エピローグ 女神の懺悔
二十年前、御祖凪を異世界へ召喚した女神は、彼女の図書館の中央で書物を開いて座っていた。
そこは凪と女神が再会した場所とは程遠い。
図書館の内部は静寂と埃が支配している。高い天井は半ば崩れ落ち、かつて荘厳だったドームの一部にはぽっかりと空が覗いていた。そこから差し込む薄い陽光が舞い上がる灰と紙くずを照らし、空中で静かにきらめかせている。
床一面には無数の本が散乱していた。背表紙が裂け、ページが千切れ、インクがにじんだ書物たちは、まるで声なき叫びをあげるかのように無惨な姿をさらしている。かつて知を守っていた本棚は、半分が倒れ残りは歪んで軋みをあげていた。
閲覧席だったはずの机や椅子は、もはや原形を留めていない。一部の椅子はひしゃげ、机は裂け、積み重ねられた瓦礫の一部と化していた。その間から小さな革表紙の本がひとつだけ、奇跡的に破れていないまま顔を覗かせている。
あらゆる音が死んだその空間で、唯一残されたのは女神たる彼女だけだった。
「良かった。無事に家族と会えたようですね」
女神の表情は優しく微笑んでおり、口にした言葉には慈愛が満ちている。
無限に広がる世界の中、膨大な生命たちの一欠片が偶然にも女神と繋がることがある。女神以上に女神の世界へ適合できる存在。女神にとって、それが凪だった。
二十年前の女神は、そんな凪の力がどうしても必要だったのだ。
『どうか、彼を私にください』
凪が『元の世界』と呼んでいる世界にも、神と呼ばれる造物主がいる。女神はそんな『凪の世界』の神へ、頼んでしまった。
『凪の世界』の神は、御祖凪の人生を終わらせて、魂ごと渡してくれた。
そして凪は英雄として女神の世界を救ってくれた。だから女神は、約束通り御祖凪を返した。
――二十年前の危機が終わっていなかったとは知らずに。
女神の世界に入り込んだ異物。凪がエイリアンと呼称していた生物は、女神が世界を管理しているシステムに縛られない存在だ。本来であれば世界に入り込んだ時点で、どんな生物でもシステムが適用される。異世界人がやって来て、その者だけ物理法則が適用されないなどは発生しないのだ。
だからそれが発生したということは、女神が世界を管理できていない事実を意味する。
そして女神が管理できていない理由は。
「ありがとうございます、私の英雄。そして、本当にごめんなさい。最後に、あなたの幸福を祈らせてください」
女神はゆっくりと瞳を閉じて、動かなくなった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
書籍一冊分となりましたため、ひとまずコンテスト用はここまでとなります。
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