メイル:追跡
翌朝。メイルは、メルを起こしに隣の部屋に向かった。ノックをして応対を待つ。が、一向に出てくる気配がない。昨日の如く、自分に抱き付いてくると思っていた分、余計に不安になる。
「オイ! この僕が、わざわざ起こしに来てやってるんだぞ。僕がノックをしたら有無を言わず起きるのが筋だ」
まったく反応がなく、ノブをガチャっと廻す。するとどうだ。鍵は掛かっておらず、靴も見当たらない。当のメルの姿も消えていた。窓が開いたままになっており、カーテンが靡いている。
「冗談……ではないか」
特に部屋は荒らされておらず、争った形跡も見受けられなかった。ここはホテルの三階。まず、十歳の女の子が飛び降りて無事な高さではない。
「連れ去りか? 彼女を連れていくとは物好きだ」
昨日買ったクッキーやビスケットが、テーブルに置かれていた。食べ掛けの状態で。
「面倒だが、捜さない訳にはいくまい」
メイルは、ホテルを出て走り出した。アテがあるわけではないが、走らずにはいられなかったのだ。
(争った形跡はなかった。つまり、顔見知りの仕業)
昨日の靴屋の通りへ。相変わらずの商の賑わい。骨董品や金物を買っている人が大勢いる。街の人達に訊いて回るが、有力な情報は得られずにいた。
「クッソッ!」
汗を滴ながら、走り続けるメイル。そんなメイルの体力は、徐々に奪われていく。飲み物を買い、喉を潤す。しかしながら、そんな簡単に体力は戻らない。
「本当に世話が焼ける。昨日の今日で僕をこんなに振り回すとは……」
(このまま、独りで旅に出るのもアリか)
諦めの溜め息を吐いたとき、メイルの視界に金髪の少女の姿が飛び込んできた。『メル!』と叫び呼び掛けるが反応がない。仕方なく近付いていくメイルだが、徐々にその距離を離していく。
「いや、このままでいい」
自分に黙って行ったのは、〝さよなら〟ということだろう。と思ったメイルは踵をかえした。
《助けて》
「? ……何だ」
《助けて!》
メイルの左目に声が聴こえる。必死な、涙声の少女。その声は次第に大きくなってくる。メイルの胸騒ぎが、心臓の鼓動となって高鳴る。
《助けて……なのだよ!!》
再び踵を返した瞬間、メイルの拳は男を殴り飛ばしていた。背中で、『ありがとうなのだよ』と呟く少女に、メイルは一安心した。
「知り合いか?」
「一応、パパ」
「なんだと!? オイ、聞いてないぞ」
「言ってないもん。当然なのだよ」
殴り飛ばされた男は、ゆっくりとメイルの方に向かってくる。笑顔を装ってはいるが、恐らく笑ってはいない。
「メル、駄目だろう? 友達を利用しちゃあ」
「利用じゃないのだよ。それにメイルは〝友達〟じゃないのだよ」
「じゃあなにかな?」
「ボクの将来の旦那様、なのだよ」
「「は!?」」
動揺するメルの父親とメイル。そんなこと、メイルは認めた覚えはない。完全に寝耳に水のことでメイルは混乱する。メルの父親は、余程ショックだったのか、その場に塞ぎこんでしまった。
「オイ、どうしてそうなる!?」
「昨日、ボクに抱き付かれて照れたじゃん。ボクのこと、好きなのだろ?」
「あ、あれは……いきなり女の子に抱き付かれたからで……」
「娘に手を出したのか!」
「違う! 断じて違う!」
「野蛮な獣がぁ!」
「違あああ……う」
メルの父親からの執拗な問い詰めにメイルは、必死に否認するしかなかった。




