バタバタ
「ウル。アンタはこれをあっち。メイルはそれをそこに置いて……」
「ティタちゃん、これはどうするのだ?」
「それは向こうの棚に仕舞って」
(ほう、感心するね。各自、役割を果たしている。効率よく動けているのは、ティタちゃんの観察力と洞察力のお陰だな)
「ライドさん。すみませんけど、この花瓶の水を替えてきて貰えませんか」
「ああ。お安いご用だよ」
ティタに頼まれ花瓶の水を替えに部屋を出る。こういう何気ない雑用も、キリナに任せっきりでいたことをライドは痛感した。
(今頃、少尉はどうしているか……気になるな)
ライドの視界に電話が入る。しかし、ライドはそのまま部屋へと戻っていく。
「替えてきたよ、ティタちゃん」
「ありがとうございます」
「少し任せて構わないかね? 私は用事があってね」
「分かりました。ちゃんと綺麗にしときますよ!」
「楽しみにしているよ」
ティタに伝えると、司令部の外に出る。
人が行き交う街の、誰でも使うことが出来る電話機に向かっていくライド。
※ ※ ※
「……もしもし。私だが」
【わたしわたし詐欺ですか?】
「そういう詐欺もあるかもしれん。注意したまえよ」
【確かに。充分に注意をさせてもらいます】
「まあ、冗談はその辺にしとこうか。世間話も構わないのだがね」
【何でしょうか?】
「何って、君の現状だよ。平穏無事……変わりないかね」
【はい。こうして会話が出来ますからね。生きていなければ成せません】
「それもそうか。……おや? 随分と周りが静かなようだね」
【ええ。ワタシ結構、箱入り娘みたいなのよ。なかなか外出も許されなくて。息詰まるわ】
「おやおや。では、この電話も結構取るのに苦労したんだろう?」
【それなりに苦労しました。今もお付きの視線が痛いわね】
「余程大事にされているんだね、君は」
【ホント、たまには羽を伸ばしたいものだわ】
「部屋でも羽は伸ばせるだろう?」
【ワタシの部屋、狭いのよ。知らなかった?】
「これは失敬。まだまだ君のことを知らないものだ。ああ……会いたいよ」
【ランチ時なら大丈夫だわ。お付きの人、色々忙しくてランチは一緒じゃないから】
「分かったよ。そっちに顔を出した際は、ランチを共にしよう」
【楽しみだわ。……ごめんなさい、お付きが五月蝿いの。仕事に戻るわ。書類を運ぶのが、自由になれる条件なの。失礼します】
ライドは受話器を置いた。ふぅーっと溜め息をつく。軍服のボタンを外す。電話機の隣にあるベンチに、腰を落とした。
(成る程……。外部との電話は許されているが監視付き。現在、任されている仕事は簡単な雑用で、その時くらいしか自由になれない。仕事中以外は、用意された部屋で寝起き、か)
ライドは、司令部へと歩いていく。
胸騒ぎを感じつつ、キリナの無事を祈っていた。




