表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/9

上出来の初夜

 



「――不本意な結婚はお互い様だろうが、まさか結婚式に黒いウエディングドレスで臨む花嫁とは」



 結婚式を終えて、初めての夜。

 先ほど神様の前で温度のない口づけを交わした美しい男が、薄く笑って冷えた目をベッドに座るわたしに向けた。


 目の前のこの男は、今日わたしの夫となったディラン・グラディウス公爵だ。


「さすがは我が国の闇、フィデリス公爵家の一人娘だな。エレノア・フィデリス」


(美しい方だわ)


 濃灰色の髪に、黒曜石のような黒い瞳。

 形の良い切れ長の目元にある泣きぼくろが、彼の冷ややかな美貌にほんの少しの艶やかさを出している。


 そしてその美しさは、彼から放たれる殺気や威圧感を、さらに鋭いものに変えているようだ。


 けれど生憎、わたしはこういった殺気や威圧感には家庭の事情で慣れている。


 自分が一番美しく見える笑みを浮かべて、小首を傾げた。


「先ほど愛を誓ったことをお忘れですか、旦那さま? すでにわたしにフィデリスの姓はなく、我が国の栄光、グラディウス公爵家の姓をいただいたのですが」

「はっ」


 鼻で笑う男の長い指が、わたしのあごを持ちあげる。

 わたしを見下ろす黒い瞳を見上げると、彼は一瞬沈黙して、静かに口を開いた。


「……せいぜい色仕掛けが得意な、小賢しい毒婦だろうと思っていたが、これはさすがに予想が外れた。……女王(あの女)に、俺の首を取るようにでも命じられたか?」


 そう手を離す彼の目は、わたしの手や耳、黒い夜着に隠された太ももに向けられている。

 仕込んだ暗器に気づかれたのだろう。想定通りの展開だけれど、あまりに鋭い観察眼に内心で舌をまく。


 にっこりと微笑みながら、わたしは小さく両手を広げ、敵意がないことを示した。


「まさか。嫁いで早々未亡人になっては、わたしも困ってしまいます。――それに旦那さまにはわたしの攻撃など、きっと通じないでしょう?」


 そう言いながら、隠して身につけていた痺れ針や小刀や、拳銃などをベッド脇のサイドチェストにドサドサっと乗せていく。

 さすがにこの量は見抜けていなかったのか、彼はちょっと不本意そうに片眉をあげた。


「こちらはただの護身用です。自分の身は自分で守るというのが、フィデリス公爵家の家訓でしたので」

「立派なことだ。これから初夜を行う予定の人間には必要な、大切な心がけだな」

「行うつもりなどなかったくせに」


 ストレートな皮肉にわたしが肩を竦めると、彼は眉根を寄せ、わたしを観察するかのように目を細めた。


「…………わざと俺に警戒心を抱かせているようだが、一体何が目的だ」


 その言葉に、内心で安堵する。


(掴みは成功だわ。今日一番難しかったのは、この人の関心を惹きつけることだから)


 警戒している彼に微笑みながら、わたしは唇に人差し指を当てた。


「秘密です」


 彼の目が剣呑な、冷たい色を帯びる。


(本当に、この人に愛というものを伝えられるのかしら)


 けれど半年前に女王陛下から下されたこの密命を、必ずこなさなければならない。

 だってわたしは女王の忠臣、フィデリス公爵家の人間なのだから。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ