思惑
ウル達とギルとの戦いから少し遡る。ウル達とロイズで別れたライドは、報告の為に司令部へと来ていた。
「……以上が報告になります」
「取り逃がしたか。折角昇進させてあげたものを。早速の期待外れだ」
「申し訳ありません」
「まあいい。どうせもう君には関係のない事だ」
「はい?」
ライドに背を向けて語っていた男性が、ライドの方を向いた。目だけで相手を殺せてしまいそうな程の眼力を放つ男。ライドに一枚の紙を手渡してきた。
「君には、カムール司令部へと異動してもらう。北の方角の街だから、厚着をオススメするよ」
「カムール!? 片道一日は掛かるではないですか!」
「おや、そんなに都会に用かね?」
「納得いきません!」
「納得してもらわなければ困るよ。私の一声がなければ、君の首は決定的だったのだ。軍服を着れているだけでも、有り難く思ってほしいところだ」
「何故ですか!」
「指名手配犯と君は兄弟というではないか。そんな公私混同は見逃せんよ」
「!?」
「何故知っている、という顔だね。軍も落ちぶれてなどいない。身内の事を調べるなど造作もない」
「……わざわざ私を調べたのは何故です!」
「内部から、最近の君への不満が漏れていてね。そんなとき、風の噂を耳にしたのだよ。『ライド大尉は、指名手配犯と繋がりがある』とね」
「誰がそんな事を!」
「……言っただろう……風の噂、と」
男は立ち上がり、ライドに異動を言い渡す。カムールに行ってしまうと、容易くとんぼ返りとはいかない。何度も食い下がるものの、押し切られる形となってしまった。
「くそっ! 一体何がどうなっている」
渡された紙を丸めるライド。自分の事を噂として流したのは誰なのかも気になったが、わざわざ偏狭の地に異動を命じてきた上層部も気になった。
(これではギルフォードを追えん! キリナ少尉に協力を……いや、何だか軍そのものがきな臭い)
「どうった? そんな恐い顔して」
「つ!? ……なんだ君か、アルン。済まない」
「大将の部屋の前でどうったのよ? うん? 今日はキリナと一緒じゃないの?」
「さっきまで一緒だったが。それがどうかしたかい?」
「ここ最近、ますます射撃訓練に精を出しちゃってさ。男を作れっても聞き耳持たないの。色々と勿体無いって言ってんだけど」
「少尉は少尉で忙しいからな。なかなかプライベートにまで気が回らんのかもしれない」
「それを分かってて引き抜いたあんたも鬼だね。キリナに貰い手が見つからなかったら、責任を取ってあげれば?」
「その点については心配要らなくなったよ。私は異動を命じられたんだ。カムールだよ」
「カムール!? 一日位掛かるんでしょ、あんたも災難ね」
「朝発って翌朝に到着だ。やれやれだよ」
「そうか……じゃあ簡単にはこっちに顔を出せなくなるって訳ね……怪しい」
「うん?」
「どうせ異動を命じるんなら、あんたが昇進するときに命じればよかったんじゃないの? 何だか妙よ」
「私の事を調べあげたらしくてな。指名手配と兄弟であることがバレてしまった」
「そんなの、数日の自宅謹慎とかで済む話。公私混同を避けさせるなら、その件から外せばいいだけ。異動というより、厄介払いに近いわね」
「厄介払い、か」
「指名手配中の何人かは、その捜査が打ち切られているの。あんたが追っている指名手配犯の捜査も時間の問題かも」
「なんだって!」
「しかも、打ち切りは元帥の命令。まさに鶴の一声ってわけ」
「それは確かに妙だ」
「まっ、あたしに出来る事があれば協力するよ。ただ気を付けな……大将クラスは危ないよ」
そう言って立ち去っていくアルン。彼女なりの気遣いだったのだろう。ライドは、辺りを警戒しながら自分の部屋へと入っていった。




