疾走
充分に満足したのか、ティタもメルも笑顔でいた。
会計を済まそうと、〈送迎書〉を取り出して立ち上がるメイル。だが、店内はそれどころではなくなった。
「食い逃げ!」
店員の大きな叫び声が響く。食い逃げ犯は、その声に驚いて走っていく。
「こんな店で食い逃げとはな。たまげたって」
「何を悠長に言っている。ウル、追い掛けろ!」
「しゃーない!」
ウルの左目が光る。ギルから譲られた左目で、穴を呼び出して追っていく。
追い掛けられている食い逃げ犯は、その状況を飲み込めずにいたが、ウルの方を向くや、水の塊を放ってきた。ウルの目に水が掛かる。その隙に逃げていく食い逃げ犯。
「核師か!」
穴を掻い潜りワープしていくウル。あっという間に食い逃げ犯に追い付く。食い逃げ犯は、水の塊を放ってくるが、ワープで背後に回ったウルに対応出来なかった。
「観念しろって!」
「瞳術使いか。厄介なやつに追い掛けられていたんだな。ツイてない」
「さあ、大人しく店に行け。ちゃんと払うもん払えって」
「ガキが偉そうに。付け上がるな!」
食い逃げ犯の身体が水に変わる。一瞬の出来事に驚いているウルの隙を突いて、食い逃げ犯はそのままウルを包囲した。
「このまま溺死しろ。ツイてないのはお前だったな」
(くっ!?)
必死に脱出を試みるものの、呼吸が出来ない為、意識が朦朧としていく。遂に、ウルのもがきも力尽きてしまった。
《ウル!》
(声……誰だって……?)
《私に告白させといて、勝手に死んじゃうなんて許さないよ!》
(告白……。そうだ俺、ティタに告白されたんだ)
《ウル!》
(お互いに好きだって言えたのに、恋人らしいことしてないや)
《ウル!!》
(……そうだ……死ねないって! 俺、まだまだやりたい事が沢山あるんだ! 死んでたまるかって!)
液状化した食い逃げ犯が沸騰している。
ウルの、生きたいと思う〝想い〟が湧き上がる。
「た、堪らん!?」
堪らず液状化を解いた食い逃げ犯。
食い逃げ犯の目の前には、青い炎を纏ったウルの姿があった。
「今度こそ観念しろ! もう水は効かないって!」
「そうだな。お前には無理みたいだ」
ニヤリとする食い逃げ犯。再び液状化すると、ウルの背後に居た三人に襲い掛かった。
((!?))
「さあ苦しめ。ガキが付け上がりやがって。仕置きしてやる!」
「ティタ! メイル! メル!」
内側からなら安易な沸騰も、外側からだと時間が掛かる。殴り掛かるウルだが、上手くいかないでいた。
「離れていろ!」
「え!?」
ウルに叫ぶ声。聞き覚えのある声に従い後退する。その姿を確認したウルは、変身を解除した。
「私の仲間に手を出すとは、いい度胸だ。私の稲妻に、その水の身体は耐えきれるかね?」
激しい稲妻が光り轟く。食い逃げ犯の液状化が解ける。咳き込む三人を確認し、食い逃げ犯へと近付いた男性は、余裕の笑みで勝ち誇った。




