孤月終天3
シズキを無事回収出来た。まあ、邪魔をしてしまっただけかもだが、何事も無かったのは良かった。
急いで月光国に入ってやる事だけやったので、ここから先は完全にノープランだ。シンプルに考えると帰ればいいのだが、物騒な事を考えているオリガの様子が気になる。
今は一旦、この国に入った場所まで戻る為に飛行中である。シズキの相手が武国絡みなようなので、追撃が入る可能性もある。安易に最寄りの都市に立ち寄るのは危険かもしれないのだ。
このまま戻ったとして、シズキとオリガが衝突しかね無いという懸念もある。
「この国に入る為に吸血鬼に協力してもらったんだけど、ちょっと気難しくて好戦的だから、喧嘩にならないようにしてね」
「喧嘩になる前ににゃーが殺してしまえばいいのにゃね?」
「そんな訳ないでしょ!殺害禁止、暴力禁止!」
「そう言われると思ったのにゃ。まあ、戦意を無くさせればいいんにゃら簡単にゃ」
何か不穏な事を言っている気もするが、ここまで言っているのだから大丈夫だろう。
シルバに連絡を入れたが、オリガ自身はおとなしくしているそうだし、今のところ不安要素は無い。
―
何も無かった雪原に戻ると、天幕のような物が設置してあった。質感からしてモリビト作の白樹製の簡易拠点とかだろう。
追加装甲のハッチからシズキを下ろし、私自身も外に出た。追加装甲を転移で戻せない以上、こうして乗り降り運用するしかないのだ。圧縮モードで着てもいいが、燃費が悪いので危険な場所以外ではやりたく無いのだ。
私達の到着に気がついてシルバは天幕の外に出て来た。ルドルとオリガは中に居るようだが、出てくる様子は無いようだ。
「高位術の使い手が居たようだな。解析しておいた方がよいから、追加装甲の記録を見るぞ」
シルバっぽい第一声だと思いつつ、転移援助のスタンバイをお願いしたのは私だったと思い出し、どっちもどっちだった。
「いいけど、一瞬だったし攻撃してきた相手は最後まで認識出来なかったよ。大した情報は無いんじゃない?」
「術防御無しとはいえ、白樹の装甲を切断したのだ。文明界の術では無いだろう。そうなればどの参人が関わっているのか知る必要がある。術を受けたのであれば、その情報が残っている可能性が高い」
参人が文明界の国に関与している。その可能性として一番高いのはモリビトだ。シルバはどの参人と言ったが、モリビトの誰が関わっているのか調べるのだろう。
「私達はあっちで休ませてもらうから、追加装甲は調べていいよ」
「分かった。直ぐに終わる。オリガを刺激するなよ」
最後の言葉はシズキに当ててだろう。そう言い残してシルバは追加装甲へと向かった。
白樹の天幕は白いドーム状で、雪の中にある事から、でっかいかまくらのようだった。中は暖かく10畳くらいの広さがあった。私とシズキが天幕に入っても、オリガはツーンとこちらを無視していた。いきなり襲いかかるかと思い警戒していたが、何も起こらなくて一安心だ。
「にゃー、さみーのは苦手だからあったかいのは助かるのにゃー」
シズキは中央にある円筒形の装置に巻き付くように寝転がった。あれがこの天幕の熱源なのだろう。
普段のシズキは半裸なのだが、この寒い国では流石に厳しいのか、足には毛皮のブーツを履き分厚い布のマントをすっぽりと被っている。
「こちらの用事は済みました。ルドルさん待って頂いてありがとうございます」
「いえ、いえ、あてくしに急ぐ用事はない故、シルバ氏に合わせたまでです。それにオリガもこの場所に来て理解したようです。ここから他の吸血鬼が居る場所に一人では行けないとね」
移動手段が無いからという話なのだろうか。まあ、追加装甲で移動した際にも、人里と思しき場所までは距離があった気がする。
「これからの事は特に決めてなかったですが、私達は何もなければ帰る予定です」
「そうですか、そうなればあてくし達もどうするかというところでぇすね。それはそうとなのですが、そちらのお連れの方に恐ろしい気配を出すの止めて頂けると助かりますねえ」
ひらがなの「つ」みたいな形で床で溶けているシズキを見て、思わず驚いてしまった。アレから恐ろしい気配が出ているとは、全く理解出来なかったからだ。
「シズキ、何かしてるの?」
「喧嘩するなと言われたから、喧嘩にならないように殺気を出しておいたのにゃ」
殺気を出していると言われても、私には理解不能だった。私に殺気が向いていないのか、そもそも殺気を理解出来ないのか。とにかく、その手のバトル上級者の何かは、私には全く理解出来ない。
「そんなの要らないから、普通にして、暴力に発展しなければいいだけだから」
「そうにゃ? まあ、ユズカがそう言うならにゃーはそれでもいいのにゃ」
シズキがそう言うと、ルドルとオリガの緊張が解けたような気がした。私にはシズキの何が変わったのかまるで分からなかったが。
「いやー、凄まじい殺気でしたな。あてくし、このような殺気は久方ぶりでごぜえました」
「そんなの出てたんですね。私は全然分からなかったです」
「まあ、殺気の向きはあてくし達二人にでしたからねえ」
「にゃーと闘う気は失せたのにゃ? にゃら成功にゃ」
私には「つ」が「C」になっているようにしか見えない。
そんなやり取りをしているとシルバが戻って来た。
「あ、シルバ、どうだった?」
「ふむ。かなり改変されているが、術式の基礎構成はモリビトの物で間違いないな」
ある程度は予想していた展開だ。ここで問題なのはどこ所属のどのモリビトがという事だろう。
「モリビトの伝えた術が文明界で改変されて使用されているって事ね」
「そうだ。しかもかなり目的を持って改変されている」
「目的?」
「対象を切断する事だ。どういう状況であれ、何であれ切断する。その目的の為に術は研鑽されている」
シルバの説明に、シズキの言う剣星という単語が符合した。
「剣星が相手を斬る為の技として、モリビトから術を習い洗練させたって事?」
「最後に追加装甲が受けた術などは、モリビトの発想からは逸脱している。あの術は、物体の存在確率にまで干渉して切断という事象を成している。普通はあり得ん。切断という事象にそこまでする意味が無いのだからな」
「にゃーの聞いてる剣星って奴は、そこまでしそうや奴にゃ。海が斬れるかと言われて海を斬っちまうような奴にゃ」
なんだか、とんでも無い人物が出て来た。
「そんな凄い人が出て来てシズキを狙ったは何故? 強そうだからみたいな理由?」
シズキは床に転がりながら伸びをした。
「半分はそれにゃ。でももう半分はにゃーを絶対殺す必要があったのにゃ」
「シズキが狙われた理由って、武国と月光国が繋がっているって話?」
「本質的にはそういう事にゃ。まあ、にゃーはもっと細かく具体的な事を知っちまったから消されようとしているのにゃ」
国家関連の秘密を知ったシズキをどうしても始末したい。そう考えた某国が剣星を始末人として寄越したというのが、今の状況のようだ。




