ウル:初めての野宿
「なんだよこれぇー!」
ティタとメイルと別れてから一時間。
変わることのない風景が、十歳のウルには堪えるようだ。さっきまでの威勢の良さは消えていた。
「俺、くじ運悪いしなぁー……ハズレ来ちまったか」
長閑と言えば聞こえはいいが、悪く言ってしまえば殺風景。そんなところを歩いていれば、ウルの気持ちも分からなくはない。しかし、見晴らしがいいことは、危険をいち早く察知出来るのだから、ウルにとっても悪い道ではなかったりする。
「街どころか集落も無いって……、あー! 退屈だぁ!」
腰にぶら下げていた水筒を開けてがぶ飲み。自棄酒ならぬ自棄水といったところか。しかもこの行為が、ウルを追い詰めることになろうとは、ウル自身知るよしもない。
それからもウルは歩き続け、遂に力尽きた。
出発から三時間。足に限界がきていた。
「しゃーねぇー。何か実ってるのを食うか」
道から続いている森を抜ければ、街に辿り着けるという希望を胸にウルは森へと歩み出す。まだ陽は昇っている筈なのに、森の中は暗闇だった。
「太陽の光が入らねえからよく見えないって」
生い茂る樹木を避けながら進んでいく。ウルの疲労も限界を迎えていたが、空腹も限界を迎えていた。
ようやく見つけた実をもぎ取ると、一心不乱に頬張った。
「……あー、危なかった……。さっき水を一気に飲んじまったから、喉が渇いて堪んなかったぜ。さて、足が痛くて歩けないし、仕方ないが野宿だな」
実のなっていた木にもたれ掛かると、疲れと満腹感からきた眠気に勝てずに眠ってしまう。その為、森に潜んでいる獣の存在にウルは気付かずにいた。
そして、気付けないまま、ウルは夜を迎える。
の光は森には届いていなかった。
「……寝ちまった?」
寝惚けていたが、夜風の冷たさで目を覚ます。
同時に気配も察した。夜の森は静かだ。枯れ葉を踏んだ音ですら大きく響く。ウルは、静かに立ち上がり摺り足で気配の方に進んでいく。
(何なんだ? 猛獣の類いか?)
確実にウルの方へ〝音〟は向かって来ている。
そのことを感じ取っていたウルは、歩みを止めた。
(俺の匂いを嗅ぎ付けて来るか……それとも諦めて去っていくか)
ウルは思わず唾を飲み込んだ。〝音〟は離れていく。ウルは溜め息をついた。その気を抜いた瞬間、ボトッと音が立つ。
(なっ!?)
ウルの心臓の鼓動が高鳴る。熟しすぎた実が重くなって落ちたのだ。離れていた〝音〟が反応して迫ってくる。
(ヤバいヤバいヤバいって!)
枯れ葉が軋む音と共に〝音〟の正体がウルの目前に現れた。その正体は、猛獣とはかけ離れた姿で、殺気とも縁遠い姿をしていた。
「にゃ~」
「……猫……だと!?」
ウルは緊張の糸が切れたのか、その場に座り込む。
そんなウルの足元に身体を擦り付ける猫。月明かりが夜空を照らしているなか、ウルは猫と共に一夜を越したのだった。