えいてぃーん
※ 【】はメールの文です。
ついに来てしまった。2月14日、バレンタインデーが。
学校があれば小春にアドバイスを聞けたのに
、残念なことに今日は土曜日だ。
小春には直接家に行けばいいよって言われたけど実は雅の家を知らない。
お兄ちゃんに聞くにも、理由を聞かれたら困るし…
どうしよう…。
ちょっと肌寒い午前8時半、ベッドの上で悶えるあたしの携帯がピコンと鳴った。
「ん、メールだ。誰だろ……み、雅!?」
【夕紀ちゃーん、起きてる??】
【起きてる。どうしたの】
返信はすぐにきた。
【あのさ、悪いんだけど、俺ん家来てくれない?風邪ひいちゃって体動かないんだ。こんなの頼めるの夕紀ちゃんしかいないから、お願い!】
「えっ……えぇぇぇぇ!」
なんてことをいきなり。私にしか頼めないって、冗談でしょ。
【雅の家知らない】
戸惑ってしまってこんな短い文しか送れなかった。
【はい、これ地図】
次に送られてきたメールには私の家から雅の住んでるアパートまでの道のりと、雅の部屋の番号が書いてある写真が付いていた。
どうやら、本当に雅の家に行くことになってしまった。
チョコは渡せるけど、風邪ひいてるアイツの看病をするってことだよね?
「ど、どうすんのよぉぉぉぉぉ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「こ、ここで合ってるよね?」
病人が書いたわかりにくい地図でなんとかそれらしいアパートに辿り着いた。
「えっと…203号室は……ここか」
おそるおそるインターホンを押す。
しばらくして足音が聞こえ、ドアが開いた。
「よ、よかった…。来てくれたんだね。とりあえず入って。」
パジャマ姿の雅がフラフラと中へ誘導する。
「で、私は何を…」
ドサッと雅がベッドに倒れた。
「んー、なに…か、食べたい…」
どうやらよっぽど体調が悪いらしい。
「もうっ。冷蔵庫の物使うからね」
スカスカの冷蔵庫の中にあった物でスープと、冷凍してあった白米でお粥を作った。
「雅ー、できた…よ」
再び寝室に入ると、そこには爆睡している雅の姿。こんなに弱っている雅を見るのは初めてだ。
ベッドの横で膝を付いて雅の寝顔を覗く。
「やっぱり顔はいいんだよなー」
シミ1つない頬を指で軽く押す。
「…ん……」
「やばっ」
起こしそうになって慌てて手を引こうとすると、いきなり手首捕まれ、引っ張られた。
「え…」
今の状態は私が雅の上に乗っかっているという危ないやつ。
なんとか体を起こそうとするが、いつのまには雅の腕が私の背中をガッチリと抑えている。
もがいていると雅の目が開いた。
「夕紀ちゃん、無防備すぎない?」
その口ぶりはさっきから起きていたかのようで…
ん、起きて…いた…?ってことはさっき言ったこととか、ほっぺ触ったこととか全部バレてる?!
「俺の顔いいと思ってくれてたんだね~」
「あ、いや、それはー、その…」
やっぱりバレてるし。
「そっ、それより!離して」
「やだ」
「なっ、困るんだけど!」
「寒いから、しばらくこのままでいて?」
「ダメダメダメダメダメ。ほ、ほら、スープとお粥冷めるでしょ!早く起きて!」
「仕方ないなー。夕紀ちゃん、食べさせてね」
「無理!」
なかなか離してくれない雅にいつも以上に動揺を隠せない私。
「じゃあ、離さないし、何も食べれない。」
「あーもう、わかったから。とにかく離して!」
「はーい」
駄々をこねた雅に負けた私は、ものすごく顔を赤くしながらスープとお粥を食べさせることになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ…」
雅にスープとお粥を食べさせ終わり、やっと冷静に皿洗いができる。
冷たい水も気持ちよく感じるほど、さっきまでの私の体温は高かったのだろう。
「皿洗いまでさせちゃってごめんね~」
悪びれのない声が寝室から聞こえた。今はすっかり熱が下がって漫画を読んでいるようだ。
「あ、チョコ忘れてた」
皿洗いを済ませて鞄の中からラッピングしてある生チョコを取り出して雅のいる寝室へ。
「ん、美味しいごはんありがとね。もう、帰っちゃう?」
「うん。はい、勉強教えてくれたお礼」
目も合わせずに生チョコを渡す。
「今日バレンタインデーだったこと忘れてた~。今食べていい?」
「ど、どうぞ」
嬉しそうに生チョコを口に入れる姿に可愛いと思ったのは絶対言わない。
「んっ、美味しい。ありがとね」
「こ、これぐらい、誰でもできるわよ」
素直に「どういたしまして」が言えないあたしは本当に可愛くないな。
「ねーねー、ちょっとこっち来て」
にこにこしながら手招きされる。
「な、なによ」
「いいからいいから」
ぐいっと腰を引かれ、雅の顔がアップになる。
「ちょっと、なにすん…んっ!?」
更に雅の顔が近づいたと思うと、あっという間に雅の唇があたしの唇に触れた。
息継ぎができなくて、雅の胸板を叩くとやっと離してくれた。
「ぷはーっ、いきなり何するの!?」
「あはは、看病してくれたお礼」
「び、びっくりするでしょ!も、もう帰るからっ。お大事に!」
鞄を握って玄関まで走る。勢いよくドアを開けると気付かなかったけど雅も付いてきていて、
「夕紀ちゃん、ごちそうさま♪夕紀ちゃんの唇、美味しかったよ~」
「なっ!」
ニコニコしながら手を振る雅を背に恥ずかしくて何も言えないまま猛ダッシュで家に帰った。




