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アンドロイドは嘘をつかない  作者: cassisband
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第六章 利己的なアンドロイド 3

 翌日も取り調べが行われた。

 ヤマトは、マリアと共に取り調べに参加した。マリアは、犯行に至る経緯と犯行状況を丁寧に確認している。

 リンダに関しては、アンドロイドではあるが、人間と同様の処置が取られることが決定している。刑事訴訟法によって、逮捕後四十八時間以内に検察庁へ送致することになる。

 リンダは今日も素直に供述している。

『アンドロイドは嘘をつかない』常にこの言葉が浮かぶ。

 マリアは事情聴取を続ける。

 ヤマトはマリアの背後に用意された椅子に腰かけて、その様子を見ていた。

「自首をしてきましたけど、なぜ一週間もかかったのですか?」

「少しでも、ジョー博士と……。ジョー博士に寄り添いたかったからです」

 これが人間ならば、異常な行動だ。過去に人間の事件にも似たケースはあった。しかし、それは人間の事件の話だ。殺してもなお、相手に常軌を逸した執着をする。異常性があると言えども、人間だから理解される部分もある。過去には、愛人の死体を損壊して持ち歩いた類などがあった。

 アンドロイドだとしても、このような行動が起こりうるものなのだろうか。アンドロイドにも心があるのか。薬師寺博士は、アンドロイドに心はないと言ったが、生命が自然発生的に進化を遂げたように、ある時生まれるということはないのか。いや、時間をかけて心のようなものが心に進化を遂げていくということもあるのではないのか。

「事件後に、あなたは自宅に戻って、黒岩井ジョー博士の頭部を燃やしています。その後、逃走しました。出頭はその翌日です。あの時、逮捕されてもよかったはずです。あの晩、一体何をしていたのですか?」

「最後に思い出の、ジョー博士と過ごした思い出に浸りたかったからです。それから……」

「それから?」

「懐かしみたかったからです。ジョー博士と過ごした風を感じて、ジョー博士のことを思い出したかった」

「風?」

 ヤマトは、ふと昔観た映画を思い出した。その中でアンドロイドは口笛を吹けないというシーンがあった。理由は感情がないからだった。

 リンダなら口笛が吹けそうだと思った。アンドロイドなので、呼吸はしないはずだが、息づかいも感じるような気がする。

「もうひとつ。ジョー博士の自宅には、研究に関するものが一切ありませんでした。ジョー博士ほどの科学者ならば、自宅でも何らかの研究に関わっていたはずだと私は思っています」

 リンダが小さくうなづくのが見えた。

「しかし、どこにもそういったものがなかった。研究の機材も、データを保存したディバイスも。プリントアウトした資料一枚なかったのですよ。それをどうしたか、あなたは知っていますか?」

「はい。知っています」

 聞かれたことにそのまま答える。イエスかノーで返答する。アンドロイドらしい、問答だ。

「あなたが持ち出したのではないですか?」

 マリアが核心に迫ろうとしていた。

「いいえ。私は持ち出したりしていません」

 リンダの答えはするりとマリアの手をすり抜けた。

「じゃあ、どこに行ったのです?」

 マリアの声にほんの少し苛立ちが含まれる。

「ジョー博士が処分しました。ジョー博士は、研究ができない身体でした」

 マリアの仮説はあっけなく消滅した。アンドロイドに嘘はつけない。

 マリアは肩で息を吐くと、エアタブレットに目を落として、自分がするべき質問を検めた。

「あなたたちアンドロイドには、緊急用に自殺スイッチ……起動停止ボタンが搭載されているのは知っていますか?」

 すでに、先ほどの苛立ちを感じさせない声質に戻っている。

「はい。知っています」

「それを使用せずに、自首したのはなぜですか?」

「人間であれば罪を償いますよね。ワタシはアンドロイドですけど、罪を償いたいと思いました」

 そのあともリンダは淡々と質問に応えていった。

 今日の事情聴取は以上となった。ヤマトとマリアは警察署の外に出た。冷たい夜風に当たる。心地いいと感じる。頭がすっきりしてくる。深呼吸をして、しばらく星のない空を見上げた。

 夕食を調達しに、街を歩く。人間とアンドロイドの違いとは何か、そんな当たり前の答えが不鮮明になりそうだった。街中の人々が全部アンドロイドに見えてくる。

 夕食を食べるために、捜査一課へ向かう。データプレートにニュースが流れていく。ニュースは、反アンドロイドの過激派組織に関する報道を伝えている。

「アンドロイドをぶっ潰せ!」

「人間に人権を!」

 映像の中の怒声はだんだん強まっていく。

 反アンドロイドの暴動は過激化しそうな機運もある。人型アンドロイドの社会進出により、仕事を奪われた人間がいることも事実だった。

 マリアがニュースを眺めている。街灯に照らされたマリアの顔が、ガラスに映っている。ヤマトは声をかけた。

「大変な作業だよな。なんたって、アンドロイドを尋問するなんて初めてのケースだ。マスコミや周辺の連中も騒がしい。そこは俺にまかせておけ。明日のためにしっかり寝ておけよ」

 マリアは、取り調べの報告書をどんなふうにまとめたのだろう。


 ヤマトは久しぶりに自宅に戻った。淀んだ空気が室内に充満している。

 トイレへ向かった。用は足さずに、洗面所の鏡を見る。自分の顔が映し出される。顔を洗って、また鏡を見た。人間は老いていく。見た目はどんどん変わっていく。アンドロイドは歳を取らない。


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