ながら情けない声を上げて、僕の必死の無駄な抵抗は終わった。あ、死んでた僕。
死んでる僕の必死の抵抗虚しく腕に刺さった鈎針に引っ張られ、魚のように釣りあげられていく僕。
抵抗をやめて半ば諦めムードで引かれる針の先を眺めると陽光に反射して細い糸が見える。
あ、ホントに釣りだこれ。
もうどうにでもな~れとばかりに無抵抗になると、周りの雲を切り裂きすごい速度で引き上げられていく。
「速い速ーい!僕、風になってるぅー!」
既に現実とは思えなかった状況がさらに混沌となり、僕は思考を放棄する。
「っ!」
そうして風になること数分くらいだろうか、急に視界が光に包まれて目が眩む!
その瞬間っ
「キャァァァァァァァアアッッッッチ!アーンド!!リリィィィィイス!!!しない!」
「しないの!?」
さっきも聞こえたような気がする女の子のハイテンションな声に思わず突っ込む僕。
「当ったり前でしょ?せっかく釣り上げた上質な魂!逃がしてあげるはずないじゃないの!」
「えっ?」
やっとこまばゆい光に目が慣れてきた僕は声のする方を見る。
そこには・・・
「苦節千飛んで八年、やっと、やぁぁあっとゲットしたわ!いくら他にお役が無いとは言え長かった、長かったわぁぁあ!」
片手に釣竿を握りしめ、仁王立ちで咽び泣く女の子がいた。
僕はその姿をみて思った。
すごく・・・漢らしいです。