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魔王様はお終い18

 ヤマビトの石塔の中で数日を過ごした。トゥーリン作の通信術具があるので、外部との情報連携は問題無い。

 シルバから来る通信によると、吸血鬼のオリガはまだ好戦的な態度が変わっていないようだ。モリビトの管理下にある吸血鬼は、強さという物にかなり拘りがあるようで、より強くなるという目的でモリビトの元に居ると言っても過言では無いらしい。

 石塔の外の方向性としては、吸血鬼とウミビトのタイタスが闘うという流れになっている。まあ、戦闘好きそうな人達が集まると、そういう事になる気はしていた。


「ユズカ氏はあのウミビトに勝利したというのは事実なのですか?」


 創作活動の手を止める事無く、前魔王が質問してくる。


「下調べの為に知り合いに先に闘ってもらってから、弱点だけを狙って、一度しか効果の無い方法で騙し取った勝利だけどね」


 石塔の中に部屋を借りて、三食を白樹果だけで前魔王の漫画にアドバイスするだけの日々は、短くとも中々に辛いものがある。


「騙し討ちとは言え、あの存在に負けを認めさせた事は、凄まじいですよ。恐らくは殆どの者が終生を賭したとしても叶わぬ事だ。何故にそこまでされたのか、疑問でしてな」


「そんな大した事じゃないよ。偶然に一回で成功しただけだし、駄目なら他の方法もあったから、思い切って試しただけ」


 前魔王の仕上げた原稿がサッと私の前に現れる。正直、この漫画は結構面白い。まあ、私が口出ししているのだから、私の好みに寄っているというのもあるが、拘りポイントが明確でそれが毎回興味を引くのだ。

 この漫画の拘りは、敵の醜悪さにある。精神を乗っ取る寄生体が敵なので、その醜悪さは精神の異常性として発揮されているのだが、バリエーションが防府で、毎回どんなのが出て来るのか気になってしまう。そう言う点でこの漫画は、参考にした私の世界の漫画の美点の一部をちゃんと取り入れているのだ。


「そんなユズカ氏は、吸血鬼対ウミビトの勝負はどうなると予想しますか?」


「えー、まあ、タイタスが勝つんじゃないかな。吸血鬼の事は良く知らないけど、ウミビトに生身で挑むのなんて無謀だよ」


 前魔王と漫画の話ばかりしていたので、すっかり話す事に慣れてしまった。もはや全裸である事も気にならない。


「では、ユズカ氏の予想が当たるか見てみましょうぞ」


 そう語られると同時に壁に外の様子が投影された。

 まだ何も無い島を使って一対一の対決をやるようだ。

 色んな角度からの映像が映っているが、一体どうやって撮影しているのか謎だ。


「これ、今から始まる感じ?」


「そうです。今まさにこれから始まるところですな」


 タイタスはいつも通り15mサイズのままだ。地上戦なのだから、3mサイズになるかと思ったらそうでは無い。これがハンデなのか全力なのかさえ、私には分からない。


「吸血鬼の人は、この体格差でよく闘う気になるよね」


 吸血鬼のオリガは私より少し小さいくらいの背丈だ。10倍の体格差がある訳だから、勝負にならない気がする。


「始まるようですよ」


 オリガがタイタスに向かって走るが、引きの絵で見ると、間合いを詰めるのすら大変そうだ。

 タイタスは口から水ビームで牽制している。接近されるのは嫌なのだろうか。私なら素早い小人が足元に入るのは嬉しく無い。

 しかし、タイタスには液体の性質を操る能力がある。触られた時点で、体表に纏っている水バリアで絡め取ればいいだけなのだ。これを破る為に、以前にシズキが闘った際は、毛髪型の術具を水バリアに侵入させて対策していた。吸血鬼の人は何か策があるのだろうか。


「接近する事すら、ままならんようですな」


 タイタスは水ビームを乱射している。吸血鬼の人は動きを掴ませ無い謎技術を使うようなので、タイタスも当てるのに苦労しているのだろうか。


「あれ?吸血鬼の人の動きが止まった?」


 さっきまで華麗に躱していたオリガの足が止まっていた。


「どうやら地面にある水で動きを止めているようですな。それにしてもあの水はどこから来たのでしょうな。口から吐き出した量より明らかに多いです」


「あれは、島の地面に開けた穴から海水が噴出しているんじゃないですかな?」


 タイタスの発射した水ビームは、島の地面を貫通して、その下にある海にまで到達しているようだ。後は海水自体をコントロールして、地面を水浸しにしたのだろう。

 オリガの足にまとわりついた海水は、生き物のように素早く動き、やがてオリガの全身を覆ってしまった。これは勝負ありだろう。


「真っ向から拳で勝負するのかと思ったら、あんな策を使って勝ちにいくなんて、なんか意外だな」


「ユズカ氏に負けて学んだのでは無いでしょうか?確実に勝つ方法があるならば、最短でそこに到達する。合理を極めれば、そうなりましょうな」


 何というか、人がやっているのを見ると、なんともセコい勝ち方だなと思う。


「あんな決着で吸血鬼の人は納得出来るのかな」


「なんでもありで勝負する事にしたのは、合意の上のようですよ。単純に身体技術を使っての強さ比べをしたいなら、事前にそう取り決めれば良かったのです。そうしなかった、またはどうしたかったは当人達の問題でしょうからこの結末は仕方ありませんな。なんでもありで闘えば、吸血鬼はウミビトに手も足も出ない。これが得られた成果です」


 オリガはタイタスの水塊から解放されており、意識が無い感じのオリガを、あのツルツルムキムキのモリビトの人が運んで行った。


 ―――


 吸血鬼対ウミビトの成果がどうなったのか分からないが、別件で進んでいたウミビトの思考速度と同調して、他種族でも高速思考出来るようにする仕組みが最終調整に入った。

 この仕組みを構成するには、複数人のウミビトが必要なのだそうだ。詳しい仕組みを聞いたが、術理的な詳しい事はちんぷんかんぷんだった。なんとなく分かった事は、思考速度を複数人グループで共有して、その速度をグループ内で平均化するという感じだった。

 通常の時間感覚の人がより高い効果を実感するならば、ウミビトの人数は沢山必要になる訳だ。


「この実験大丈夫なの?」


「既に今居るウミビトと拙者とで、簡易的な実験は完了しているのですぞ。後は、同期を取る者達が如何に自然に使えるようにするかの仕組み作りが大変でしたが、遂に装置が完成したのです」


「そんなのいきなり展開して危険は無いの?」


「今は限られた範囲、即ち石塔内の一部区画でしか作用しないので、安全対策は万全なのです」


 参人の技術力の高さは信用しているが、参人特有の倫理観の無さが発揮されるケースがあるという事を懸念している。モリビトは種族を自作してしまうし、ヤマビトは性のテーマパークを開催したりする。


「この実験が成功すれば、ヤマビトの移住は増えるかな?」


「この都市内に居るウミビトの数にもよりますが、既に希望者も多数居ります。移住は期待大ですぞ」


「じゃあ、実験を許可します。やっちゃって下さい」


 そう伝えると、前魔王はガラスで出来たような透明な囲いの部屋に入り何かの術具を起動した。


 透明な部屋の中の前魔王に特に目立った変化は無い。そうして少し待つと、漫画のあたり付け用のプロットやコンテが、私の目の前に一枚また一枚と現れた。

 今まで前魔王の作業を見ていた私からすると、10倍以上の早さで仕上がっている事は分かる。

体を使う作業は早くならないが、精神の速度は早くなっている。思考を形にする機能は既にあるから、前魔王の漫画創作は確実に早くなっていた。

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