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孤月終天4

 シズキは武国だか月光国だかの機密を知って、命を狙われているようだ。シズキが何かを知った経緯は、私達と別行動した際に調べ物をしたからだ。

 確か武国が湖西の国の衝突に武力介入した後、私達と一戦あってからの足取りを追ったのだったか。


「シズキはそもそもなんで武国軍の足取りなんか調べたの?」


「ま、武国の正規軍に出くわすなんて珍しいのにゃ。ちょっと興味があったのにゃ。特に奴らがどこから来たのかにゃんてにゃ」


 何処へ行ったかでは無く、何処から来たか?そんな事は調べるまでも無いだろう。武国軍は武国から来た。それ以外に別の答えがあるのか疑問だ。


「それは、前に西の荒野を越えて来たんじゃって話じゃ無かったっけ」


「痕跡が無さすぎるのにゃ。それににゃーはもうこの世にかなり遠くまで一瞬で移動出来る転移術がある事を知ったのにゃ」


「そんなのモリビトか法国の技が必要でしょ。表立ってモリビトが協力する訳ないし、武国には確か世界樹教は入ってないんでしょ。なら転移は難しいんじゃないのかな」


「月光国への転移は法国からであっても制限されている。文明界側でどうにか出来るものではないぞ」


「そんなモリビトと関係が薄い国を調べたら、モリビト由来の技を使う剣星が出て来たのにゃ。妙な話にゃ」


 シズキの言葉にシルバも考え込んでしまった。法国の関与が薄い、無いと思っていたところから、濃い影が伸びてきたような、絶妙な怪しさが漂っている。


「やはり、あてくし達は考える必要があるのではないですかな? イドラの残滓を」


「あれは全てが片付いたはずだ。何も残ってはいまい。あったとしても全ては墓標の下だ」


 イドラ、前魔王から聞いた、問題のあったモリビトの名だ。モリビトからこの名が出たのを初めて聞いた。


「確かにそうですが、世に生まれ出た鬼を消す訳にはいかない。イドラが鬼に残した物が無いとシルバ氏は言い切れますかな?」


「…………」


 無言、それが答えなのだろう。モリビトは鬼に、つまり吸血鬼に負い目があるのだ。吸血鬼を作ったのはモリビト、そしてそれはイドラという人物の仕業なのだろう。


「何か色々と解決しないといけない問題があるみたいだけど、一つずついけそうなのから手を付けない? ひとまず、シズキはなんとかなったから、一旦は安全な場所に退避しない?」


「それについては一つ問題がある。月光国から吸血鬼を連れ出すという場合は、また別の審査が必要となる。これは短期間では承認されない。つまり、月光国外に移動する事は、今現在出来ないのだ」


 聞いてないよー、と言いたいところだが、確かに慌てて来た私にも悪いところがある。


「そうなると、申請がおりるまでここで待機するしかないって事?」


 私はオリガの事情は完全に無視しているなーというのを、知らない振りしながらそう言い放った。事実、オリガの細かい事情を私はまだ知らない。


「それについては悪い報せがあるにゃ。にゃーが何処に逃げても、奴らは居場所を突き止めてくるのにゃ。一箇所に止まるという事は、襲撃されるのをただ待つだけにゃ」


「うーん、それはどういう理屈で居場所が知られてしまうの?」


「理屈は分かんねーのにゃ。ただ、武国軍は予知を使うって話にゃ。それならば、未来を読んで行動してんじゃねーのかと思うのにゃ」


 予知、そんなのある訳無いと言い放ちたいが、私達は予知の存在を知っているし、何なら使っているのだ。それに、予知は100%的中する物では無い事を知っている。


「そうなると、居場所としては知れているけれど、そこに行かれると困るみたいな場所に移動するのがいいよね」


「それであれば、吸血鬼の自治区に行くのがいいでしょうな。月光国は吸血鬼の国と言っても、その数は少ないのです。大半は元流民で構成されている訳ですから、吸血鬼の住む土地は限られています。そういった場所への立ち入りは制限されており、国外の軍が簡単に移動は出来ないのでぇす!」


 一理あると思いつつも、ルドルさんの都合で動かされているという感じもある。私達とルドルさんとでは目的が違うという事を改めて認識しておかなくてはならない。


「吸血鬼の自治区に行った場合、オリガはどうするんですか? この国の吸血鬼に報復するのがオリガの目的なんでしょう?」


「それについては考えがあります。悪いようにはしません!」


 オリガにまつわる話をしているのにオリガが無反応なのは気になるが、まあ殺す殺す言っていないだけましなのだろう。


「じゃあ、吸血鬼の自治区に向かうけど、シズキもそれでいい?」


「にゃーはあったかいとこならどこでもいいのにゃ」


 そういった訳で私達は月光国内での移動を開始した。


 ――


 移動に関しては、追加装甲に認識阻害をかけならがら飛行する事にした。移動中に急襲されても全員まとまって高い防御力を発揮出来るのは便利だ。それに移動も速いので追撃から逃れる事が出来る。相手が転移する可能性もあるが、転移ポイントは限られているそうなので、そこを避ければ追いかけっこの利はこちらにある。

 吸血鬼は月光国の西側にその大半が住んでいるそうだ。転移追撃のリスクを避けて、大き目の都市には近づかず、山岳地帯にある鉱山の町を目指した。

 自治区なので当然の事ながら入るには許可が必要なのだが、当然無許可で認識阻害のままぬるっと入る事にした。それに吸血鬼自治区と言っても吸血鬼だけが住んでいる訳では無い。他の種族も許可取って入っているので、私達もそれに紛れる事にした。


 町の名前はトーラスというらしい。鉱山自体は賑わっており、労働者が外からやって来ては坑道を掘っているようだ。外部労働者向けの貸し家もあり、私達はそこを一旦の拠点にする事にした。幸いにして近くに吸血鬼は住んでいないようだった。


「剣星やそれ以外の怪しい奴が来たら、にゃーが知らせるのにゃ」


 シズキは剣星の匂いを覚えているそうなので、アラート要員となってもらう事にした。相手はシズキを目掛けて攻めて来るので担当としては最適だ。ただし、あまり別行動すると助けに行くのが大変なので、行動範囲は町の中だけと取り決めた。

 部屋数のあるボロ家を借りたので、全員がまとまって暮らす事になった。


 ―――


 貸し家に新たな人が住み始めたという情報は当然自治区の管理者に知れる。それ自体は別に問題無いが当然ながらオリガが吸血鬼である事は直ぐに知られた。まだ住み始めて1日弱だが手紙が届いた。


(今夜、第三坑道にて5人を待つ)


 手紙にはそう書かれていた。まあ、自治区の管理者からしたら登録無しの吸血鬼が急に現れたのだから、事情を確認したいだろう。しかも吸血鬼以外に連れ立っての集団だ。怪しさしか感じないに違いない。


「予想通りあっちから接触してきましたね。これ受けようと思いますけど、ルドルさんの悪いようにはしないを信じていいですか?」


「安心して下さい! あてくしに考えがあるので!」


 自信満々に白い歯を光らせながら、モリビト独自のグッドポーズをとるムキムキマッチョマンを前にして、絶妙な不安感がしていた。

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