3.恵与
「本当に食べるんだ?」
『陸からしたら、私は嫌な姉なのかも知れない』
急にそんな気がして心が痛んだ
弟───母の再婚相手の連れ子、陸は、いま私の命令で犬の餌を食べて居る
考えてみたら、これかなりイジメじゃん
そう思うと心が暗くなっていく
お詫びに、先日親戚から貰ったクッキーを陸に食べさせる事にした
「すっごい食べるじゃん」
椅子に座って、陸を視る
フローリングの床に置いたクッキーを、陸は焦るように食べる
何の表情もして居ない
『生きる為の反応』として、陸はこんなに焦ってクッキーを食べて居る
心の隅っこの部分で、「何も与えられて無いのかな」と少しだけ思った
ただ食べさせるだけでは面白く無かったので、ルールが有る
陸は手を使わずに、床に落ちたものを急ぎ食べて居る
焦って食べたせいだろうか
舌を噛んでしまい、陸がげほげほと噎せた
床を吐き飛ばされたクッキーと、口から出た血が汚していく
こんな事を思ってはいけないのだろうけど、率直に「汚いな」と思った
玄関のドアが、乱暴に開閉される音
パパが帰ってきたのだろう
事実、足音が部屋に近付いて来ると、部屋にパパが入って来た
パパはいつものように陸を掴むと、何も言わないまま自分の部屋に引き摺って居った
─────
「陸君ってさあ……」
言いながらとりあえず、腹部に爪先を突き刺すみたいに、したたかに蹴る
何か娘のユキナから与えられて居たようだったが、今や食べたものは総て吐瀉物となって、部屋の畳の上に吐き出された
「絶対に声を上げないよな」
躰をくの字に曲げて倒れた、陸の前髪を掴むと、顔を吐瀉物に押し付けて雑巾のように擦り付ける
暴力を受けてぐったりして居る事もあるが、何をしても抵抗しない子供だった
女を抱く時と同じだ
どうしても声を出さないなら、どうしても声を出させたくなる
一通り殴り終えた風を装って、座ってセブンスターに火を付ける
陸は血と吐瀉物の海で溺れながら、まだ痙攣を繰り返して居る
───危うく、吸い終える所だった
そろそろ良いだろう
俺は倒れて居る陸の耳の裏辺りに、煙草を押し付けた
幼い声が、絶叫して居る
他の部屋でも何事が有ったのかと、家族たちが歩き回る音がする
しかし、誰もこの部屋に入って来る者は居なかった
───陸は、こんな声で叫ぶのか
想像より声が高い
心の内の暗くて大きなものが、満たされていく気がした
「ずっと聴いて居たいな」
自分が昂奮して居るのが解る
二回、三回…………もっともっと、陸を叫ばせたい
火が消えてしまった
俺は焦りに震える指で、次の煙草を取り出した




