先生と生徒の森歩き1
1.
「まずはこの泉から私たちの集落まで一人で行き来できるようになる事を目標にしましょう。」
時間は一日戻り、イリュキナ達エルフが水浴び―当然その間、僕は視界を空高くへと上げていた―を終えた後のこと。
イリュキナ以外のエルフは先に帰り、泉に居るのは僕(木)とアルシュとイリュキナの三人だけ。
―実際に第三者が見たらアルシュとイリュキナの二人だけだが・・・。
そんな青空教室でアルシュの方向感覚を養うべく、イリュキナ先生の授業が始まった。
「イリュキナたちはよく水浴びに来るけれど、あなた達の集落まではどれくらいかかるの?」
アルシュが律義に挙手をしてイリュキナに問うた。
「普通に歩けば二月ほどかかります。」
「そんなにかかるの?でも、そうしたらこんなに頻繁に此処に来られるのはおかしくないかしら?」
「ええ、あくまで普通に歩いた場合です。私たちエルフは【森渡り】という術を持っています。
それによってこの森の中のある地点から他の地点へと一足飛びに移動が出来るのです。」
「凄いのね。何処へでも行けそうだわ。」
イリュキナの答えに感嘆するアルシュ。
「確かに森の至る処へと移動ができますが、何処へでもというわけではありません。
これは【森渡り】の仕組みに理由があります。【森渡り】は移動元と移動先に私たちの持つ特殊な【楔】を打ち込み、森が許しをくれた場合のみ成ります。
なので一度はそこまで歩いてたどり着かなければなりませんし、森が立ち入ることを嫌えばそこへ【森渡り】をすることは出来ません。
今私たちエルフが利用している【森渡り】は先祖代々少しずつ森を探索し、森に許しを得て作られたものなのです。」
―それでも私たちが知るのは、この森のごく一部に過ぎないのでしょうけれど。
そう締めくくり、イリュキナは一度言葉を切り、
「因みに森の出口付近にも【森渡り】があるのですが、徒歩でそこまで辿り着くまでにはエルフの足で一年かかったと伝わっています。」
イリュキナ先生の話を聞いて自分の暮らす森の途方もない広さを再認識し、僕とアルシュは只々驚嘆していた。
・・・というか下手をしたらアルシュは年単位で森を彷徨う羽目になっていたのではないだろうか。
そう思い至り、戦慄の眼差しで互いを見合う僕とアルシュ。
当然、そうなったら僕が助けるつもりだけれど。
「でも、そうなると私が森を出るのはとっても大変な事なのね。」
イリュキナの話でその道のりの長さを知り、沈んだ声でアルシュが言う。
「アルシュ様も【森渡り】は使えると思いますから、私たちの集落へ辿り着ければ大丈夫ですよ。」
「え、私も使えるの?」
「ええ、あくまで【森渡り】は特別な能力などではなく術です。
少し複雑な手順はありますが、覚えてしまえばアルシュ様も移動は出来るはずですよ。
設置にはエルフの力と森の許しが必要ですが。」
「本当!?ならすぐにでも外の世界へ行けるのね!」
さっきまでの落ち込みようが嘘のようなテンションでアルシュが言う。
「いいえ。今のままでは森の外に出てもアルシュ様はすぐに迷ってしまうでしょう。」
「むぐっ!」
「ですから方向感覚を養う為にアルシュ様にはここから私たちの集落まで、一人でも歩いて辿り着けるようになっていただきます!」
少し教師役が楽しくなってきたのか、ババァーンっ!と擬音が付きそうな勢いで胸の前に手を掲げイリュキナが高らかに宣言する。
「そ、そんな。せっかく森の外を見られると思ったのに・・・。」
「しっかり頑張れば一年程度で覚えられますよ。私たちエルフにとっても僅かな時です。精霊であるアルシュ様にはほんの瞬き程度の時間でしょう。」
テンション急降下のアルシュにイリュキナは子供に言い聞かせるように言葉をかける。
・・・いや、見た感じはそれで全く間違っていないのだけれど。
「でも、そうね。自分の力で旅をするってソーキと約束したのだもの。頑張るわ。
よろしくね?センセイ。」
イリュキナの言葉に先の決意を思い出したアルシュは気を取り直して、ペコリとイリュキナへと向き直り頭を下げた。
「は、はい。私もうまくお教え出来る様に頑張りますわ。」
イリュキナは自分の百倍以上を生きる泉の精霊に頭を下げられ先ほどの勢いを忘れ、硬い口調で答えるのだった。
ちょっと説明回的な感じになってしまいました。
というか、まだ森歩いてなかった。




