ティタ:片鱗
一夜明け、ティタはショウと共に建物の屋上へと来ていた。
「やはり高い場所の風は気持ちいいの。そうは思わないかね? お嬢ちゃん」
「はい。なんというか……風に新鮮さを感じます」
「ほう。面白い例えをするの。ワシにもいい感性があれば、良い例えが出来るのだが」
蓄えている髭を触りながら考えるショウ。風を受ける度にティタの茶髪が揺れる。静かに時間だけが過ぎていく……。
「あのー」
「……おっ!? こりゃあ済まない。ついつい考えに耽ってしまった。お嬢ちゃんの修業の為に来たのにの」
「私は何をしたらいいの?」
「お嬢ちゃん、目を閉じて……立ったままだよ」
「わ、分かりました」
ショウの言った通りに目を閉じるティタ。彼女の視界は真っ暗になり、情報は音だけになる。
「お嬢ちゃん、何か見えたかね?」
「い……いえ……何も見えないです」
「そう。それが当然の結果じゃ」
「え?」
ショウの考えが解らず困るティタ。その様子を見ながら、ショウは笑みを浮かべていた。
「そのまま両手を合わせてごらん」
言われるがままに両手を合わせるティタだが、状況は一切変わらないでいた。いくらショウの指示とはいえ、訳の分からない事をされ続ければ、流石のティタでも疑問が湧く。
「ショウさん。あの、この行為は修業になってるの?」
「どういうことかな?」
「私、何か変化が起きると思っていたのに全く何も変わってないから、流石に疑問が湧きます」
「お嬢ちゃん。そこまで言うのなら、目を開けて構わないよ。両手も離していい」
ショウの許しを得たティタは、目を開けようとする……が、目は開かず、合わせていた両手も離れない。
「ど、どうして!?」
焦りからか額に汗をかいている。自分の身体なのに自分の思い通りにならない身体。ティタはどうすることも出来ずにしゃがみ込んでしまった。
「諦めてしまうのかね。そのままでは、一生不自由なままだ。それでもいいのかね」
「嫌です! 嫌です……こんな……!」
「諦めては駄目だ。お嬢ちゃんが諦めたらそれまでだよ。ワシの顔を見てみなさい」
そう言われても開けない目。離れない両手。その状況に追い込まれ、遂にティタが涙を流した。
「私……わ……たし」
ティタの視界に光が戻る。両手も離れて自由になる。訳が分からず混乱するティタの頭を優しく撫でたショウは、ティタに笑顔を見せた。
「お嬢ちゃんの涙が、全てを溶かしてくれたようだ。良かったの」
「一体、何がどうなって!?」
「済まんの。今のは、核を目覚めさせるのに手っ取り早い方法じゃったんだ。けど、まさかお嬢ちゃんを泣かせることになるとは思わなかったんだ。済まなかったの」
「私なら大丈夫です。それで……私は?」
「無事に核を得ただろう。得るだけなら苦労は少ないんじゃ。大変なのはこれからだがの」
(私、核を習得したの? 全然実感ないよ)
「……何やら地上が騒がしいようだ。誰かが暴れているのかね?」
「そんな!」
「安心なさい。もしもの時は、ワシが守ってあげるからの」
「ショウさん。頼もしいよ」
暫くすると地上は静かになった。騒ぎの元凶が姿を眩ませたらしい。その事を確認したショウは、ティタを連れて地上に降りた。ショウが街の人から事情を聴いていく。
「なるほどの。左目を閉じた少年がの……」
「物騒だよ」
「心配ない。ワシが守る」
「はい」
今一度その事を互いに確認する二人。二人はそのまま買い物を済ませることにした。




