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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
最終章 異世界「イスティーリア」編
134/143

ACT-132『愛の鞭と、国境の魔物』


「ええか?

 この剣の刀身は、希少な“エアクォーツ”って素材で出来とるんや。

 硬度だけじゃなくて靭性にも優れとってな。

 んで、照射された魔法の効果を高めて維持する性質があるんやわ。

 この武器は、ケータイからのエネルギーを受けて刀身の破壊力を高めてるんやで」


「でもそれって、今まで通り普通に使ってた方が良くない?」


「アホやなぁ」


「なんだよ!」


「今までは無尽蔵にエネルギー消耗しとったやろ?

 けどこれは、チョイ押しした分のエネルギーでさっきみたいな破壊力出せんねん」


「えっ?! チョイ押しだけで?」


「せやで、だから大幅にエネルギー節約出来て、その上攻撃力は維持出来るんや。

 ただし、射程距離は大幅に犠牲になってまうけどな」


「それでもあんな遠距離攻撃出来るんだろ?!

 すごいじゃん! ありがとう、こんな短時間でこんな凄い武器造っちゃうなんて、キュズィナルツって本当に凄いんだな!」


「ま、まぁ、そうでもあるけどな! ニャハハ♪」



 卓也が、トレモロから譲り受けた剣は、PDフォトンディスチャージャーを合体させることで完成する、実体のあるレーザーブレード……のようなもの。

 ありがたく新兵器を受け取り装備すると、卓也は地上への階段を見上げた。


「ホンマに、もう行くんか?」


「うん、夕べ君に言われたことで、なんか吹っ切れそうな気がして」


「そか。

 なあ、聞こうと思ってた事あんねんけど、今聞いてもええか?」


 何故か急に遠慮気味な口調と態度で尋ねられる。


「うん? 何?」


「あのさ、あんたんとこのパーティに、とんでもない美人さんおったやんか」


 はしまきの中で、一番最初にトレモロと会話したのが、澪だったことを思い出す。

 思わず表情に出そうになるが、ギリギリで抑える。


「あんな、違ったらごめんやけど。

 あの美人さん、もしかして、卓也の……好きな人なん?」


「どうしてそう思った?」


 自分でもびっくりするくらい、冷たい口調で呟く。

 その言葉に驚いたのか、彼女は更に遠慮気味に続ける。


「うち、最初にあの人に頼まれて断ったやろ?

 そん時あの人、戸惑って真っ先に卓也の方を見たんや。

 他の二人や、おっちゃんやのうて」


 そんな細かい所をあの一瞬で見ていたのかと、本気で驚く。

 

「んでな、気になっておっちゃんに聞いてん。

 あの人、昨日、王様のお妃様ってことにされてへんかった? って」


「ああ、どうやらそうらしい」


 出来るだけ感情を殺して、他人事のように言い放つ。

 何故か、彼女にその辺の事情を語るのが躊躇われる。


「ええんか? このまんまで」


「どういう意味だよ?」


「もしかして、王様に盗られたんちゃうんか?」


「盗られたんじゃないよ。

 自分の意志で、王の所に行ったんだ」


 あの晩、目の前に現れた半裸の二人の姿を思い出す。

 今にも叫び出しそうになる感情を必死で堪えて、卓也は平静さを維持しようとする。


「なあ、聞いて」


「なんだよ?」


「うちな、この二日間でな」


「うん」


「卓也のこと、結構好きになったんよ」


「は?」


 思わず変な声を出してしまう。

 冗談だろ、と思ったが、トレモロは顔を真っ赤に染めて両手をモジモジさせている。

 

「か、解釈は任せるわ。

 けどな、もしも、もしもやで」


「う、うん」


「もしうちがな、卓也の……そ、その、こ、ここここ」


「コッコココケッコー、結構ですーねコメーリ~♪」


「なんやそれ?」


「コメリホームセンターの最初期のCMソング」


「ドアホ、こんな時におちょくんなや!

 うち真剣に話してんねんで!」


「ご、ごめん、緊張感に耐えられなくてつい」


 素直に謝る態度に「まったくもう」と呆れるも、それでかえって緊張が解けたのか、トレモロはそこから普段通りの話し方に戻った。


「もしうちが、あんたの恋人やったとしてな」


「あ、はい」


「それで、誰か悪い奴にさらわれたとするやん。

 そん時、あんたどうする?」


「そ、そりゃあ、助けに行くよ」


「なんで?」


「なんでって、そりゃ大切な恋人なんだし」


 卓也の言葉に、トレモロは思い切り睨みを利かせる。


「嘘やん。

 あんた、絶対に行かへんわ」


「どうしてそんな事を言うんだよ?」


 不思議そうに尋ねる卓也に、トレモロは、最初に出会った時のような少々高圧的な口調で言い放つ。


「だって! 実際に行ってへんやん」


「え……」


 真っ直ぐ指を差され、言葉に詰まる。


「あんたらの関係は、うちようわからんで?

 けどな、恋人やろがなんやろが、大事な仲間がそんな風になってんなら、助けに行くのが男ちゃうんけ?」


「待ってくれトレモロ。

 だけどあいつは」


「おっちゃんから聞いたで。

 あの人、王様が持ってるウィッシュリングってもんを貰う為に、身体張ってんねんな」


「う……」


 なんだかどんどん、トレモロからの圧が強くなる。

 そして卓也は、ずけずけとこちらの事情に入り込んで来る彼女の態度に、徐々に怒りを覚え始めていた。


「それ、あんたら仲間の為思うてやったんちゃうんか?

 ええんか? このままじっとしてたら、あんたらもう元通りの仲に戻れへんのやで?」


「黙れよ……」


「はぁ?!」


「黙れって言ってんだ!

 何も知らない癖に! 好き勝手な事言ってんじゃねぇ!!」


 もう、抑えられない。

 卓也は、ありったけの怒りをぶつけるような勢いで怒鳴りつけた。






  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■

 

     ACT-132『愛の鞭と、国境の魔物』






「君には、絶対にわからないよ……。

 大好きで、世界で一番愛してた人に裏切られて……その人に、別な男との披露宴に招かれた俺の気持ちなんて……」


「た、卓也……」


「もう、沢山なんだよ!

 どうせ俺なんて、誰か好きになっても結局裏切られるんだ!

 澪だって! あんなに俺の事が好きだって言ってたのに!

 あっさり乗り換えちまったじゃないか! しかも、結婚だぞ?!

 そんなのってアリかよ!!」


 慟哭が、地下室に響き渡る。

 澪が居てくれたおかでで長い間忘れてはいたが、消し去る事は決して出来ない、苦い記憶と想い。

 それが、堰を切ったように溢れ出す。

 卓也は跪き、石床を叩きながら吠える。


「俺はそういう運命なんだ!

 これからも、どんなに人を好きになっても! 結局裏切られるんだ!

 だから、もうアイツのことなんか――」



「くぉの……アホンダラがぁ―――っっっ!!!」



 突然叫び声を上げ、トレモロが卓也の頭を本気で蹴飛ばした。

 

「うごっ?!」


「大人しく聞いてりゃ情けない事ばっか並べ立ておってからに!

 何が運命や! 何が裏切られたや!

 人をバカにすんのもたいがいにせぇや!!」


「と、トレモロ?」


 今度は、トレモロが怒りを爆発させる。

 無理矢理卓也の襟首を掴み引き起こすと、顔を接近させて凄む。


「じゃあ聞くけどな!

 あんた! 一度でも奪い返そうとしたんか?!」


「う、奪い返し?!」


「せや! 別な男に寝盗られた時、その彼女を取り返しに行ったんか?

 行ってへんやろ?!

 あんたはな、臆病で奪い返しに行けなくて、ただ引きこもって愚痴っとるだけや!」


「そ、それは違……?!」


「勝手に諦めて、勝手にいじけて、勝手に運命のせいにして落ち込んどるだけやんか!

 はあ~、あんたみたいな情けない男を、一瞬でも好きになった自分が恥ずかしいわ!」


 そう言って、襟首から手を離す。

 蔑むような目線が突き刺さる。


「ええか、聞きぃや。

 女はな、ただ優しくするだけの男なんか、これっぽっちも魅力なんか感じへんねん」


「え?」


「やる時はやる男を好きになるんや。

 何かあった時に助けてくれたり、迷った時に引っ張ってくれたりな。

 そういう所に頼り甲斐を感じて、惚れるんや!

 あんた、今までそんな事した事あるんか?! ないやろ?!」


「う……」


 トレモロに言われて、振り返る。

 優花に裏切られた時、自分はどうしたか。

 思考が停止し、何もかもが嫌になった。

 今までの彼女との関係も、彼女に関連する友人付き合いも、全てに価値を見出せなくなった。


 もう、自分のものじゃないんだ。

 他人のものになってしまったんだ。


 そう考えて、それ以上何もしない事を選んだ。


 それなのに心のどこかで、帰って来てくれないかなと、女々しく思い続けてもいた。


「なぁ……卓也?」


 トレモロが、しゃがんで卓也の両肩に手を置く。


「うちからのお願いや。

 あの人、助けたって」


「と、トレモロ……」


「あんたが見捨てたらな、あの人、ずっとここに取り残されるんや。

 大好きなあんたとも、仲間とも離れ離れになって、何処にも行けずにずっと幽閉生活や。

 絶対に、待ってるわ。

 あの人……澪さん、て言うん?

 澪さん、絶対に、卓也が来てくれるのを待っとるわ」


 彼女の頬に、一筋の涙が光る。

 それを見て、不意に胸が締め付けられる。


「王様は、どんどんおかしくなっとるちゅう噂やし。

 このままやと、澪さんどんな目に遭わされるかもわからんで。

 なあ、お願いやさかい、行ったって?

 ここで、男見せてぇな!」


「……」


「必要なもん、他にもあるなら好きなだけ持ってき!

 うちに出来る事なら、いくらでも協力するわ。

 だから、澪さんを助けて、この世界から脱出してな……」


 涙でぐしょぐしょになった顔を上げ、トレモロが懇願する。

 それを見た卓也は、静かに目を閉じた。


 そうだ。

 彼女は、この世界に捕らわれているんだ。


 大好きな家族とも、友達とも、二度と逢えない“異世界”という監獄の中に居るのだ。

 そんな彼女の心の叫びが、何を表しているのか。


 卓也の中で、何かが目覚めた気がした。


「――わかった」


「卓也!」


「上手く行くかわかんないけど、やれるだけやってみる」 


「よう言うた!

 それでこそ、うちが惚れた男や!」


「……それ、マジだったん?」


「……」ドムッ!!


 卓也は、強烈なボディブローを食らい悶絶した。




 澪を奪還すると、口で言うのは簡単だ。

 しかし、それを実行するにはあまりにもハードルが高すぎる。

 いくら卓也がキュズィナルツの最新装備を手にしたとしても、潜入のスキルを持っているわけでもなければ、多勢をも圧倒するだけの圧倒的戦闘力を持っているわけでもない。


 まして、万が一澪に何か問題が起きたら意味がないのだ。

 加えて、既に関係がバレているグルドマック、そしてトレモロにも被害が及んだら意味がない。

 

(どうすればいい?

 どうすれば、問題なく澪の所に行けるんだ?)


 卓也達が、本来この後にやる筈だったことは、国境に赴いて物見の塔に巣食うという魔物を討伐し、越境の承認を貰うこと。

 しかも、それをダークリベンジャーよりも先に果たさなければならない。

  

(どうする? このまま強引に乗り込んで、いちかばちか澪を助け出して逃げ出すか。

 それとも、物見の塔をとっとと攻略して王に堂々と謁見を申し込むか?

 でも、どのみち俺は指名手配されてるんだろ? だったらどっちも駄目じゃん)


 何をやるにしても、今の卓也一人では無謀な結果しか見えてこない。

 トレモロと相談し、夜になって辺りが暗くなってから家を出ようと考え始めたその時、突然、彼女が悲鳴を上げた。


「どうした、トレモロ?!」


「な、なんやこれ?! た、卓也ぁ!!」


「どうしたn――げべっ?!」


「な、なぁこれ、何やろ? 怖いわぁ……」


 二人の目の前数メートルの空間に、突然、丸い穴が出現していた。

 壁や階段にではなく、空間そのものが開いているのだ。

 しかもその向こうには、見た事もない景色が広がっている。

 だが卓也は、その景色の中に塔のようなシルエットを発見した。


「これ……もしかして、物見の塔?!

 でも、なんで?!」


「誰がこんな魔法使つこうたんや?! 聞いたことないで、こんなん!」


「えっ、これトレモロが魔法使ったんじゃないの?」


「ちゃうで! うち、研究以外ではここで魔法なんか使わへんもん」


「え、じゃあ、これいったい誰が……?」


 恐る恐る近付き、穴の向こうを良く見ようとしたその瞬間、卓也は強烈な吸引力に捕らわれ、ほんの一瞬で吸い込まれてしまった。


「うわ――……」


「た、卓也ぁ?!」


 何が起きたのか咄嗟に理解出来なかったものの、空間に空いた穴は徐々に小さくなり始めている。

 どういうわけか、自分は吸い込まれないと理解したトレモロは、卓也の装備品を持ち上げると穴の中に投げ込んだ。


「卓也ぁ! 卓也ぁ!!」


 トレモロの呼び声に、返事はない。

 やがて穴はゆっくりと閉じ始め、消えた。


「こ、こんな高度な魔法の使い方、見た事も聞いたこともないで……」


 



「あいたたた……な、なんだったんだありゃ?」


 尻もちをついて着地した卓也は、腰をさすりながら起き上がる。

 そこは地平線が見えるほど広大な荒地で、大小様々な丘が幾重にも広がっている。

 その丘の向こうに、僅かに飛び出している黒い影が、塔のように見える。

 先程、あの穴越しに見た光景が、目の前にそのまま広がっているのだ。


(あれ? 俺魔法が効かない筈なのに、なんでこんな所にすっ飛ばされたんだ?!

 えぇ?! あっ、穴が塞がってる!)


 慌てて周囲を確認するも、やはりあの謎の穴は見つからない。

 しかし、少し離れた所に自分の荷物と装備が落ちていることには気付けた。

 

「これ、トレモロが咄嗟に放り込んでくれたのかな?

 あ、新兵器もちゃんとあるわ。こりゃあありがたい」


 どうやら、旅に出るために準備したものは、一通り揃っているようだ。

 ひとまず安心はするものの、問題はここからだ。


(何が起きたのかはわかんないけど、どうやら選択肢はこれしかなくなったようだな)


 しならく辺りの様子を窺っていると、遥か向こうに誰かが歩いているのが見える。

 何となく見覚えのあるそのスタイルに、卓也は思わず声を掛けた。


「おーい! テツぅ、ジャネットぉ!」


「えっ、卓也?!」


「どうしてあなたまで、こんなところにいるんですの?!」


「いや、それ俺も同じこと聞きたいんだけど」


「穴! 吸い込まれ! 尻もち! 以上!」


「おお、分かりやすい説明ありがとうテツ!

 そして俺も同じだ!」


「ふっ、甘いな卓也。

 俺はそこに“ジャネさんのおっぱプレス加わってっからな!」


「なんだと最高かよ」


「さすが卓也、話が早ぇぜ!」


「二人とも、あの塔まで一撃で吹っ飛ばしてやろうかです~?」


「「 すみませんごめんなさいもうしません 」」


 

 その後、三人はここに至るまでの経緯を伝え合った。

 どうやら彼らにも、謎の穴については心当たりがないらしい。

 卓也は即座にユマさんの手助けの可能性を挙げたが、それは即座に否定された。


 ヴァレネドリンの衝撃的な出来事を伝えられ、卓也の顔色が青ざめる。


「なんだって……俺達がいない間に、そんな事になってたのかよ!」


「ああそうだぜ。

 なんかもう、ユマさんが何者なのか、何をしたかったのかもわからなくなってきたぜ」


「ああ、それなんだけどな――」


 卓也は、トレモロから聞いた“エルフの話”を二人に伝えた。

 この世界では、エルフは滅ぼされている、ということを。

 無論、ジェムドラゴンから教わった具体的な部分は隠したまま。

 二人の顔色が変わる。


「どういうことですの?!

 私達は、存在しない筈のエルフに助けられて来たということですの?!」


「ああ、そういえば思い当たるフシがあるなあ」


「え、何?」


「俺、ユマさんと一緒に解体業者捜しに行ったじゃんか。

 その時な、交渉とか物資の運搬とか、全部俺がやらされたんよ」


「どういうことですの?」


「つまり、ユマさんは俺に指示だけして、それ以外は何もしてねぇんだ。

 もし、あの時あの場にユマさんが本当は居なかったとしても、なんか色々成立してるんじゃねぇのかなってさ」


「お、おいおいおい……」


「要するに私達はユマという不気味な存在に惑わされ、更に誰かわからない者の罠に嵌められて、無理矢理ここまで連れて来られたってことですのね。

 卓也に至っては、魔法が効かないってチート設定まで無視されて」


「無茶苦茶にも程があるなぁ~」


「澪さんが、遠くから魔法で支援してくれた……ってんじゃないっすよね?」


「澪の魔法は卓也に効かないし、それはないですわね」


「じゃあ、本当にいったい誰がこんな離れ技を?」


「ともあれ、ここまで来たらもう俺達三人だけで行くしかないかな」


 覚悟を決めるように、卓也はそう呟いて塔を見つめる。

 他の二人も、どこか諦めたような態度で頷いた。


「魔法使いが居ない状態ってのは、相当痛いですけどねぇ」


「うう、なんか怖ぇなぁ」


「とりあえず、塔まで行ってみよう」


 卓也の声を合図に、はしまきマイナス1は、ゆっくりと歩き始めた。






“本当に宜しかったのでしょうか? あのような無茶な手段を用いても?”


“ええ、大丈夫です。

 こういう場合、少し無理矢理にでも道標を示した方が、あの人も動きやすくなりますから”


“あの男の事、お詳しいのですね”


“ええ、それはもう……私は誰よりも、あの人のことを良く知っていますからね”

 





 王城で受けた説明によると、国境にあるケスクポントという所に魔物が現れて人々を困らせているらしい。

 また昔は比較的自由に行き来出来ていた国境も、この魔物のせいで現在は厳しい境界線が設けられ、王の許可を得なければ越境の門を越えることが出来ないようになっている。

 この魔物を撃退することが出来れば、そのパーティはケスクポントどころかウルブスとユルムの二国を行き交う多くの人々を救うことになる。


「どうやらケスクポントって所に、まずは行かなきゃならないようだね」


「それって、どこにあるんすかね?

 ここからじゃ、全然見えないけど」


「そういう時こそ、この私の! 僧侶魔法の出番ですわ。

 行きますわよぉ! そぉれ、テクマクマヤコンテクマクマヤコン、ケスクポントへの地図になぁ~れ♪ ですわ!!」


 そう言うと、なんとジャネットは腰を深く落とし、右拳で思い切り地面をぶっ叩いた。

 ズゥ・ン!! という重い衝撃が迸り、一瞬地面が揺れる。

 

「な、なぁ?!」

「ひえっ?! 怖っ!」


「二人とも、何を怯えてるんですの?

 ほら、これを見てくださいませんこと?」


「これって……えっ?!」


「うわ、な、なんでぇ?!」


 ジャネットがぶん殴った地面には、いつの間にか地図が浮き出していた。

 それはまるで、砂の上に木の棒で線を引いて描いたようなもので正直あまり見やすいものではなかったが、それでもきっちり“現在位置”や“ココ”という注釈が、よりによって日本語で書き込まれている。

  

「随分力任せな僧侶魔法だなあ」


「卓也、これをスマホで撮影していけばバッチリですわ♪」


「ごめん、スマホとっくに充電切れてる」


「んな?!」


「あ、でも確かPDにカメラ付いてたな。よしよし……じゃあこれで」


 なんとか地図を撮影して表示を確認する。

 ケスクポントは、どうやらこのまま北西の方角へ真っ直ぐ向かえば辿り着くようで、思っていたよりも遠くはない印象だ。

 しかし、それにも関わらず町や村らしきものは、その方角には全く見当たらない。

 卓也は、進行方向としては真逆になってしまう物見の塔を眺め、複雑な表情を浮かべた。


「なあ卓也」


「ん?」


「お前さ、王に謁見した時、この塔の話してたよな?

 いったいどんなとこなんだアレ?」


「ああ、あれはな……」


 卓也は、夢の中でジェムドラゴンから聞いた話を伝える。


 二百年前にイスティーリア開拓の為にやって来た三大王国は、元々それぞれ敵国同士だった。

 その為、開拓と並行して三国間で激しい戦争が幾度も行われたが、やがて三国は休戦協定を結び今に至っている。

 だが基本的に対立状態は継続中なので、それぞれの国境は厳しく監視体制が引かれており、一般人も用意には越境出来ない状況が続いているのだという。


「――んで、その影響で、どうやらああいう物見櫓みたいなものが国境のあちこちに建ってるらしいんだ。

 ただその中で、この塔だけが色々やばいらしくって」


「やばいって、どういう風に?」


「う~ん、俺も聞いた話なんで詳しくは知らないけど……」


 卓也によると……というより、ジェムドラゴンによると。


 以前ここに、異世界から転生して来た勇者達が辿り着いた。

 しかし当時の王は勇者達に謁見する暇がなかったらしく、その為越境の認可が下りていなかった。

 だが魔王討伐に燃える彼らは恐慌突破を試みて、一刻も早くユルム入りを果たそうとした。


 だが彼らは国境警備の兵士団に見つかり捕縛され、王の命令で処刑されてしまった。

 その処刑の場に使われたのが、あの物見の塔なのだという。

 

「それ以来、あの物見の塔には魔物が出るようになって、兵士達を皆殺しにしたんだったかな?

 んでそれからも、その魔物は越境しようとする者達の前に立ち塞がるようになった、とかそんな感じの内容」


「まるで何かのおとぎ話みたいですわねぇ?」


「ホントにいるのかぁ? そんなモンスターなんて。

 見渡す限り、それっぽいのが居るようには思えないけどなぁ」


「でも、モンスターっていつも急に出て来るような気がしないか?

 今回だって、そのパターンかもしれないぜ?」


「う、う~ん……言われてみれば、確かにそうかも」


「どっちみち、あのレン達より早く片付けないと私達の負けなんですから。

 やるならとっととっちゃいましょう!」


「お、おう……」


 ジャネットのいう通り、ここを手早くクリアしてからでないと、堂々と王城に向かう事は厳しい。

 国境の魔物を倒したという肩書きがあれば、万に一つの確率で謁見が適うかもしれない。

 そうすれば、そこから澪に辿り着ける可能性も見えてくるだろう。

 かなり無理筋な、彼に都合の良すぎる案ではあるが、今はもうそれに賭けるしかない。

 三人は顔を見合わせ軽く頷くと、ケスクポントへ足を向けようとした。


 だがその途端、三人の背筋に冷たい物が迸った。




 ――お喋りは、もう終わったのか?




 突然、背後から声を掛けられる。

 慌てて振り返ると、いつの間にか後方十メートル程の位置に、ローブを被った男が佇んでいた。


「早速現れた?!」



 ――さっきから話を聞いていれば、お前達……よもや私に勝つつもりでここに来たのか?



 身の毛も凍るような恐ろしい、地の底から響いてくるような声で語り掛ける。

 男は両手を振り上げると、どす黒い瘴気のようなものを発散し、巻き散らし始めた。

 だがそれを見た瞬間、いち早くジャネットが動いた。


「アブラマハリクマハリタカブラチャッピーチャチャッチャーオコリンボウハダレ!!

 マッカナトマトニシチャオウカ!!

 ――守護カイッツェ!!」


 薄いグリーンの光の膜が形成され、三人を包むように拡がる。

 流れて来た瘴気は、それを避けるように流れ去って行く。



 ――ほぉ、僧侶魔法か。



「同じ轍は踏まないですわ! でりゃぁ――!!」


 ジャネットは腰の後ろからメイスを取り出すと、豪快に振り回しながら突進していく。


「待て、ジャネット!」


「うおおおおお、往生しなっせ!!」


 力任せに振り下ろされるメイスが、ありえないような風切音を立てる。

 男はぎりぎりでかわすが、固い地面を叩いたメイスは、直径二メートル程のクレーターを作ってしまった。



 ――なかなか出来るな。

    だが……私には及ばない。


 ――take go into the root of Ancient-Evil curse logic.

    set “Undead-Slave” Ready.

    begin to move according to my calling.

    under employment and the contract.



 男は、ローブの奥で目を真っ赤に光らせながら、何かを詠唱し始める。

 すると、地面の中から無数の“白骨死体”が発生し、次々に襲い掛かって来た。


「ひいいいい?! が、ガイコツぅ?!」


「うわぁ、なんか昔の映画にこんなんあったよな!」


「感心してる場合かぁ~っ!!」


 ジャネットが取り囲まれる前に、卓也とテツが飛び込んでいく。

 白骨死体――スケルトンは、特に武器は持っていないものの、腕や足を目一杯振り回して滅茶苦茶な攻撃を仕掛けて来る。

 

「きゃあっ! こ、このおっ!!」


 ジャネットの盾がガシャッと音を立てて開き、中から聖印ホーリーシンボルが飛び出す。

 それを前方に翳すと、いつもの除霊ターンアンデッドを行使する。


「おりゃあああああ!! 消え晒せやあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 盾から撃ち出される極太の除霊ビーム。

 だが、その直撃を受けたスケルトン達は、何の影響もない。


「あ、あるぇ?」


「わ~ばか! 何してんだぁ!」


「だ、だって……きゃあっ?!」


 スケルトン達は、戸惑うジャネットの隙を突いて背後から襲い掛かり、豊満な胸を容赦なく掴み始めた。

 あまりに大き過ぎて、一体だけでは手に余ると、二体目も加勢する。


「ちょ、ま、まだ誰にも触らせたことないのにぃ! 汚らわしい!」


「うわ、ジャネさんまさかの未経験告白?! こんなとこで♪」


「テツ、こんなとこで何萌えてんだ!」


 ――うっそ、マジでぇ?


「へ?」


 何かおかしな声が聞こえた気がしたが、それどころじゃない。

 卓也は無理矢理スケルトン達の合間に飛び込むと、早速トレモロに作ってもらった剣を引き抜いた。


「よっしゃ、試運転!!」


 素早くPDをセットし、グリップ側面のボタンを親指で押す。

 その途端、透明な刀身に光が宿り、辺りが青白い光に照らされた。


「切れ味実験! まず一太刀ぃ!!」



 ――ぬうっ?!



 レーザーブレードと化した剣を一振りすると、その軌跡上に居たスケルトン達が、あっさりと切断される。

 卓也の手には、何の反動も手応えもない。

 振る度にブオン、ブオンと音が鳴り、それは正に某映画等で出て来るアレそのものだ。

 驚いて跪いているジャネットや、数体のスケルトンと格闘を始めていたテツは、いつしか卓也の美しい光の剣戟に見とれていた。


「おおお~、これは物凄く使いやすいぜ!!

 トレモロ凄い! これは花丸あげちゃうぞ!」


 数十体は居たスケルトンが、みるみるうちにバラバラにされていく。

 テツが数体のスケルトンを回し蹴りで破壊したことで、おおかた排除が完了した。


 瘴気を放つローブの男は、そんな光景を微動だにせず見つめ続けていた。



 ――こいつの方が良さそうだ。


 ――take go into the root of Ancient-Evil curse logic.

    set “Grudge gun” Ready.

    The hatred that dwells within me, now become a powerful cannonball

    and pierce the barriers that stand in my way.



 男はまたも魔法を唱えると、両手の中に黒と紫、黄色が入り混じったような不気味な光の玉を生み出した。

 それを幾度か振り回し肥大化させると、徐に前方に翳した。



 ――これで終わりだ。



 男は、黒い珠を押し出すように卓也へ向けて射出した。

 それを見た瞬間、彼の目が光る。


 卓也は、何の抵抗もせずに身体を向けた。



 ――何?! 避けないだと?!



「必要ないんでね!」


 男が放った黒い光の玉は、卓也に衝突する寸前で静止し、徐々にすぼまり始める。

 ものの数秒で収縮し、消滅すると、男は顔が見えないものの愕然とした態度を見せる。



 ――驚いたな、まさか魔法が効かないとは。



「ああ、生憎そんな体質になっちまって」



 ――なるほどな、今度の勇者は、なかなか面白いギミックをお持ちのようだ。



 そう言うと、男は全身に力を込めるようなモーションから、周囲に凄まじい瘴気を放ち出した。

 あまりに濃厚な瘴気に周囲は夜のように暗くなり、それなのにお互いの姿だけははっきり見えるという違和感だらけの状況に陥る。


「こ、これは……! や、ヤバイですわ! テツ、こっちに!!」


「うわわ、ま、魔法が軋んでるのがわかるっす!」


 瘴気は、良く見るとどす黒い魂のような、人魂のようなものの集合体に見えた。

 それぞれに顔があり、それは泣いていたり怒っていたりと、いずれも行き場のない感情を浮かび上がらせている。

 それらが滝のように流れ、ぶつかり、守護の魔法もミシミシと悲鳴を上げている。

 あまりにも凄まじい邪悪な念の力に晒され、ジャネットとテツは身を寄せ合ってひたすら耐えるしかない。

 だが、卓也は――


「全然、効かないんだなこれが」


 そんな悪夢のような状況の中、何の問題もなさそうに平然と佇んでいた。



 ――ほほぉ、常人なら即死しかねん瘴気だぞ?

   それすらも効果がないと?



「なんだろな、自分でもよくわからん。

 でも、お前の仕掛けてる攻撃は、今のところ全く効いてないのは間違いないよ」



 ――だが、お前の攻撃も、この私には



「いや、多分めっちゃ効くと思うわ」


 卓也はそう言うと、PDを嵌め込んだ剣を軽く一振りする。

 光の刀身が一瞬グイン! と伸び、その一撃が男の頭部を掠った。



 ――ぐっ?!



「う、うわっ!」


「ぎゃあっ?!」

「ひえええ! ば、バケモノ?!」


 ローブが半分くらい切断され、その中から剥き出しの髑髏が現れた。

 髪も皮膚も、筋肉も眼球も、何もかもがなくなってしまったシャレコウベ。

 眼孔の中には、憎しみを感じさせる真っ赤な光が毒々しく輝き、まるで感情があるように明滅している。


 そのあまりの恐ろしい姿を目の当たりにして、卓也は思わず呟いた。


「うわぁ、まるでリッチだ……」



 ――そうだ、その通りだ。

    あらゆる魔術に精通し、極め、生きながらにして不死の肉体を得たこの私こそが……



「なんかデスブラに、こんなレアモンスター出て来たなぁ」



 ――え?



 髑髏の男の動きが、止まる。



 ――今、お前、なんて言った?



「え? デスブラに――」



 ――それさ、もしかしてソシャゲの“デスティニーブライト”のこと?



「え? な、なんで知ってんだよ?

 そうだけど……」



 ――おおお、ウソだろぉ?!

   こんなとこでプレイヤーに逢えるなんてぇ!!



「え……ええっ?!」


 なんだか、突然空気がおかしくなる。

 みるみるうちに瘴気は消え失せ、あれだけやばそうだった殺伐とした雰囲気が途絶える。

 

「な、なんですの?! 急に」


「お、おいジャネさん、あれ」


 テツが指差した先では、髑髏の男が――身体をくねくねさせながら喜びに喘いでいた。



 ――ね、ちょ、ちょっと聞いていい?

   おたく、デスブラどんくらいプレイしてた?



「え? 俺は確か……事前登録からだから六年くらいかな?」



 ――うっそぉマジでぇ?! 六年は続いたんだ!

   あーしはねぇ、二年目の仮面〇イダーコラボの時から始めてさ、四年目くらいの時にこっち飛ばされて泣く泣く諦めたんよ~



「えっそうなの?! 四年目って、良くも悪くも一番盛り上がってた時期じゃん!

 うわぁ、なんでそんなタイミングで……」



 ――いやぁ、色々あってねぇ。

   あ、それでさ、デスブラってまだ続いてるの?



「いやそれが、俺が異世界転移する半年前くらいにサ終しちゃって」



 ――えええええ! 嘘だろおおおおおおお!!!

   めっちゃ課金したのにぃ! 終わっちまったのかよぉぉぉ!!



「あ~でも、最後のイベントとか結構凄かったんだよ。

 星5クラスのトップレベルモンスターがさ――」


 いきなり楽し気に会話を始める二人に、ジャネットとテツは毒気を抜かれ、ただ呆然と見つめることしか出来なかった。



「ねえテツ」


「あ、はい」


「あいつらの会話、日本語に訳して」


「無理っす」



 


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