表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/37

世界樹のお仕事の結果1

1.


世界樹から放たれ、大地へ海へと落ちていった光。

その無数の命の果実は未だ動く物の無い世界に変化をもたらす。


大地に最初に落ちた一番小さく、一番数の多いそれらは目に見えないくらい小さな無数の生物に姿を変える。

生まれた生物は土を食べ、栄養を得て排泄し地を耕す。

彼らは自分たちが弱い存在だと分かっていて、自身を分かちどんどんと数を増やしていく。

数を増やした彼らは少しでも遠くへと自分たちの世界を広げるべく、工夫を始めた。


ある時彼らの一部が重なり合い、上へ向けて分裂し伸ばした体の上部を傘の様に広げていく。広がった傘から自らの分体を飛ばす。

今までよりもずっと遠くに飛ぶことの出来た彼らはそこで同じように身体を伸ばし、なるべく遠くへと胞子を飛ばす。そうして世界を広げていく。


またあるものは競争に敗れて土の上を追われ、周りに生い茂る植物に活路を見出す。

幹の内側へと自らの体を伸ばし、そこから少しばかりの栄養を頂き、生を繋げる。

その内、自らの宿主を真似て注ぐ光を糧にし始める。


またあるものは自らの体を風に任せて新天地を目指す。


そうして彼らは数を増やし、形を変え、世界に広がり命を繋いでいく。



最初に落ちたものよりも少しだけ大きく、少しだけ数の少ないそれらは沢山の小指ほどの大きさをした生物に姿を変える。

彼らは地を這いまわり、自分たちよりも小さな生物を食べ、体の造りが僅かに異なる相手と繋がり、丈夫な殻に守られた子孫を産み落とす。

やがて彼らは土の中へ水の中へ、樹上へと生活の場を広げ、体はその環境に適応した形に変化していく。


ある時樹上で生きる彼らは、隣の木へと移ろうと考えた。

その中の一匹が足を目一杯曲げて飛び移ろうとしたが、遭えなく地上に落ちた。落ちた彼は地上で生きるかつての仲間に捕食され、命を落とした。

次に挑んだものも、その次に挑んだものも。―次も、次も。そうやって無謀な挑戦を繰り返していると、ある時背中の形が他の仲間とは違うものが現れた。

それは薄く広がり、一点で体と繋がっているそれをバタバタと動かしながら木より足を離す。

すると、その忙しなく動く体の一部が風を拾い隣の木へとたどり着いた。

羽を得た彼らは世代を経るごとにそれを使いこなし、形を洗練させ、自由に飛び回るようになっていく。


そうして彼らは生まれた場所から旅立ち、新たな地へとその命を伝え、繋げていく。



―ある果実からは翼を持つ生き物が生まれ、空を支配する。

―ある果実からは水辺に生まれ、水陸を自由に行き来する。

―ある果実からは四足で地を踏み歩き、草木を糧とするもの。それを狩り、血肉を糧とするものが生まれる・・・。



海の中でも同じことが起きている。

沈んだ小さな果実は無数の小さな生物に姿を変える。

少し大きな果実からは己の身を殻で守るものや植物の様に枝を広げて獲物を捕るもの。

水の中で呼吸をし、自由に泳ぎ回るもの。それを糧とするさらに大きなもの。水上を住みかするもの・・・。


ありとあらゆる生物が、それまで動く物の存在しなかった世界に生まれてゆく。


そして大地に落ちたある果実からは二本の足で地に立ち、器用な手を持ち高い知性を持つ生き物も生まれていた。




―世界樹から最後に放たれた、他とは一線を画す巨大な三つの果実。

山へ森へ海へと落ちたそれらは複数の生命を生み出した他の果実とは異なり、それぞれが一つの形に姿を変えていく。


―山の果実は雪にその身を囲まれて、徐々に姿を変えていく。

巨大な光球から四方に光が伸びていく。

一つは長い首から頭を形作る。

その両側の光は大きな翼を形作る。

後方の最後の光は長い尾羽を形作る。


そうしてその姿が形作られ、光が収まっていく。


そこには一羽の巨大な鳥の姿があった。

全長は百メートルを超えるだろうか。

全身は氷の様な透明感を持つ美しい青。

優雅に広げられた両の翼のその先は力強く天を衝く。

長い尾羽は先に行くほど扇状に広がり、見る者の目を奪う。

そして長く伸びた首の先には鋭く確かに理性を宿す瞳を擁する貌があり、鋭い嘴が続く。


生まれた巨鳥は遠く聳え立つ世界樹へとその目を向けると、全てを貫くような高く美しい声を上げた。



―森の果実は木々にその身を囲まれて、徐々に姿を変えていく。

巨大な光球はその生命力を内へと凝縮させるようにその身を縮め、発する光を強める。

光はゆっくりと楕円に形を変え始め、その中ほどから空へ向かって光が伸び、やがて美しい一角を造り出す。

光が徐々に収まっていくと、胎児の様に首を丸め足を折った四足獣が姿を現す。


それは目を開き、ゆったりと首を持ち上げ、立ち上がる。


そこには一頭の巨大な獣の姿があった。

体高は50メートルを超えるだろうか。

全身は輝くように眩しいほどに白く。

優しく大地を踏みしめる四つの蹄。そこから伸びる逞しく長い脚。

しなやかな筋肉が光沢を放つ胴体。

絹糸の様な光沢をした、美しい白銀の鬣が、尾がフワリと靡く。

そしてその鬣が飾る首の先には、優しく穏やかな光を宿す瞳を擁する貌があり、額からは見事な一角が伸びる。


生まれた巨馬は遠く聳え立つ世界樹へとその目を向けると、生まれた森が騒めくように力強く嘶いた。



―海の果実は水にその身を囲まれて、徐々に姿を変えていく。

巨大な光球はその生命力を爆発させるようにさらにその大きさを増していく。

やがて光はその端に巨大な尾びれを造り出す。

水底の闇を消し飛ばしていた光が収まると、そこには黒く巨大な体が現れる。


そこには一頭の巨大な鯨の姿があった。

全長は二百メートルを超えるだろうか。

全身は全てを抱く様に黒く。

その体の四分の一を占める口は開けば全てを飲み込むだろう。

余りに巨大なその身がうねり、尾びれが海を掻きその巨体を一気に海面へと押し上げる。

口の上には厳めしく理知的な瞳が見える。


生まれた巨鯨は遠く聳え立つ世界樹へとその目を向けると、その頭頂部から空高く潮を吹き、大気が張り裂けんばかりの声を上げた。



―こうして世界は歴史を紡ぎ始めた。

書いている間ずーっと頭の中に「やつらの足音のバラード」がリピート再生されていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ