孤月終天2
一面の銀世界に遥か遠くにそびえ立つ巨大な山脈、周囲には人の営みを感じさせる物は無く、この転移ポイントが公の場では無い事を感じさせる。
「じゃあ、私は行くね」
予めシルバと取り決めていた通り、私が単独でシズキの元へと飛んでいく手筈だ。
月光国外からの転移は禁止という事で、追加装甲を圧縮モードで着込んで来た。こんなの持ち込み可能なのかと思っていたが、法国製の術具である事、監視役のモリビトが十分揃っている国を鑑みて、あっさりと許可された。それに、術具のヤバさで言うとシルバの銀杖やルドルの腕輪の方が遥かになのだそうだ。
シズキ捜索先で、何かあったても月光国内の転移は許可されるので、私の追加装甲をサーチしてシルバの緊急転移も可能なのだ。一旦は、オリガの押さえとしてシルバ、ルドルに残ってもらい、緊急事態ならば応援要請という構えだ。
追加装甲を圧縮から展開して、いつもの巨大ロボ形態でシズキの居るであろう場所まで飛行する。状況が分からないので、高高度まで飛び上がり最高速度で現場へと向かう。
途中、町と思われる構造物が地上に見えたので、シズキの居る場所は都市の可能性も出てきた。
場所が都市であれば、離れた位置に着陸し認識阻害などを使用して慎重に移動する必要がある。
「目的地情報が判明しました。付近に人の居住はありません」
アダマスからの情報が音声で入る。自分の声を使われるので、最初は違和感があったが、今ではアダマス独自の口調があり、別個性という感じで気にならなくなってきた。
ドーム状の立体映像マップに、地形と周辺の生き物とシズキの位置が投影された。こんな感じでマッピング出来る?とお願いしたら出来たので、アダマスの理解力とモリビトの技術力は凄い。
シズキの位置は分かったが状況は分からないので、追加装甲の触手を使って遠距離から身柄を掻っ攫うつもりだ。仮に何者からか攻撃されていても、この方法であればなんとかなると思っている。予知を使う武国の軍隊にも通用したのだ。いけるだろう。
飛行しつつ、触手を高速で伸ばしてシズキの居るであろう位置に迫る。たが、ここで予想外の事が発生したのだ。伸ばした触手が何かに切断されたのだ。これまで、追加装甲が攻撃に晒されたという事は無かったので、防御力については把握していなかったが、仮にも音速飛行に耐える装甲を破壊するというのはかなりの異常事態だ。しかも、触手を含めて追加装甲は認識阻害が効いている筈だ。それを認知するという事は、即ち参人級の何者かがシズキと敵対しているという事だ。
思わず飛行を停止してアダマスに情報提示を求めた。
「アダマス、何が起こったの?」
「高位術による空間制御を利用した斬撃を確認しました。行使された術力から推定すると、認識阻害を解除して術式妨害による防御が必要です」
アダマスは状況を的確にまとめて報告してくれた。しかし、アダマスの口調には静かな強い怒りのような物を感じる。アダマスは私の認識をコピーした人工知能なのだが、今や明らかに自我があるかのように感じる。
「じゃあ、このまま認識阻害を解除して防御を固めて突っ込んで。そのままシズキを確保次第離脱する。シルバには今の状況を送って、転移に備えてもらって」
アダマスが防御出来ると言うならそれを信じる。アダマスと追加装甲は私の一部のような物だ。この信頼があったからこそ、これまでの窮地もなんとかなった。ならば疑いようが無い。
シズキに向かって真っ直ぐ飛行すると正体不明の攻撃が飛んで来る。攻撃を行っている者の姿は、私のマップには表示されていない。つまり、かなり遠距離から攻撃しているか、認識出来ない術を使用している事になる。ただ、今の状況であれば攻撃をして来る者が何なのかよりもシズキをどう助けるかが重要だ。
シズキの姿を目視した。怪我をした様子は無いが、動けないでいるようだ。そう言えば、私の姿は相手に認識されているが、シズキは認識されていないように感じる。シズキには攻撃が届いていないのだ。
攻撃している者は元々シズキを狙っていたのだろうが、位置を把握出来ないでいる。つまり私はシズキの位置を案内してしまっているのかもしれない。そうなれば、合流のタイミングで何か仕掛けて来る可能性はあるが、これを防御で受け切るつもりだ。
岩陰に居るシズキの前に立つと、光が走った。光は降り積もった雪、岩石、地面を帯状に貫通している。何か超常的な現象が発生しているようだが、追加装甲の防御は抜け無い。私の周辺とシズキを守るように光は途切れていた。
追加装甲の術力の残量が目に見えて減るのが分かった。タイタスと戦闘したときよりも減っている気がする。つまり、それ程の術を中和しているという事なのだろう。
しかし、守り切れればよいのだ。状況を理解したシズキは追加装甲のハッチに素早く乗り込み、私はこの場を高速で離脱した。攻撃者の追跡は恐らく無いと思いつつも、逃げに逃げた。
攻撃者の追跡は結局無かった。攻撃には範囲があり、シズキを見失っていたのだから、恐らく五感以外の感覚で認識していたのだろう。そうなれば、恐らく接近するつもりは無いのだ。大きな仕掛けの光も接近攻撃では無かった。ならば、高速離脱は有効と判断したのがはまった。
「シズキ、無事? 襲った来てたのは誰?」
「にゃーはなんともないにゃ。さっきの奴は多分、剣星にゃ。なかなか面白い使い手にゃったけど、あと少しで勝負がつくとこだったのにゃ」
どうやらシズキは大丈夫なようだ。それに、何やら勝負の邪魔をしてしまったようだし、まあ、何事も無くてよかった感はある。
「それはいいところを邪魔しちゃったみたいだけど、怪我とか無くて良かったよ」
ハッチの中のシズキの様子は分からないが、鼻息のフッという音がした。
「あのまま続けば、どちらかが死ぬしかなかったのにゃ。まあ、にゃーは無駄死にはしたくにゃーから、にゃーが死ぬ場合は相手も道連れにゃから、どっちも死ぬもあり得たにゃ」
そう聞くと早く駆けつけた甲斐があったというものだ。
「どっちも死なないのは、私が来るしか無かったって事だね。さっきのシズキの話だと、相手は死しか無かったんだから、その剣星さんとやらは私に感謝してもらいたいものだね」
また、シズキの鼻息が聞こえる。
「そうかもにゃけど、ユズカはなんで来たのにゃ?」
「それは、通信の内容が助けに来いって感じだったから来たんだよ。行けない場所なら無理だったけど、行ける場所だしね。問題解決は現場に直ぐ突撃というのが、私が学んだ処世術なの」
「にゃーはそんな事通信してねーのにゃ。でも、まー今回は一番ましな結末になったのにゃ。だから礼はさせてもらうのにゃ」
シズキが珍しい事を言っている。が、まだこの件に関しては解決という訳では無い気がする。
「お礼は受けるけど、まだ剣星さんの件は片付いていないんじゃないの? あそこまで執拗に襲って来るという事は、それなりの厄介事があるんでしょ?」
シズキは深く鼻息を吐き出した。
「武国と月光国は何かで繋がっているのにゃ。単純な同盟や利害の一致では無い。何か訳のわからない繋がりがあるのにゃ。にゃーはそこに巻き込まれてちまったのにゃ」




