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第39話「共闘、そして滾る闘争」

〈戦況報告〉

「ガンドラに任せて! 早く撤退を、南極を目指して」火力戦。最大級の火力を封じて、かつこちらの火力を最大限使う為の熾烈な砲兵狩りが続く。負ければ一方的に粉砕されるだろうが、集積している弾薬の数はパラサイトよりも桁違いのMID義勇軍が優勢だ。だがそれは、もはや支えていられない戦線を下げる目的の支援に過ぎない。順調に、損耗少なく交代するMID義勇軍だが彼らは、最後の拠点である極地要塞に残存戦力の全てを結集した。決戦への備えではなく、追い立てられ、追い詰められた結果だった。


 私は、ラビに会いにハンガーに足を運んだ。ハンガーの中にラビはいた。ガンドラから、大きくて長い耳がのぞいている。


「ラビ、休憩だ。MIDを働かせてあげて」

「わかりました、スターニャ」


 ハンガーの一角でさえ静まることはない。MIDは疲れをしらずに、損傷した車やらを修理しつづけている。地下の工場から新車の出荷もあるのに元気なものだ。


「お疲れ様」

「褒められました」


 変わらない雰囲気のラビが隣に座っている。必ず生きて帰れるかはわからないのに、どちらか、あるいは両方が……それでも今がどうしても私には特別の感じられた。とても良い意味でだ。


 幸せを覚えているんだ。


「何もこんな戦況でーー」


 ウィドォは失陥前夜だ。宇宙での戦いはわからないけれど、少なくともウィドォはもう長くは保たない。そんな中での増援、軌道降下は、と続けようとしたらラビに、


「ーーそれ以上は口にさせません」


 豊かな毛並みの指先が、私の唇を塞ぐ。


「酷い。指で塞がれては喋れないよ」

「喋らせないために塞ぎましたから」

「むぅ」

「意地悪と思いますか、スターニャ」

「ちょっと思う」

「ラビの大勝利ですね」


 えっへん、とラビは胸を張る。自身に満ち溢れていて、彼女は自分の脚で立ったことに僅かも後悔を感じさせない。誰よりも、あるいはそれは失礼かもだけど、少なくとも弱い部類の脚だ。そして彼女はウィドォに立った。弱い脚で選び、立ったのだ。


 命が惜ければ。


 命が何よりも大事であれば。


 命こそが尊ければ。


 ラビは愚かな決断をしている。だが私にはどうしても、彼女が愚かには見えない。見ることができない。


「体は大丈夫?」

「スターニャが心配することじゃないですよ」

「そっか。うん、頼むよ?」

「ガンドラはそのためにいます。……夢だけで生きているわけでは、ありませんので。彼女は私の半身ですね」

「エレカといい、ラビは乗り物が好きだね」

「まぁ……えっと、そうですね」


 ラビの歯切れは悪い。ラビ自身が自分の体をわかっているからだろう。私は何も、聞きはしなかった。


「ゲートを封印する」

「後続はいないのか?」

「後続はパラサイトだ」

「わかった。充填材を頼みます、MID達」


 南極要塞の巨大なゲートがゆっくりと淡い影を落とし始めた。もう二度と開かれることがないゲートだ。南極要塞でもっとも外側、そして入口で、地獄への門でもある。


 その封印作業。


 次にこのゲートが開くときは、パラサイトに破壊されて、奴らが津波と押し寄せてくるときだ。まさか無傷のまま、四苦八苦しながら、杞憂だったと私達の手で崩すことはありえないのだ。望めないだろう。絶対に叶わない夢や希望は、毒でしかない。


「いよいよだね」


 ラビのガンドラ、その肩に乗せてもらいながらの散歩は快適……ではない。だが最悪、パワースーツの指でガンドラにタンクデサントできそうだ。


 機動兵器に捕まるのは恐ろしい。スーツの握力と強度を信じよう。華奢なわりに頼りになるのは間違いない。MID製だ。


「戦線も小さくなったね。電車で東西南北どこにでも武器弾薬兵員を短時間で送れる」

「経済的ですね」

「最高の効率だな」

「そうでしょうか」

「皮肉だよ」


 弾薬も武器も、ヒトよりも多い。パラサイトよりも多いかまではわからないけど。


「ガンドラの扱いが上手いね、ラビ。すっかり自分のものにしている」

「サイココントローラーなので考えるだけです。簡単ですよ」

「車両免許よりも簡単に取れそうだ」

「エレカが音速で走りながら瞬きの瞬間に通り過ぎる数十の物体を避ける必要がありますから……」


 エレカ運転免許は中々の難関だ。もし免許証を持っていたらヒトを疑われるだろう。特殊技能だ。ヒト・コンピューター。ラビのことだけど。


 本当にヒトなのか、と疑わなくもない。


「スターニャ。何か見えましたか?」


 ラビは唐突に聞いてきた。


「この星で、MIDを見て、ヒトを見て。感じたことを聞きたいです」


 私は肩をすくめた。


 けっこう、戦っていると余裕がないものなのだ。よくわからないーーという言い訳で隠した。


 見た事実なら話せるけど、たぶん、まだ足りないんだ。


「人間て知ってる? ラビ」


 話題を変えるために私は、


「ヒトとも違うらしい概念のことなんだけど」

「さぁ、なんでしょうか。ヒトと人間の違いがラビにはわかりませんけど」

「私もだよ」


 わからなくなる。


 ヒトと人間の違いって、何なんだろ。なんとなく、ヒトを拒絶する言葉として私は人間を利用している。ヒトと人間は違うのだと。


「人間て何なんだろうな」


 ヒトはーー違いすぎる。


 違いすぎるんだ。

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