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僕と彼女の反省会

「やっぱり、上から見るのと実際に歩くのでは大分違うのね。」


アルシュが初めての旅から帰還した翌日。

僕と彼女は泉の隣で今回の旅の反省会を開いていた。


「ごめん。地図も準備しなきゃいけなかったね。」

「何故だか分からないけれど、もし有ったとしても同じ結果になった気がするわ。」


水辺に腰かけ、泉を足でチャプチャプと揺らしながらアルシュが答える。


―考えてみれば当然のことだ。

アルシュはこの世に生まれてから、文字通りずっとこの場所で暮らしてきた。

世界樹になる前の僕に毎日水を与え続け、守り続けた。

僕が世界樹になってからはずっと隣で森の外の変化を見続けた。


そんな彼女の方向感覚が一般的なものより少ーしだけ鈍いのは、仕方のないことなのだ。


「まずは森を抜けない事にはどうしようもないよね・・・。」

「そうね。せっかくソーキが作ってくれた旅装束も無駄になっちゃうわ。」


「やっぱり、僕が上から見ながらナビゲートしようか?」

―これぞ、世界樹GPS!

「ダメよ。全部ソーキに頼ったら、不甲斐無いじゃない。

 私が自分で言い出した事なのだから、出来るだけ自分の力で解決したいわ。」

「そうは言ってもさぁ・・・。」


アルシュは頑として譲らない。

これは旅に出るときに、彼女が言い出した事だった。

緊急時や雑談のおしゃべりを除いて、旅の行程自体はなるべく自分の力で対処したい。

アルシュにそう言われたとき心配ではあったけれど、余り過保護なのも良くないと思い僕は頷いた。

そして一先ず危険の無いこの森を出るまでは、彼女から目を離すことにしていた。


その結果があの旅の帰結である。


「じゃあ僕が森の地図を作るから、まずはそれを見ながら森を散策してみたら?

 その内、地図なしでも自由に歩けるようになるよ。きっと。」

「それも良いけれど、この森だってとっても広いのよ?それだけで何十年も掛かっちゃう。

 私たちに時間は関係ないけれど、他は違うわ。私が森を知るまでの間にどんどん変わっていく。

 私は今のこの世界を歩いてみたいわ。歩きながら、間近で変わっていく様子を見てみたいの。」

「うーん・・・。」


アルシュの気持ちは分かるし、ずっとこの場所で僕を育ててくれてのだ。出来るだけ望みは叶えてあげたい。

しかし僕の力は頼らずに、今すぐにとなると中々の難題だ。


「そうだ!ソーキの枝って先は森の外まで張っているでしょう?」

「え?うん」

「それを伝っていって、森の外のところで飛び降り・・「ダメっ絶対!」」

―最後まで言わせない!

「そう?名案だと思ったのだけれど。」


地上までどれだけあると思ってるんだ。

精霊であるアルシュなら大丈夫な気もしたけれど、それでも危ないことはさせたくない。

何より根本的な方向感覚云々の解決にはならない。



中々いい案が出せずに二人してウンウンと頭を悩ませること数日。

考え込み、段々煮詰まってきて「取り合えず、まっすぐ進む。邪魔な木は蹴り倒して進む」とかアルシュの思考が危ない方向へと暴走を始めたので、一旦休憩を取ることにする。

――彼女はどれだけ自分のローキックに自信を持っているのだろうか?


「うーん、このままじゃ二人とも良い案が出そうもないし、ちょっと考えるのをやめて休憩しよう。」

「・・・ええ、そうね。」


僕とアルシュは食事も睡眠も必要ないとはいえ、数日間頭を捻り続けたものだから流石に精神的な疲れを感じていた。

アルシュは立ち上がり、両手を上に伸ばしグーっと身体を伸ばして、ここ数日「考える人」みたいに動かずにいて固まった身体を解す。


そうして、気分転換に上へ行こうかと二人で移動しようとした時、泉の僕たちが居るのとは対岸に当たる先の茂みがガサガサと揺れた。

僕とアルシュがそちらに目を向けると、数人のエルフが居た。水浴びに来たらしい。


「あらアルシュ様、今日は気付いて下さったのですね。」


嬉しそうな声でエルフの一人がアルシュに声をかけた。


「え?気が付かない事なんてあったかしら?」

「先日来たときは聖樹様の前で座ったまま難しいお顔をされていて、私たちが声を掛けてもお気付きになりませんでした。」


どうやら僕たちが頭を悩ませている間にも水浴びをしていたらしい。・・チャンスを逃したなんて、断じて思ってないよ?


「そ、そうだったの。ごめんなさい。」

「いえ、良いんですよ。それより何か悩み事ですか?」


ばつが悪そうに謝るアルシュにエルフが聞く。


「ええ、実は・・・」


普段は彼女たちが水浴びに来ると楽しそうにお喋りに興じているアルシュにとっては、色々と話しやすい相手なのだろう。

―尤もエルフたちは二百年ほどで世代交代するので、彼女たちからするとアルシュは太古から存在する偉大な泉の精霊という認識だった。

とはいえ、幼い容姿をした親しみやすいアルシュの雰囲気もあり、代々敬われながらも気兼ねない付き合いが続いていた。

因みに僕は彼女たちと直接言葉を交わすことは出来ないので、アルシュから紹介だけしてもらい聖樹様と呼ばれている。

相変わらず、水浴びも除け者だ。ボク、わるいキじゃないよ!ざわざわ。


そんなエルフたちにアルシュは目下の悩みを説明する。


「なんだ、そんな事でしたらもっと早く言って下されば良かったのに。」

「えっ?」


アルシュは自分にとっての大問題を、さも簡単な事のように軽く返すエルフに驚く。


「私たちエルフはずっとこの森に住んでいるのです。森の事ならお手の物ですよ。

 方向おん・・方向感覚の養い方も宜しかったらお教えしますし。」


広大で深い森の中で生きてきた彼女たちにとって、周囲の情報から自分の位置を知るのはお手の物なのだろう。あと気遣いはとても大事。


「本当に?!ありがとう!」


思わぬ心強い助っ人の登場に、アルシュは久々にその幼い見た目相応の明るい声を上げる。


「ええ、もちろんです。古からこの地に生き続ける泉の精霊様に何かをお教え出来るなんて、光栄なことですもの。喜んで協力いたします。」


かくして道歩きの先生を得たアルシュは、早速翌日からエルフの先生―イリュキナと名乗った―と共に森へと出かけて行った。

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