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エルフたちの住むところ

1.


再開したアルシュとイリュキナの旅は順調に進んだ。

そして泉を出発して二か月半程が経った頃、遂にエルフたちの集落へと二人は到着した。


「お疲れ様でした、アルシュ様。ようこそ私たちの住む場所へ。」


今までの道中、ずっとアルシュの後ろに着いていたイリュキナが初めて彼女の前へと踏み出し、その場所を背に一礼した。


そこは僕が居る泉の広場と同じように、森の中に突然広がる円状に拓けた土地だった。

地面は芝生の様な短い草に覆われ、その上に木で作られた家が建てられている。

それぞれが五、六人が横になれるくらいの大きさだろうか。

それは二人の居る位置から左右に三戸ずつ、土地の外周に沿う様に存在していた。


家々は何本かの木の柱を立て、その間を蔦を編んで作られた薄い壁が繋いでいる。

細い木で縁取られた出入口の部分には、蔦を編んでひも状にしたものが簾状に下がり、中の様子が見えないように目隠しの役割を果たしていた。

天井は紐のような細い蔦が等間隔に何本か張られており、そこに長い草を束ねた物をいくつも載せて固定してある。

基本的に雨が降る事のないこの森。屋根は眠る時に、差し込む僕からの光を遮る程度の役割なのだろう。


その簡素な造りの家々に両側を囲まれた中央部は広場の様になっていて、そこで見知った面々がアルシュを出迎えた。


「お久しぶりでございます、アルシュ様。いつもは泉でお会いしておりますので不思議な感じも致しますが、私たちの集落へよく御出で下さいました。」


一人のエルフが一歩前へと踏み出しアルシュへと一礼すると、後ろに控えるエルフたちもそれに倣った。

アルシュがそれに答える。


「久しぶりね。私がいない間に水浴びの時、誰かさんに覗かれたりしなかったかしら?」

「さ、さあ。おかしな視線を感じたりはしませんでしたが。」


せっかく自分たちの住む場所へと精霊様をお迎えしたのに、いきなり突拍子もないことを聞かれ若干戸惑うエルフたち。


「最初に聞くことがそれなの!?エルフたちもちょっと困惑気味じゃないか。というか彼女たちが来たら僕の視界はちゃんと上へやっていたよ!」


僕は思わずアルシュに声を掛ける。―ホントダヨ?男の子だった僕は必死に言いつけを守ったよ?


「なら一安心ね。それはともかく、ここがあなた達の郷なのね、素敵な場所だわ。」

「何もない場所ですが、アルシュ様にお越しいただき光栄ですわ。

 お疲れでしたらお休み頂く場所へご案内いたしますが、如何いたしますか?」

「全然大丈夫よ。それよりあなた達の住んでいる場所を見てみたいわ。」


彼女たちと僕の言葉に一先ず納得した様子のアルシュにエルフが気を使ってくれるが、疲れ知らずの彼女は元気一杯のようだ。


「でしたら、私がご案内いたしましょう。」


アルシュの隣に居たイリュキナが申し出る。


「そうね。お願いできるかしら?お家なんて初めて見るから楽しみだわ。」

「あまり珍しいものも無いですが。では、こちらから順番に見ていきましょうか。」


初めてのお宅訪問に目をキラキラさせるアルシュを連れてイリュキナが歩き出す。

そこに何人かのエルフが駆け寄り、楽しそうにおしゃべりをしながら彼女の小さな探検がスタートした。



「まず、こちら側の三戸が私たちが寝起きする家ですね。一戸に五人ずつ。広場に居た者たちと外へ出ている者を合わせて十五人が此処で暮らしています。」


先ほどアルシュたちが立っていた場所から見て左側の建物へ向けて歩きながらイリュキナが説明する。

すると、アルシュは何かに気付いたようでイリュキナに向けて質問する。


「そうなの。そういえば昔からあなた達の人数はずっと変わっていないように思うわ。」

「そうですね。私たちは約二百年程の時を生きます。終わりが来るとこの身は消え、魂は森へと還ります。それと同時に新たな魂が生まれ、身を得て姿を現すのです。

 そうして私たちエルフは変わらぬ数が存在し続けるようになっています。我ながら不思議な事ですが。」

「もしかしたら、私たちは似た存在なのかもしれないわね。世界樹から生まれた私と、この森から生まれたあなた達。」

「そんな。畏れ多いことです。」

「私は嬉しいわよ?近しい存在がお友達でいてくれるんだもの。」


そのアルシュの言葉にイリュキナは、


「アルシュ様には敵いませんね。」


と嬉しそうな顔をしながらその可愛い精霊の頭を撫でた。




「さあ、では中をご案内いたしますね。」

「いよいよね!楽しみだわ。」


目的の家の前に到着し、イリュキナが言うと待ちきれないように声を弾ませるアルシュ。実は僕もちょっと楽しみだ。


「あ、ソーキは中を見ちゃだめよ?」

「えっ?」

「女の人のお部屋だもの。当然でしょ?」


ガーン!ショックだ。この世界で見る初めてのお家に興味津々だったのに。決して女性のお家を見るのが初めてだからじゃあない!


「聖樹様なら私たちは気にしませんが・・・。」

「良いのよ。それより早く入りましょう?ソーキに話を聞いてから、お友達のお家に遊びに行くのって憧れていたの。」


そう言えば、僕が草樹だった頃の話もアルシュには色々としていたんだった。余計な話までしなければ良かったよ・・・。

それからしばらくの間、僕は家の中から聞こえてくる楽し気な声を聞きながら、外で待ちぼうけ気分を味わったのだった。



小一時間が経った頃、アルシュたちは家の中から出てきた。

楽し気に話に花を咲かせる彼女たちの姿は、前の世界の女の子たちのガールズトークと変わらないように見えた。

一緒に居るイリュキナ以外のエルフたちも、泉ではなく自分たちの家で話している分、いつもより大分砕けた雰囲気になっている。


そうしてキャッキャと賑やかな一行は順番に家々を見て回り、反対側に立つ三戸の内、二戸までを見終わった。

因みに一戸は食料の保存庫で、もう片方は狩りの道具などを置いておく物置のような感じだった。

昼前に集落へ到着したはずが、いつの間にか日は落ちている。ガールズトーク恐るべしだ。


「さあ、いよいよ最後の建物ね。此処はどんな場所なのかしら?」


そう質問するアルシュに対してイリュキナはその建物の前で足を止め、少し勿体ぶった様子で振り向く。


そして―


「この建物がアルシュ様の目的地です。そう、私たちが森渡りをするための場所です。」


そう言った。




「ここが、森渡りの為の場所・・・。」


中に入ったアルシュは部屋を見回す。―因みに僕も食糧庫からは中を見るお許しが出た。


そこは他の建物とは造りが異なり、正面の壁が一面だけ木製の板で出来ているようだった。

高さも他の建物より少し高いらしい。

その壁にインクの様な物で二メートルほどの縦長の楕円が描かれている。

その中央には丸い形の出っ張りがある。何かが刺さっているように見えた。


左側には二段になった棚が置かれ、そこに先の尖った円柱状の物体がずらりと並べられている。

どうやら、その中の一つがあの壁の中央に刺さっているらしい。


「あの壁に描かれているのが森渡りの扉の様な物です。そしてその棚に並ぶのが森の各所へと打ち込まれた物と対になる楔です。」


イリュキナが部屋を見回すアルシュに説明する。


「簡単に言えば移動したい場所の楔を棚から選び、あの扉の中央に差すことでその地へと移動することが出来るのです。

 今は、丁度誰かが洗い場にしている小川へと行っているようですね。」

「なんだか簡単そうに聞こえるわ。少し複雑だって、イリュキナは言っていなかった?」


簡潔なイリュキナの説明にアルシュが疑問を返す。


「ええ、以前ご説明したように森渡りは森の許しを得て初めて利用することが出来ます。

 この集落から私たちが来たのとは反対側の森へと出ると小さな祭壇があるのですが、一人一人目的の場所毎にそこで森からの許しを請う必要があるのです。

 時には森に拒まれることもあります。なので、私たちも皆が皆全ての場所へと移動出来るわけではないのですよ。」

「そうなのね。私は大丈夫かしら?」

「もうアルシュ様もこの森の真意はご存知でしょう。あなたが真に望むことを森は拒んだりはしないはずですよ。そういった意味では簡単といっても良いのかもしれませんね。」


話を聞いて少し心配そうなアルシュにイリュキナが優しい声で言う。


「ともあれ、いつの間にかもう夜です。明日祭壇までご案内いたしますね。少しおしゃべりし過ぎたでしょうか。」

「でも、とても楽しかったわ。」

「ええ、私も楽しかったです。普段こんなに此処が賑やかだったことなんてないくらいでしたもの。」


着いてきていた他のエルフたちも異口同音に頷いている。


「では、今日はもう家の方へと戻りましょうか。他の皆もアルシュ様とお話ししたいでしょうから、私たちがアルシュ様を独占しているのも良くないですしね。」


少し冗談めかした口調でイリュキナが言ったのを合図に皆で森渡りの部屋から外へと出ていく。

それから明日に備えて休むべく、それぞれの寝床がある家へと帰っていった。


因みに寝る必要の無いアルシュは、三戸あるエルフたちの家を一晩中渡り歩いてはそれぞれの家のエルフたちとおしゃべりに花を咲かせていた。

エルフたちも快くアルシュを迎え入れてくれ、普段は静かだという集落には一晩中賑やかな声が響いていた。

―僕はついぞ行くことが出来なかったけれど、修学旅行の夜なんていうのは、こういう感じなのかなぁなんて思いながら、その賑やかな集落を見守っていた。

ちょっとキリが悪かったので、次の章に入れるつもりだった部分を追記しました。

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