表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

3.恵与

「本当に食べるんだ?」


『陸からしたら、私は嫌な姉なのかも知れない』

急にそんな気がして心が痛んだ



弟───母の再婚相手の連れ子、陸は、いま私の命令で犬の餌を食べて居る


考えてみたら、これかなりイジメじゃん


そう思うと心が暗くなっていく

お詫びに、先日親戚から貰ったクッキーを陸に食べさせる事にした



「すっごい食べるじゃん」


椅子に座って、陸を視る

フローリングの床に置いたクッキーを、陸は焦るように食べる


何の表情もして居ない

『生きる為の反応』として、陸はこんなに焦ってクッキーを食べて居る


心の隅っこの部分で、「何も与えられて無いのかな」と少しだけ思った



ただ食べさせるだけでは面白く無かったので、ルールが有る

陸は手を使わずに、床に落ちたものを急ぎ食べて居る


焦って食べたせいだろうか

舌を噛んでしまい、陸がげほげほと噎せた


床を吐き飛ばされたクッキーと、口から出た血が汚していく

こんな事を思ってはいけないのだろうけど、率直に「汚いな」と思った



玄関のドアが、乱暴に開閉される音


パパが帰ってきたのだろう

事実、足音が部屋に近付いて来ると、部屋にパパが入って来た


パパはいつものように陸を掴むと、何も言わないまま自分の部屋に引き摺って居った



─────



「陸君ってさあ……」


言いながらとりあえず、腹部に爪先を突き刺すみたいに、したたかに蹴る

何か娘のユキナから与えられて居たようだったが、今や食べたものは総て吐瀉物となって、部屋の畳の上に吐き出された



「絶対に声を上げないよな」


躰をくの字に曲げて倒れた、陸の前髪を掴むと、顔を吐瀉物に押し付けて雑巾のように擦り付ける

暴力を受けてぐったりして居る事もあるが、何をしても抵抗しない子供だった



女を抱く時と同じだ

どうしても声を出さないなら、どうしても声を出させたくなる


一通り殴り終えた風を装って、座ってセブンスターに火を付ける

陸は血と吐瀉物の海で溺れながら、まだ痙攣を繰り返して居る


───危うく、吸い終える所だった


そろそろ良いだろう

俺は倒れて居る陸の耳の裏辺りに、煙草を押し付けた




幼い声が、絶叫して居る

他の部屋でも何事が有ったのかと、家族たちが歩き回る音がする


しかし、誰もこの部屋に入って来る者は居なかった



───陸は、こんな声で叫ぶのか


想像より声が高い

心の内の暗くて大きなものが、満たされていく気がした



「ずっと聴いて居たいな」


自分が昂奮して居るのが解る

二回、三回…………もっともっと、陸を叫ばせたい



火が消えてしまった

俺は焦りに震える指で、次の煙草を取り出した


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ