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雨の少女  作者: 朝山 みどり


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01 買い物

以前、短編で投稿したものを練り直したものです。読んでみて下さい

「明日から二、三日雨を降らせるから、その間に読む本とお菓子を買っておきましょう」

お母様がそうおっしゃったとき、わたしは嬉しくて、小さく頷いた。お出かけが嬉しいのは、お母様と手をつないで街を歩けるからだ。

お買い物ももちろん。本とお菓子も楽しみ。


お母様の手は、いつも優しくて、ほんのりと温かくて、それでいて、ふっと消えてしまいそうなほど儚かった。

でもその手でお母様は全てを愛して癒す、恵みの雨を降らすことが出来る。


この国の起源に纏わる言い伝えがある。


「大昔、この国が起こる頃、仲の良い友人三人に神様が協力してくれた。一人に豊穣の能力。一人に雨の能力。一人に太陽の能力を分けてくれた。

三人は国を作る時に話し合った。演説の上手い豊穣が王様になり、残りの二人は目立つことが苦手だったのでその能力を隠して協力することにした」

誰もが知っている言い伝えだ。

そしてこれは事実だ。知っているのは三人の子孫。王家、レイナード家、サニダ家。

わたし、アンナ・レイナードは将来、母のキャサリンの跡を継いで、特命伯爵となり雨を降らせるのだ。母のように人を愛し、世界を愛するのだ。



街の石畳を、二人並んで歩く。


「アンナ、ゆっくり歩きましょうね」


「うん」


返事をしながらも、気持ちは高鳴っていた。久しぶりに街へ出たのだもの。パン屋さんの焼きたての匂い、仕立て屋さんのガラス越しに見える新しいリボン、香水屋さんの店先に並ぶ琥珀色の瓶。どれも眩しくて、ふわふわと心が浮かんでしまう。


「今日は何を買おうかしら?」


「外国のお話の続きを読みたいな。あと、果物の飴」ケーキやビスケットは作って貰えるが、飴はお店で買うのだ。


「じゃあ、飴はあとにして、先に本を選びましょうか」


本屋さんに入ると、私はまっすぐにお目当ての棚へと向かった。お父様が前に買ってくださった本の続きがあるかもしれない。辞書を引きながら読むのは大変だけど、あの世界の言葉が分かるようになると、少しだけ大人になれた気がして、私はその時間が好きだった。


「これにするの?」


お母様が私の手元をのぞいて言った。私はうなずく。


「ほら、世界を旅して回る話よ・・・虹の向こうを見たいわ」


「いいわね。あっちはいいの?」とお母様はわたしが、欲しいけど諦めた本を見て言った。


「あれは・・・」


「いいわ、買いましょ。お母様も読んで見たいわ」と外国語の本も買ってくれた。辞書を引きながらなら読める。嬉しい!



次はお菓子屋さんへ。小さな缶に入った宝石みたいな飴が並んでいる。その中から、いちごの香りのする赤い飴を選んだ。あとは、ジャムを挟んだビスケットも買って貰った。


帰り道、私は買ってもらった本と飴の缶を持っているお母様の手を引いて急いで歩いた。お母様が笑う。


「まあまあ、そんなに急いで。雨はまだ降らせないのよ?」


「でも、早くおうちで読みたいんだもん」


「そうよね。わかるわ。わたしはこの飴が楽しみよ」


そう言うとお母様も少し足を速めてくれた。


翌日から雨が降り出した。


それは優しい雨だった。畑の野菜や麦が喜ぶような、静かで温かな雨。子供たちは長靴で水たまりを跳ねて遊び、大人たちは

「恵の雨だ。ありがたいね」と喜んだ。


二日目になると、山の木々が青々と輝き出した。葉は雨を含んで重たく垂れ下がっていたけれど、それさえも美しかった。ただ、遠くの空に黒い雲が漂い始めたとき、私は少しだけ胸がざわついた。


でも、お母様は大丈夫よと言って微笑んでくれた。


「心配することないわ。一人じゃないから」って言って。



わたしの世界は、大好きなもので満ちていた。


お父様は外交官で、仕事でなかなか家にはいなかったけれど、その代わりにお手紙をたくさん送ってくれた。封筒を開けるたびに、お父様の匂いがして、胸がきゅんとした。帰ってくると、いつもおみやげをたくさん持ってきてくれた。お菓子、万華鏡、絵本、ちょっと大人っぽい香水の小瓶。ひとつひとつが宝物だった。


最近は外国語の本も送ってくれる。私は辞書を片手に、夜遅くまでページをめくっていた。難しい言葉はメモに書き出して、あとで意味を調べる。知らない国の風景や、知らない言葉を話す人々の会話が、ページの向こうからわたしに話しかけてくるのが楽しかった。


お母様も、わたしのそういうところを

「あなたらしいわね」と言って、微笑んでくれた。


わたしの世界。それは、お母様と、お父様と、この家と、本と、そして、雨の音だった。


暖かくて、やさしくて、少しだけ寂しいけれど、どこまでも深く、静かに包んでくれる雨。


わたしはこの世界がずっと続くと思っていた。





いつも読んでいただきありがとうございます!


楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。



それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。


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