弟子の居ぬ間に
夜空に星が瞬き始めた頃、ショウは一人、街を見張っていた。〝左目を閉じた少年〟が、いつまた現れるか分からないからだ。自分の弟子となったティタに余計な不安を与えたくなかったのもあり、ダイにすら何も告げずに出ていた。
「この街は、相変わらず活気があるの。夜だというのに賑わいが止む気配がないの」
〝左目を閉じた少年〟が現れた場所に到着する。
特別変わった箇所はなく、手掛かりとなるようなものもない。
「うーん」
蓄えた髭を触りながら考えるショウ。しかし、頭を働けさせながらも、背後から迫る気配に身体は反応した。ショウを付けていたのか、暗闇だというのに全く迷いがなかった。
「不意討ち、かの? なかなかの忍び具合じゃった」
「いつから気付いていた?」
「宿を出た瞬間からじゃの。気配は消せても、殺気は消せなかったようじゃの? ……少年」
「食えないジイサンだ。賢い年寄りほど面倒な奴はいない。ジイサンは面倒だ」
「少年。今日の一件、どういった狙いがあった?」
「ジイサンには関係ない。オレが、何をしようとオレの勝手だ。オレの邪魔をするのならば、加減はしない。自己責任だ」
「相手の目的も知らずに邪魔立てをするつもりはないの。ワシの流儀じゃ」
「そっ。律儀な分、余命が縮んだなジイサン。オレに気遣いなんかしたのが、運の尽きだ」
閉じた左目を開ける少年。瞳は金色に輝き、夜の空間ではいっそう目立つ。少年の手は、あっという間にショウの首を掴んだ。だが、少年とショウの距離は、大人の腕で二本分は開いていた。
「オレとジイサンの勝負は、始まる前から終わっていたのさ。これが、オレとジイサンの〝差〟だ」
少年の手に力が込もる。首を締め付けられているショウの頭は冷静だった。ショウは、足下の小石を槍に生成した。
「核使いだったか。まあいい、窒息させて終わりだ」
(ふん!)
「ぐっ~!?」
ショウの石の槍が、少年の手を貫いた。流れる血。
「動きを封じさせてもらうのじゃ」
少年の足にも槍が刺さる。膝を付いた少年だったが、その顔には余裕があった。少年は、足に突き刺さっている槍を引き抜くと、何処かへと放り投げた。
「なんのつもりじゃ?」
「ジイサン、アンタは賢い……が、賢いばかりに、現実に囚われている……。それが……」
「!?」
「……オレとジイサンの勝敗の〝差〟だ」
倒れこむショウ。そのショウにはもう、少年の姿は見えていなかった。声は聞こえていなかった。
「あばよ、ジイサン。良い〝暇潰し〟にはなった」
背中から槍を貫かれたショウには、少年の感想も届かない。心臓も貫かれたショウにはもう、朝日を拝むことは望めない。
ショウの無惨な姿とウル達が対面するのは翌日のことだった。




