さーてぃーん
短い冬休みはあっという間に終わった。そして今日は3学期初日。
「眠い…。あ、小春おはよ」
「おはよっ。ん、寝不足?」
「あー、うん。遅くまでゲームしてた」
雅と一緒にしたゲームにすっかりハマりきってしまって、夜な夜なテレビ画面を見すぎた。おかけで、頭がぼーっとするし眠い。
「ちゃんと寝ないとダメだよー」
小春が私の寝癖を直しながら心配してくれた。
「うん。合宿はどうだった?」
「楽しかったよ~。でも、ずっとスキーしてたから指先のしもやけが大変!」
「あはは、雪の中だもんね。お疲れ様。」
「ふふっ、ありがとう」
いつも思うけど小春がいるだけでその周辺の空気は暖かくなってるような気がする。
「ふぁぁー、眠いっ」
左手を口元に当てたために、制服の袖が下がり手首がさらけ出された。
「あっ!そのミサンガ、もしかして」
「うん、雅がくれたやつ」
隠してたわけじゃないけど、見られるのは恥ずかしい。
「可愛いじゃんっ。あっ、そうだ、夕紀に貰ったウサちゃんリュックに付けてるの~」
「本当だ、ありがと~」
あの時に選んだストラップ付きのマスコットを嬉しそうに見せてくれた。
「大事にするね!」
「うんっ」
小春がいてくれて、私は今日も幸せです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うわー」
山下君と帰る小春を見送り、図書室で勉強してから学校を出ると大粒の雨が音を立てて降り注いでいた。
『夕方から雨が降るでしょう』って朝のニュースで言ってたけど無視してきたから傘はない。天気予報って当たるんだなーと感心していると更に雨が強くなった。
天気予報士を尊敬している場合ではない。もっと酷くなる前に帰らないと。
私は鞄が濡れないように胸に抱えて猛ダッシュした。といっても私の精一杯のダッシュなんてたかが知れている。
運動部から見たら亀レベルの走りで家までの最短ルートを進む。
「ハァッ…ハァハァ……もっ、ダメだ…」
歩いて帰るとあと10分の所で息切れが限界を迎えた。そりゃあそうだ。帰宅部のあたしがここまで頑張ったことを褒めて欲しいくらいだ。
とりあえずバス停の屋根の下で雨宿り。しばらく、一向に止まない雨をぼんやり眺めていた。
すると突然隣から「夕紀ちゃん」と聞こえた。
「え?」
「はははー、どーも」
ニッコニコの雅があたしに手を振った。
「何でいるのよ」
「散歩してたらビショビショの夕紀ちゃんがいたからさ」
「こんな雨の中散歩?」
「俺、雨好きだよー」
冷たくて気持ちいじゃん、と雨を眺める雅が呟く。
「そう。雨、止みそうにないからもう行くね。」
濡れることはもう諦めるしかないだろう。どうせもう濡れてるし。
「傘持ってっから入ってきなよ」
紺色の傘をくるくる回しながら雅のが言った。
「走るからいい。」
「だーめ。風邪ひくよ?」
「もう濡れてるから今更遅い。」
「わかったわかった。素直に入ってきな、ね?」
雅の「ね?」は、頷きたくなる。私は自然と首を縦に振っていた。
雨の音が2人の呼吸音も、雅が私に話しかけた時の私の相槌も打ち消していった。
「はい、着いたよ。」
「うん……ありがと。」
「ん、雨の音でよく聞こえない。もう1回言って。」
本当なのか嘘なのかわからないけど、まあいいかなって思って
「ぁ、ありがとう」
今度はちゃんと言った。
「うん、どういたしまして」
満足気な雅を見て私まで表情を緩めていた。 おっと、危ない、また、雅のペースに流されてる。
「じゃっ、じゃあね」
逃げるように家の扉を開けた。
「ばいばーい」
明るい雅の声を背中に受けながら。
玄関で靴も脱がずに扉にもたれかかってふと思った。
どうして雅は私に優しくしてくれるのかを。私は雅の周りにいる女の人達より可愛いわけでもないし、もちろん言うことにも可愛げがない。
それなのに、ミサンガを買ってくれたり家まで送ってくれたりする理由は何なのか。
まったくもって謎だ。
「何してるの、そんなところで。全身ベチョベチョじゃないっ、すぐお風呂入りなさい」
「う、うん」
お母さんに言われて廊下が濡れないように最低限注意してお風呂まで行った。
わけがわからなくて浴槽のお湯をバチャバチャと手で叩く。顔にかかる水しぶきが鬱陶しくて叩くのを止めた。
小春はそうだって言ってたけど本当に雅のこと好きなのかな?
優しくされて勘違いしているだけかもしれない。
そもそも雅はどうしてあんなに親切なんだ。
お兄ちゃんの妹だから?
それだけで送ってくれたりするものなの?
考え出したらキリがない。
でも、もし妹だからって理由だけじゃないのなら……
ダメだダメだ。そんなこと考えちゃ。
雅はチャラチャラした女たらしで、どうせ女にはみんなこんな感じなんだ。
ごちゃごちゃしてきた思考を無理矢理終わらせてあたしはお風呂を出た。




