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魔王様はお終い17

 突然の攻撃、しかも初対面の人からいきなりだ。攻撃を受けているので、危機管理モードであり、思考加速した状態である。

 もはや、いきなり攻撃される事や、望まぬ戦闘を強いられる事が増えてきたので、実は対策も幾つかしてあるのだ。

 近接攻撃をされている場合は、距離を取って逃げてしまうのが一番だ。そこで、私の防具足部には即時ローラーダッシュが出来る車輪が内蔵されている。思考加速状態で体を認識速度と同じに動かす事は難しいが、外部装置による動作であれば、この状態で有利に動く事が出来る。しかも、相手は動作の像を曖昧にする技術を使って来ているが、速さ自体はゆっくりに見えるので、距離を取る事はなおの事有効である。

 全てがゆっくりの中で、私の体だけは歩くような速度で後ろへと運ばれる。そこから相手との距離が10m離れたあたりで、思考の加速が解除された。

 私を襲ってきた吸血鬼は、突然その場に倒れたのだ。


「いやー、失礼しました!オリガ氏にはあてくしからよーく言っておきますので、ここは穏便なご判断にておねげぇいたします!」


 ルドルはそう言うと、スイッチが切れたように倒れた吸血鬼を軽々と抱き抱えた。


「ルドルよ。吸血鬼は好戦的と聞いていたが、まさか制御出来ていないのか?」


「オリガ氏が人である以上は完全に制御とい訳には参りませんが、あてくし、これ程に暴走したオリガ氏を見るのは初めてです。何か気に入らぬ事があったのだと思いますので、後ほど話を聞いておきますです」


 吸血鬼とその管理者であるルドルとの初対面は、割と最悪気味に始まってしまった。


 ――


 吸血鬼オリガとの対面は、一旦私がいない方が良いのではと提案し、その形で進める事になった。シルバ、ルドル、オリガで話をしてからタイタスとの面会をするという流れだ。仲介役は私という事なのでタイタスに話をしたら、吸血鬼は面白ろそうだという事になり、面会自体の約束は取り付けた。

 私はオリガに目をつけられた感があるので、一旦、ヤマビトの石塔に避難する事にした。丁度、前魔王より漫画の出来を確認して欲しいとの要請もあった。

 石塔内では、偶に前魔王以外のヤマビトを見るようになった。赤い肌なので最初はドリスかと思ったが、背格好が明らかに違っていた。

 得によく見るのが、ドリスより背が高く短い金髪がクルクルにカールした人だ。まあ、良く見るというか、私がその人から見られているという感じが正しい表現だ。他にも別のヤマビトは居るらしいが、私を気にしている様子も無いし、私も別段気にならない。


 前魔王は、いつもの部屋で漫画の創作に励んでいる。私の来訪には気付いているが、創作の手は止めない。そんな関わり合いがなんとなくいつもの流れになっていた。


「他のヤマビトで漫画を描こうなんて人は居るんですか?」


「読むのに興味はあるが、まだ自らで描こうという者は居りませんな。ですが、その内同士が現れそうな雰囲気はありますな。拙者もそこそこ長命故、流行りの兆候というのは何度か体感しております。漫画は意外と早く来そうですぞ」


「まあ、そうなったらクリスさんから漫画の事は教えてあげてね」


「拙者の真似をしたいという者にはそうしますが、漫画の表現そのものを拡張したいという者には、是非ともユズカ氏の知恵を頂きたいものです」


 そう言って前魔王は、今描いている漫画の原稿を渡して来た。既にページや話構成の話はしているので、それなら紙の方が分かりやすいよねとなり、以後は原稿を紙に描くようになったのだ。


 前魔王の漫画は大分形になって来た。私の知る寄贈漫画と比較して、足りないところ、分かり難いところ等は指摘している。今も読んでいて何か物足りないと思ったら、擬音が全く無い事に気付いた。


「私の知る漫画には擬音表現というのがあって、人の会話以外の音に関する情報を特徴的な文字で表す事なんです。例えば剣がぶつかるような金属音は尖った文字や、爆破のような大きな音には大きな文字等、中には感情を表すのに心臓の鼓動音を描いたり、無音に敢えて音を置いたりと、とにかく表現は色々です。この漫画でも主人公が初めて術で炎を出すところは、擬音があった方がいいかもと感じます」


「ほうほう、なるほどですな。確かに、舞台演劇で音響は重要ですが、漫画には音を表現するのは不可能と感じておりました。ユズカ氏の知る漫画ではそのようなところまで表現が進んでいるのですな」


 別に私の手柄という訳では無いが、自分の好き物の表現が、全く未知の場所で理解されていくという工程には、嬉し恥ずかしい独特な感情が湧き上がる。


「主人公に寄生する存在は、結局もう一つの人格として表現したんですね」


「やはり、異形の存在に好感を持たせるのは、難しいと感じました。その代わり完全に寄生された物の所作は醜悪にしており、味方の寄生体と敵の寄生体で対比をしたのです」


 割と良く出来た話になっている。聖王国で学舎に通う商家の娘が、外界から来た精神に寄生する生物と接触して、完全に意識を乗っ取られる事無く、奇妙な共生を始める物語だ。寄生体の力によって、聖王国人では扱う事の出来ない、術の力を発現して、その力を隠しつつ、他の完全寄生体と戦うというストーリーは、かなり次の展開が気になる構成になっている。


「かなり面白い物語だけど、この主人公が術を使うときに黒髪になるのは、もしかして…」


「実在の人物や、逸話、人気のあるところを参考に、好感ある存在を構成するのが良いと聞きましたので、ユズカ氏を参考にしましたな。知識を授ける存在として、真摯であり、地位の上下を設けず、必要を語り、相手の工夫に耳を傾ける。拙者はその精神に感服したので、良い手本と思いました」


 なんだか恥ずかしいが強くなってきたな。


「まあ、何を参考にしてもいいけど、読者の意見も聞いた方がいいよ。ヤマビトの人達も何人か来てるみたいだし、直接話を聞くのは参考になりますよ」


 創作活動の手を止め無かった前魔王の動きが止まった。


「それは、この石塔に共鳴転移の門が開いたからです」


 そう言えば、どんどん人に来てほしいから、可能なら転移門の開設よろしくと言ってあったが、もう出来たのか。


「そんなに早く出来るんだ。まあ、それなら、人もジャンジャン呼べるね」


「参人という世界の頂点にも等しい種が、互いに干渉せずに暮らして来た世界に、参人の住まう、まして各国から自由に往来出来る中継点を作った意味を理解されておりますか?」


 急に難しい問いをされても回答は出来ない。私に思考の瞬発力は無いのだ。ただ、普段から色んな事を想定して脳内にパターンを幾つも用意しているから、対応出来るのだ。考えもしなかった事に対する答えはすぐに用意出来ない。


「まあ、出会わなければ起きなかった悲劇みたいなものはあると思うけど、色んな価値観が平和的に出会うのって、いい事なんじゃないですかね。というか敵対で初対面するより遥かにましです。私がこの町に求める事に複雑な意図はありません。面白そうくらいの感情しかありませんよ」


 相変わらず浅い回答になってしまった。


「いや、妙な事を聞いて失礼しました。それに良い答えを聞けました。拙者の考えるこの町の意味より、遥かに良い」


 前魔王は、笑みを浮かべながら手元は創作活動に戻っていた。

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