第40話「獰猛なヒトとして」
空からの使者は、星系防衛軍の勇者達は歓迎とともに迎えられた。勇者、ということになった。
貴重な、そして星系防衛軍が動いたということは『私達はヒトから見捨てられてはいない!』という強い支えになっていた。不利な時ほど、精神的には参ってしまい、心から負けていく。貴重な戦力であると同時に、大切な心の支えだ。
最後の砦。
まるで希望の象徴のような言葉に聞こえるけど、滅びかけている状態以上でも以下でもないんだ。
私達にはもう後がない。
どこにも逃げられず、追い詰められ、最後の瞬間までここに立つしかないのだから。
空を見上げていた。ドームの外の光景が見えた。ウィドォの昼と夜の区別がつかない空だ。輝き、眩しく、激しく星が煌めく。しかし、それは星とは違うのだ。
長い鼻。立派な牙。垂れた耳。煌びやかな羽毛。鋭い嘴。肉球の手。鱗の肌。
異体、しかしヒトが同じように見上げた。空をーーその先を。
「眩しい夜だ」
「こっちはいつも夜みたいなもんだけどな」
「あっ! 見て、あちこちで星が増えてる!」
「艦隊戦か……」
「リアクターの爆発だな。地上からでも見えるのか」
「遠いな。ウィドォに近い軌道じゃない」
久し振りに、艦隊戦というものを見た。暫く振りだよ。ずっとパラサイト艦隊が居座っているだけだったから。鮮やかな煌めき、流星が降る。
命が燃えているというのに、夜を切り裂く輝きは……酷く綺麗だった。
「来るぞー!」
そうだった。
そうだよね。
空にばかりかまけてはいられない。今、私は地上にいるんだ。空は空の連中に任せよう。私は地上にだけ目を向けていればいいんだ。
それはーーパラサイト軍だって同じらしい。
「とはいえ私達は予備戦力だ。前哨戦のうちに休憩しておこう」
「食えるだけ食っとけ、ラビとかいうモヤシ!」
「おい、ベア」
「モヤシは失礼な表現だったか」
「ホワイトは?」
「スープを一〇〇〇〇人分煮込んでる」
「頑張ってるんだな……ペンは?」
「さぁ? 一緒に煮込まれてるんじゃないのか?」
そんな他愛ないことを話していれば、他のヒトの声も聞こえてきた。ピクリと、三角の耳をそちらに……。
「あっ、タートルだ」
「げっ、何してんだリオン」
「お前もウィドォにいたなんて意外だ」
「他にもバベル出がいるぞ」
「変人だな」
「あっ、ボアさんはいないぞ」
「だと思ってた!」
パラサイト地上軍は直射で要塞の壁を突き崩す狙いがあるようだ。フォースシールドのスクリーンが形成された包囲網の内側に守られながら、エネルギーが飽和状態の、極めて危険で不安定な砲弾が撃ち込まれ続ける。義勇軍の砲戦力と削りあいながら、継続的に砲弾を送り込んでくる。山も打ち崩せるだけの鉄量だ。
ーーそして。
数日間の一点砲撃に遂に突破口が作られた。崩れ落ちるのは、やはり、比較的、もっとも脆弱なゲート周辺だった。崩れた瓦礫が地上に雪崩のように押し寄せて、なにもかも飲み込み、煙で隠してしまう。だが……だが、センサーと耳はたしかに聞いた。大地が震撼する音を。押し寄せるパラサイトの群れを。
私はヘルムを被る。三角耳に合わさったそれを、まったく引っかからずに被る。
開いた穴は埋めないと。
相棒のガンドラーースターニャの鉄の脚を叩く。
「行くぞ! ラビ、頼む」
〈戦況報告〉
「突破された! 予備戦力で塞ぐのか? それとも下げるのか!?」南極要塞の防壁の一部が遂に、パラサイト砲兵によって崩壊させられる。怒涛と押し寄せる機甲軍団は変形した地形を物ともせずに走り抜け、要塞内へと流れ込み、周辺防衛部隊を駆逐。突破口の補強と拡大を目指したが、予備戦力の即時投入と防衛線の放棄によって進行は停止する。
「振り落とされないでくださいよ、スターニャ!」
パワースーツのおかげで、大した抵抗はない。舞うガンドラに取り付き続けるのは簡単だ。背部の補助アームを使って、スキャッターライフルの予備弾倉を交換する。
「そんな鈍臭いことはしないよ、ラビ! 昔と同じだ、やんちゃに行って!」
「お言葉に甘えて激しく行きますよー!」
メイン回廊にパラサイト一団が侵入した。こちらに気がつき銃口を向けーーラビのガンドラが滑り込み脚で薙ぎ払う。合金のガンドラの脚から火花が光り、慣性のままに回転し始めるがラビはそんなことを気にせずに溢れた背後のパラサイト、これから引き潰すパラサイト区別なく銃口を向け、血風の霧に変えた。
地上では一進一退が続いている。
形体の差がヒトには大きいいけど、だからこそお互いがサポートしあった。小さなヒトが最前線で殴られないように、より大きくより強い力のものが盾を作り、そんな盾になってくれたヒト達を支えるために小さなヒトも体を張る。
傷ついたヒトを助け出すのはいつだって、勇敢なネズミや小鳥のヒトだ。押し合いの足元をスルリと走り抜け、倒れた仲間を助け出す。
ヒトとして誰もが戦っている姿を、私は見た。
そこにいるのは皆、形体が違う。
同じヒトであるのか、誰もが疑問をもつ。極自然に、ヒトではないと思うようになる。
だけど……ヒトだ。
ヒトなんだ。




