とぅえるぶ
目が覚めると、すぐ近くに雅の顔があった。慌てて離れようにも体をがっちりホールドされていて、離れられない。
働かない頭をフル稼働して、昨夜のことを思い出す。おそらく午前1時くらいまでゲームをしてそのまま寝てしまったのだ。
どうせ逃げられないならと私は寝ている雅の胸におでこをつけて、もう1度眠りについた。
コイツが寝ている間だけ素直になってみようと思って。
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午前8時。
御山家の休日はだいたいこの時間から始まる。
そして、今は朝ごはん中。
「夕紀どうしたの、食べてないけど」
お母さんが心配そうに私の顔を見た。
「アイツは」
「雅か?朝ごはんまで頂くのは悪いって朝早く帰ったぞ」
お兄ちゃんが白米を大きな口に頬張りながら言った。
「気にしないでよかったのにねぇ」
「あっそ」
あの後、再び目を覚ました時にはアイツはいなかった。
気にするなと自分に言い聞かせて白米を口に入れるが思い浮かぶのは雅の寝顔。
「…ごちそうさま」
「あら、もう終わり?」
「うん、もうお腹いっぱい」
バタバタと階段を上って部屋に入り、ベッドにダイブした。
「ぁぁぁぁぁー!」
枕に顔を当てて思いっきり叫ぶ。こもった声になって全くスッキリしない。というか、何にモヤモヤしているのかすらわからない。
ガバッと起き上がって机の引き出しを開ける。
中には可愛らしい袋。
袋から中身を取り出してぶらんぶらんと揺らして見る。
黄色とピンクの女子らしいミサンガが朝日に照らされながらゆらゆら揺れる。
「…可愛い。でもどこにつけよう」
長谷…じゃなくて、雅に貰った物だと思うと頬が緩んで、そして恥ずかしくなった。赤くなった顔を隠すように左手首にミサンガを縛る。
「似合わないなー」
小春なら似合うのに、と手を天井にかざしながら思った。
「はずそっ」
雅には申し訳ないけどあたしが付けるとミサンガが可哀想になってくる。結んだ紐を解くために結び目に手をかけた。
「…ん…ヤバッ!取れない!?」
無意識に複雑な結び方で縛っていたようでいっこうに結び目が解けそうにない。何度か挑戦したものの不器用なあたしには手に負えなくてハサミで切ることも考えたが、さすがにそれはできなかった。
「うーん、仕方ないからこのままにしとくか。」
すごく違和感や羞恥があるけれど、いつか慣れるよね。




