司令部の悲劇
「やめないか! 司令部を壊し、大勢の軍人を殺したところで何も変わらん!」
「変わります……。司令部が一つ、消えるんです。新しいのを造ることは出来ますが、全く同じものは造れないのだから」
「意味のない事をするな!」
ライドはハリーを押さえ込むが、ハリーの破壊衝動を抑えることは出来ないでいた。
「司令部を、軍人を守りたければ、この俺を殺してみてくださいよ? 出来るものなら」
「ハリー!」
キリナの銃口が、ハリーを捉える。銃口を向けられたハリーは、ケラケラと笑っている。
「そんな震える銃で、俺を撃てるんですか?」
「ハリー……どうして!?」
「〈精進の儀〉も所詮は、軍の兵士の見定め事。あんな元帥みたいなのが続けば、本当に戦争が起きる」
【ハリー曹長。聴こえるかね?】
「これは元帥殿。声だけでもこの威圧感、流石だ」
【こんな事をして、只で済むと思っているのかね】
「思ってませんが、それが何か? 今の俺ならば、元帥殿を殺すのは容易いのです。偉そうな言動は謹んで貰いたい」
【なんという!】
「……本当に元帥なのですか!?」
【誰かね】
「カムール司令部所属、ライド大尉です」
【ライド大尉? カムールに居る筈の君が何故?】
「元帥。貴方に確かめたいことがあります! ギルフォードに殺しを仕向けたのは確かですか!?」
【……そうだが】
「何故ですか! 軍認を洗い直す為なんですか!?」
【そうだ。今在る軍認の情報は古くてね。ギルフォードに敵った者を軍認と改めようとしたのだ】
「どうしてギルフォードだったのですか!」
【君の弟だったからだよ、ライド大尉。彼は、君が軍に居ることをよく思っていなかった。利用するには都合がよかった】
「そんな勝手な理由が通ると思っているんですか!」
【思っているとも。優秀な兵士を見極める為だ、仕方あるまい】
「くっ!」
「これで分かったでしょう? ライド大尉。このままでは駄目なんです。力ずくでも変えなきゃ駄目だ」
「……いや、駄目だ。やはり間違っているよ、ハリー」
「何故ですか!? あんな元帥の言葉を聴いたばかりで!?」
「力で、地位で、権力で。そんなことで変わった国に、君は住みたいのかね? それでは元帥と変わらんよ」
「なっ!?」
「それと元帥。貴方の口から直接、〈研究所の悲劇〉の詳細を発表してください。ご自身の過ちを、国民に告白してください。それが、貴方の助かる道でしょう」
【……いいだろう】
「ライド大尉!」
「これを公にすれば、元帥の地位は無くなる。一族の信用も無くなるだろう。ハリー、君が思い描く理想に近付くのではないかね?」
「しかし、ライド大尉。にょんちゃん大将達のことは!」
「そこはオブラートに包んでもらおう。にょんちゃん大将達は、〝被害者〟ではなく〝軍人〟だ。今の大将達を評価するべきだからね」
「お、俺は」
「君の処遇は、重いものになるだろう。ロイズ司令部だけでなく、仮にも国の元帥を監禁したのだからね。同情するところはあるが仕方あるまい」
崩れ落ちたハリーの肩に手を置くライド。
構えていた銃を退くキリナ。
司令部の揺れは治まり、閉じ込められていた者達が次々に出てきた。トーマ、セレン、クリスも駆けてきた。
「キリナぁ~!」
「こら、セレン。そんなに泣いては駄目でしょう?」
「だって怖かったん~」
「はいはい」
「ハリー……残念だ」
「トーマ」
「心強い仲間を失うことは……とても残念だ!」
トーマの身体が震えている。仲間に裏切られることは、軍という組織にとって痛手だ。トーマは、誰よりもハリーを信頼していた分、それを強く痛感したのだった。
※ ※ ※
【……以上が、十五年前に起きた〈研究所の悲劇〉の詳細である】
ラジオから流れる元帥の声。ライドとの約束を守り、元帥は全てを告白した。
その反響は凄まじく、軍へのバッシングも強くなってしまった。街を歩けば罵声を浴びされ、各司令部には連日、デモ隊が集まっていた。
「「軍を廃止しろ!!」」
「「戦争をするな!!」」
「「国民に自由を!!」」
その様子を窓から眺める二人。愛用の灰皿を机に置いて煙草を吸うライド。書類を片手に、ライドの横に立つキリナ。
「発表から一週間。まだまだ止みそうにはありませんね」
「当然だろう。元々、軍に不満を持っていた者も大勢居るんだ。仕方あるまい」
「……ハリー曹長……自主退役だそうです」
「穏便に済ましてきたか、元帥は。事を大きくしたくないのだろう……今の元帥は」
「元帥の進退はどうなるのでしょうか?」
「過去の問題を受けて元帥が変わる……。周辺諸国に対しての痛手は大きいからね。去ることは決定的でも、それを実行するには時間を掛けるのだろう」
「そんなに引き延ばしは出来ないと思いますが?」
「後任捜しが難航しているのかね」
ライドの口元が緩む。まるで何かを知っているのかのように……。




