ACT-133『新しい仲間が加わりました! ……が』
『あっそう、そうなんだぁ。
え、じゃあその毒攻撃無効のアビリティとか後から追加されたの?』
「うん、確か半年くらい経ってから追加されたんだよ。
だから第六の刺客の限定バトルは、その間めちゃくちゃ難易度高くてさ」
『マジかぁ~!
あーしは、その手前の第七の刺客で止まってたわ!
あれも難易度めっちゃ高かったよね!
マルチで助け募集してやっとギリで勝てたんよ』
「あ~アレね、後で初心者向け難易度ってことで低バイタリティでプレイ出来るようになったんだわ」
『え~うそぉ! アレが初心者向け?! ないわぁ~!!』
「いやいやそれが、後から適正キャラがどんどん出て来てね。
一ラウンド一ターンキルとか常識になってた」
『はあぁぁぁ?!?! あれを、一ターンで?!
じゃあ全部で五ターン?!
し、信じられねぇ……どんだけ強キャラ増えたんだよって話だよ?』
「まあねえ、でもその後からやっぱりバランスブレイカーが増えて来てさぁ……」
弾む会話、楽しい雰囲気。
しきりに話を盛り上げる二人と、その後ろで退屈そうにしている二人。
「ねえ、テツ」
「なんすか~、ジャネさん」
「あの二人、さっきから何話してんですの?」
「さっっぱりっす! 何言ってんのか全然理解不能っすわ!」
呆れ顔で退屈そうにしている二人に、男が肩越しに声をかける。
『あ、お二人さんごめ~ん。
ついつい盛り上がっちゃってさ。
あ、そこのお菓子、遠慮しないで食べちゃってね!
足りなきゃ、魔法でどんどん出すから~』
テーブルの上に、山と詰まれた菓子を見る。
それは、この世界の食べ物ではない。
チョコレート、スナック、ポテトチップ、ポップコーン、おせんべい、歌舞伎揚げ、クッキー、キャンディ、そして清涼飲料水。
その他もろもろ、なんでもあると言っても過言ではない。
そのすべてが“現代世界の菓子”という、最大の疑問点があるのだが。
ここは、物見の塔一階。
ジャネットとテツが見つめる中、卓也と――頭がガイコツの魔導士風の不死者は、楽しそうにソシャゲの話題で盛り上がっていた。
「ジャネさん、このチョコポテチって奴、案外イケるっすよ!」
「即座に順応するんじゃないですの!」
「あ、きのこの山だ! 俺、これ好きなんすよ」
「テツ、どうやらあなたとは敵同士だったようですわね」
「ええっ、突然どうしたんすかジャネさん?
あ、こっちの“すぎのこ村”も美味いんすよ」
「え、あ、あら?
こっちは知らないわ……ナニコレ」
『あ~それ、きのこの山とたけのこの里の姉妹商品』
「え、うそ!
こんなのもあったんですの?!」
「つか、なんでこんなのまであんだよ?!」
『あーしの魔法はね。
いつの時代のものでも、たとえ廃盤商品でも出せるの。
もちろん賞味期限とか大丈夫だから、そこは全然気にしなくていいよ!』
「「「 今日ほど魔法の素晴らしさを実感した日ないわ! 」」」
■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■
ACT-133『新しい仲間が加わりました! ……が』
こんなことが、あっていいのだろうか?
魔物が巣食うという国境付近、そこで待ち構えていたのは、生きながらにして自身を不死と化した魔導士……通称“闇道士”。
絶大かつ多岐に渡る魔法に精通、使いこなし、またその能力は他の不死魔物をも召喚し、更に生きている者の心を恐怖で支配、その手が触れた者には死が訪れるという。
そんな闇道士が、今、ソシャゲの話題で盛り上がりながらハンバーガーにかぶりついている。
「そうだよなぁ、昔のマックって容器が発泡スチロールだったんだよなあ」
『紙のもいいけど、こっちのも見た目の味わいがあって良いよね。
湿気でべしゃべしゃになるんだけど』
「そうそう、わかるわかる」
「お前らぁ! いつまで仲良くお喋りしとるんじゃい!!」
あまりに不自然なくらい仲良し雰囲気が漂っている塔の一室に、ジャネットの怒声が響き渡る。
「『 ひぃっ?! な、なんかすいません!! 』」
「卓也も卓也ですわ!
なんでこの、見た目が魔物丸出しの奴と仲良くしてられるんですの?!
まさか、こいつの妖しい術でも食らって、益々頭がパープリンになっちまった
ですの?!」
『パープリンだって』
「今時言わねーよなぁ」
『だよねー』
「だあああああ! 笑顔で頷き合うなぁ!!」
「いやまあ、なんか話してみたらいい奴そうだからさ」
『いやぁ、あーしもね。
まさかこっちの世界で好きなゲームの話が出来るだなんて、思ってもみなかったもんでさ。
いやははは、ごめんごめん♪』
「あのゲーム、プレイヤー人口は多いのに不思議と身近でやってる人少ないんだよね~」
『そうそう! わかるわぁ~』
「な、なんつう適当さなんだ、この二人は……」
先程、塔の外で対峙したはしまき一行と闇道士。
思わぬ卓也の独り言に反応した事から、二人は敵対状態から一変、一気にオタトークが始まって仲良くなってしまったのだ。
素性はまだ分からないが、どうやらこの闇道士も異世界転生者だったらしい。
その言動だけでなく、怪しげな魔法で生み出された菓子類は、どう考えても卓也達の世界に居なければ理解すら出来ないものばかりだ。
マックシェイク (ヨーグルト味)を一気にズボボと吸うと、シャレコウベローブ男は「げっぷ」を一つ吐き、ようやくまともに話を始める気になったようだ。
『いやあ、改めて皆さんようこそ物見の塔へ!
あーしは闇道士の……そうだな、この見た目だし“リッチ”と呼んでおくれ』
「なんでリッチなんだ?」
『あーしが昔やってたゲームで出て来る、最強クラスで強いユニットの名前なのよ。
あーしの一番のお気に入りで、見た目もこんな感じだからさ~』
「な、なるほど」
『あーしはねぇ、もう百年くらい、ぼっちでここ住んでんですわ。
毎日退屈で退屈で~。
あ~、Switchでもありゃあなぁって、いまだに思い続けてるゲーマーっす、ハイ』
「なんかオフ会の自己紹介みたいなの来た」
『ククク、私の本来の目的は、貴様ら勇者達をこの先へ進ませぬよう、立ち塞がり妨害することにあるのだ!』
「見た目がバケモノなんだから、そっちの喋り方の方が合ってるぜ?」
『ううっ、酷いなぁ。
見た目で判断するなんて、これからの時代あっちゃ行けないことだよ?
え~と、こういうの何ハラにあたるんだっけ?』
頭部は悍ましい髑髏、その眼孔の中には煌々と真っ赤な光が灯り、両手は骨、そして身にまとっているのはボロボロに朽ちている古めかしい黒のローブ。
更には背後におどろおどろしい邪悪なオーラを漂わせている。
常人だったら見ただけでSAN値が下がりそうな怪物が、めちゃくちゃフレンドリーに話しかけて来るこの違和感。
ジャネットもテツも、この何とも言い難い温度差に、どう対応するべきか悩んでいた。
だが、何故か卓也だけは何の問題も感じずに普通に対応しているのだ。
「えっと、じゃあ“リッチ”って呼ぶね」
『おっけおっけ♪』
「この軽さ、リッチというより“リっち”といった方がぴったりですわね」
『ぐは! いきなり風格が失せた!』
「リッチって、金持ちって意味じゃねーのかよ」
いつの間にかジャネットまで会話に加わり始め、テツは面白くなさそうにブーたれ始めた。
『ところでさ、話戻すけど』
少しの間を置き、闇道士こと“リっち”がはしまき一行に話しかける。
『あんたらも、国境越えて魔王の本拠地に乗り込むつもりなの?』
「いや、俺達は国境に棲みついてる魔物を退治しに来ただけで」
「それが、おめーなんじゃねぇかってことだよ」
卓也とテツの視線が突き刺さり、リっちが一瞬「うぐ」と怯む。
『いやいや待って待って?
初対面でいきなり退治とか何とか、物騒過ぎない?』
「私達、初対面であなたにいきなり襲われたんですけどぉ?」
『だからぁ、ごめんって~。
あ、姉さんそこのパイの実アイス知ってる? 美味いんだよぉ』
「そそそ、そんなもので誤魔化されませんことよ!
……パイの実って、アイスもあったんですの?」
「興味持ってんじゃん」
卓也は、とりあえずこのリっちという存在は無害なのだと判断することにした。
単に話が合ったからではない。
食べ物や飲み物の件も含め、我々を殺そうと思うならいくらでも騙し打ちが出来る状況だったにも関わらず、何も仕掛けて来る様子がないからだ。
無論油断はまだ出来ないが、それでも情報を聞き出す分には役立つ存在と判断する。
卓也は、今一番知りたい質問を仕掛けてみることにした。
「俺達が知りたいことは、まず二つ。
一つは、国境の魔物の正体。
それは君のことなのか?」
『あーうん、この辺にずっと棲みついているの、あーしだけだと思うから多分そう』
「もう一つ。
我々の他に、別なパーティがここに来てない?」
『来た』
「それは何処に居る?
というより、どうした?」
『ああ、殺したりはしてないから安心して。
地下室に転がしてるよ』
「「「 ええっ?! 」」」
『君ら、ハモるの好きねぇ』
そう言いながら、リっちはマックシェイクを一啜りした。
「ガイコツなのに、良く吸えるなあ」
『これね、コツがあるのよ。
将来役に立つかもだし、教えとこか?』
それが役に立つ場面は永久に来ないだろうと思い、卓也は丁寧に断った。
リっちのいう通り、レン達は植物の蔓で作ったロープのようなものでがんじがらめにされ、全員眠っていた。
てっきり石畳の上にゴロンと転がされているものと思っていたが、ご丁寧に柔らかそうなカーペットの上に居る。
もっとも、そのカーペットはお世辞にも清潔そうには見えなかったが。
『ね、ちゃんと生きてるでそ?』
「どうして彼らを殺さなかった?」
卓也の質問に、リっちは肩をすぼめて「やれやれ」といった風なポーズを取る。
『あーしはね、別に勇者を殺す為にここに居るんじゃないんよのさ』
「じゃあ、何の為に邪魔を?」
リっちは「良く聞いてくれました!」と言わんがばかりに指差して来た。
『だってさ、たとえ魔王の本拠地に行ったって、王城に戻ったって。
結局どのみちとどのつまり、この人らは殺されちゃうだけなんよ?』
「「「 ええ?! 殺される?! 」」」
『あ、またハモった』
驚いて呆然とする三人に、リっちは身振り手振りを加えて説明する。
『そもそも君ら、なんで転生者が“勇者”なんてもてはやされて魔王討伐に行かされてるか、全く知らないでしょ?
アイツらの思惑知っちゃったら、そんな話に乗ること自体愚かなことなんよ』
「ごめん、わかるように説明してくんない?」
卓也の懇願に、リっちは――
『うん、いいよ。
ただし、条件がある』
「じ、条件?」
遂に何かを振って来た! それがコイツの本当の目論みに違いない!
そう思い、はしまき一行は一歩引いて警戒する。
だがリっちは
『俺も、あんたらの旅に同行させてよ♪』
「「「 はあぁぁぁ?!?! 」」」
『何度目だナウ〇カ』
あまりに予想外の申し出に、三人はアゴが外れんばかりに大口を開けて驚いた。
「なぁ?! 何言い出すんだてめぇ?!」
「そうですわ! 第一、モンスターを仲間にするなんて出来るわけないでしょう?!
ドラ〇エじゃないんですわよ?!」
当然のように反発するテツとジャネットに向かって、リっちは「え~?」といった顔つきで首を傾げる。
卓也は、ガイコツの癖にホント表情豊かだなぁと、謎の感心をしていた。
『え~だって、あんたらもう二体も、モンスター仲間にしてんじゃんか。
もう一体追加すれば、人と魔物半々でバランスもいいじゃないの』
「え」
「はぁ?!」
「はい?」
その言葉に、ギクリとさせられる。
無意識に、自身のバックパックに目線が向く。
(な、なんでジェムドラゴンに気付いたんだ?!
やっぱコイツ、タダ者じゃない!!
――けど、あと一体のモンスターって……なんのことだ?!)
“もう一体追加すれば、人と魔物半々でバランスもいいじゃないの”
その言葉を反芻し、即座にテツとジャネットを見る。
あとは、ここには居ない……
(あ……!)
以前交わしたとある会話をふと思い出し――卓也は、愕然とした。
その晩、イセカス王城。
中庭の離れの真紅の寝室では、夫と妻が愛の営みを終えてベッドに寝そべっていた。
「――我々が勇者に求めているものは。
魔王を倒すことではない」
カバルス王は腕枕をした姿勢のまま、天蓋を見つめ語り出す。
彼の分厚い胸に頬を寄せながら、澪は目を見開いた。
「それは、どういう意味ですか?!」
「これは、お前があのパーティから外れたから言えることだが」
その呟きに顔を歪めるも、あえて平静を保ったまま尋ねる。
「この世界を支配する魔王を倒して、平和を取り戻すことが勇者に求められることではないのですか?」
「違うな」
「では、いったい?」
「我々が求めていることは、ただ一つ。
勇者を魔王に“逢わせること”だ」
「逢わせる? それだけですか?」
「その通りだ。
そしてこれまで百年以上、大勢の転生者達が魔王の本拠地へと出向き、そして逢いに行った。
中には辿り着けなかった者、おめおめと戻って来た者もおったがな」
「魔王に逢って、勇者はどうするのですか?
闘いを挑むのでは?」
澪の肩を抱きながら、カバルスはまるで独り言のように続ける。
「その辺りは、私にもどうなるかはわからない。
しかし、勇者が魔王の下に辿り着く事で、それで我々の世界には束の間の平和が訪れる。
いわば勇者は、我々に平和の時をもたらす為に旅立つのだよ」
その言葉に、澪は改めてこれまで得た情報を踏まえて考える。
勇者を迎えるため、わざわざ閉鎖区域の近くに造られた町・アングス。
自分達が初めてとは思えない、町民達の慣れた態度。
冒険者ギルドの、あまりにスムーズな勇者用の対応。
グルドマックが述べた、過去に存在した転生者パーティの話。
そして、未だに討伐されず存在し続けている、魔王――
思わず立ち上がろうとするが、肩を押さえられているので身体を引き離せない。
澪の態度を鼻で笑いながら、カバルスは尚も話を続ける。
「これは仕方のないことなのだ。
魔王の正体も、その目的も分からず、意思の疎通すら行えない。
まして倒すことなど、到底不可能だ。
であるなら、万が一の確率に賭けて転生者共に全てを託すよりも、確実に平和が訪れる方法を選ぶのが常ではないかね?」
「つまり……勇者達を“生贄”にしていると仰るのですか?!」
身体を震わせながら、澪が呟く。
そしてカバルスは、それに大きく頷いた。
「その通りだ。
我が国からも、そして隣国からも、何処からも尊い犠牲を出さずに済む。
消えて行くのは、何処とも知れない異世界から来た愚者共だけだ。
元の世界でろくなことも出来なかった愚か者共が、この世界では我々の平和維持の役に立つ。
こんなに無駄のない、完成されたものがありうるだろうか?」
「王様……あなたという方は!」
「何を怒っている?
これはもう、百年以上に渡って続けられて来た、いわば伝統儀式のようなものだ。
私が始めたものではないのだぞ」
「……」
「それより、昨日してくれたように触ってくれ。
その可愛らしい指でな」
「……はい」
感情を抑え、無表情で命令に従う。
身体を上げ、四つん這いになったカバルスの後ろに回り、そっと指を這わせる。
巧みな指先の動きに、身体が大きく跳ね上がる。
「おおおっ?! お、おお……」
いつまでも、何度しても萎えない持久力に呆れながら、もはや何の感情も抱かなくなった新妻は、そっと顔を近付け、舌を伸ばした。
ぬるり、という感触が体内に侵入し、カバルスは生まれて初めて味わう快感に更にビクンと反応する。
「ぬぁ……?! な、そ、そんな事まで……?!
あ、あああ~!!」
今まで聞いたこともないような情けない嗚咽を上げ、汗ばんだ身体を捩る。
澪は顔を深く埋めたまま、無感情に舌を荒々しくねじ込み、蠢かせていく。
次の瞬間、バサッ! という大きな音が暗い寝室に響いた。
天蓋の幕が煽られ、大きなシーツがめくれ上がる。
室内の空気が大きくうねり、軽い突風が吹き始めカーテンをめくる。
窓から差し込んで来た青白い月明りが、寝室を照らし出す。
澪の背中から、寝室全体を覆い尽くす程巨大な“翼”が生えていた。
それだけではない。
彼の頭からは、鋭い二本の大きなツノまで生えている。
金色の目は煌々と輝き、長い髪は更に伸びてベッドを覆っていく。
「おおぉ……み、澪ぉ~……!!」
背後で起きている恐ろしい変化に、快楽に酔いしれるカバルスは気付いていない。
感情のこもらない、それでいて最高レベルの奉仕を続けながら、澪はふと昔の事を思い返す。
(ああ……そういえば、卓也もこうしてあげると悦んでくれたわね。
沙貴と二人で、交互にしてあげたこともあったっけ。
可愛い声出しながら、ボクの手の中にいっぱい出してくれたっけ)
自然と、頬に涙が伝う。
(今のボクの姿を見たら、沙貴……きっと、物凄く怒るだろうなぁ。
ロイエ失格だって。
――うん、そうだよ。
沙貴、ボク……ロイエにあるまじき事を、今してるんだよ。
最低……だよね?)
耳障りな呻き声に耐えながら、尚も容赦なく責め立てる。
やがて生温かいものが掌に零れ落ち、澪はそれを掬い上げた。
(でもね、沙貴――ボクは、どんな時でも卓也だけの奴隷だよ。
最後に、約束したもんね。
たとえボクがどんな風になっても、ご主人様の傍に居るって)
ドクンドクンと、激しく脈打ち始める心臓。
澪は、手の中の物を口許に運び、それを飲み干した。
その途端、彼の中の“目覚めてはいけない何か”が、再び覚醒した。
(沙貴――ボクは、ちゃんとけじめをつけるからね。
卓也を、ご主人様を裏切ってしまったロイエとして……必ず)
澪の金色の瞳が更に激しく輝き、体内を妖しい力が駆け巡る。
その目は、背後にあるケースに向けられる。
ウィッシュリングの収められた、魔法で厳重に封ぜられているケースに。
「なんだって?! それは本当かい?」
『それ言うなら、先に“〇〇したのも乾巧って奴の仕業なんだ”を入れて欲しいもんだね』
「ちょっと何言ってるのかわかんない」
『都合が悪いんだよ。ちゃんと段取り通りに喋ってくれないと。色々とね……』
「それ、ファイズのセリフだっけ? ネットで見た事ある」
『もう~、卓也はホント何でも対応してくれるなぁ♪
もう大好き、結婚しよう』
「おえっ」
「まぁた始まったよ雑談が」
「ちょっとそこ! ケスクポントの話はどうなったんですの?!」
『おおっと、そうだった!!』
物見の塔の一階に戻った一行とリっちは、今後の展開について話していた……のだが、またも無駄な脱線をしてしまう。
あの後、リっちはこのような提案を卓也達にして来た。
『とりま、あーしを君達が倒したことにすればいいと思うんだ。
その証拠の品を王城に提出すれば、恐らく君らにかかっている指名手配も解除せざるを得なくなる筈だ。
それでカバルスから越境の許可を貰ったら、次に目指すのはケスクポントって所さ。
君達には、是非ともそこに出向いて事情を知って欲しい』
「なあ、一つ聞いていいか?
何故君は、俺達がイセカスで指名手配になったことを知ってるんだ?」
何でも見透かすようなリっちの発言に、募る疑問を唱える卓也。
だが彼は、さも当然といった態度で答える。
『だって、やりとり見てたもん』
「え? どやって?」
『王城に、鬼火いっぱい出て来たでしょ?
実はアレ、あーしが送り込んでた奴なの♪』
「「「 はあぁぁ~~?!?! 」」」
『イヤホント、あんたら何回ハモれば気が済むの?』
「ど、どうしてあんなものを? いや、そもそも何を企んでたんだ?!」
『あれは、情報収集の為に送り込んでいた“遠隔視”のいわば端末なんよ。
本当は少しだけ送り込んでたんだけど、結界に阻まれてなかなか潜り込めないから、ついつい何度もやっちゃってさぁ』
「それで、結界が弱まった途端に、今まで溜っていたものがどばっと入り込んだってとこですの?」
『おっ、姉さん察しがいいじゃな~い?』
身体をくねくねさせてから両手でビシッと指差す謎ポーズに、ジャネットは眩暈を感じた。
「それでよぉ、おめーを倒した証拠って奴は、どうすりゃいいんだよ?」
呆れ顔のテツに向かって、リっちは自分の半分千切れたフードを引き裂いて投げ渡した。
「おわっ」
『これを持って行けばいいと思うよ!』
「な、なるほど……」
「地下に眠ってるレン達はどうする?」
その質問に、リっちはしばらく唸り声を立てて考え込む。
『うん、彼らがこのままイセカスに戻ると確実に処刑されるから』
その発言に、三人は思わず立ち上がって声を上げた。
「えっ、そうなの?!」
「なんでですの?!」
「それ、いくらなんでもきつすぎねぇか?」
『あっ、今度はハモらなかった』
リっちによると、こういう事だ。
ウルブスから隣国ユルムは、休戦中とはいえ敵国同士の関係。
その為、特別な許可がない限りは越境は許されないのだが、それは同時に“王の信頼を得る必要がある”ということなのだ。
今回、国境の魔物――つまり、リっちを倒す事が信頼を得る条件な訳だが、それを果たせなかった場合は信頼を裏切る行為を働いた扱いになってしまう。
『そうなると、信頼を裏切った扱いを受けた者は、当然このウルブス内では生きてけない。
そしたら、無断で越境してユルムに逃げるしかないわけだ。
敵国にな。
それがどういう扱いになるか、わかるだろ?』
「亡命――」
『そう、だから彼らはもう王城には戻れないし、かといって堂々と越境することも出来なくなってしまうってこったな』
「それじゃあ、もうあいつらはここでのたれ死ぬしかないってことになるのか?」
思わず立ち上がって身を乗り出す卓也に、リっちは不敵な笑みを浮かべる。
ガイコツなのに、口端を器用に歪めて。
『その為にあるんだよ、ケスクポントが』
「え?」
『あの村は、王城に見捨てられた“忘れられた村”なのさ。
だから、そこに行けば王城の連中の目は届かない。
下の連中には、ケスクポントへの行き方を示した地図を提供してある。
間が覚めれば、おのずとそこへ行くしかない』
「地図! そんなものを用意してたのか!」
『うん、卓也の名前で署名しといた。ちゃんと日本語でな!』
「おいい!!」
『だってあーし、これからあんたらに倒される立場よ?
そんなあーしが自分の名前で署名したら、説得力ないやん?』
「ま、まあ、確かにそうですわね」
リっちの言い分は、色々ととっちらかっているようで、確かに筋が通っている。
どのみち、自分達はこの後一度イセカスに戻らなければならないようだ。
だが、魔法が効かない卓也が居る以上、ここからイセカスに戻るまでにかかる時間は相当なものになる。
その為の準備が足りない。
「そうだ、そういえば――」
卓也は、謎の空間移動の穴のことを思い出した。
自分がここに飛ばされた事情を説明し、それがリっちの仕業ではないかと追求した。
その話に驚いたジャネットとテツも、自分達の経緯を話す。
あれはいったいどういうつもりだったのかと。
だがリっちの回答は、意外なものだった。
『いやいやいや、それ、あーしじゃないし!』
「「「 ええっ!? 」」」
『もう何も突っ込まないぞ』
「じゃあ、いったい誰が? 澪?」
『たぶん違う。
君らと一緒に居るモンスターズの力でもないね』
(ジェムドラゴンの仕業でもないってことか。
じゃあいったい誰が? 全然心当たりがないぞ?)
「モンスターズって、何の事ですの?」
「そ、その話は今は置いとこう」
一時はユマかグルドマック? と思ったが、もしあの二人のどちらかなら、卓也だけ移動魔法に取り残された時に何かしらの対応をしてくれた筈だ。
そうなると、本当に何者の力によるものか、見当がつかない。
「もしかして、私達が認知していない、もっと別な協力者が存在するという事ですの?」
『協力者かどうかはわからないけどね。
もしかしたら、何か悪意を持っているのかもしれない。
ただ、一つだけわかることがある』
「なんだ?」
『君らがここに飛ばされた空間の穴って奴。
それ多分、魔法じゃない』
「魔法……じゃない?」
意外な発言に三人の目が点になる。
『恐らく、とっても強力な思念を持つ存在が、空間を強引に捻じ曲げたんじゃないかな。
卓也ならわかるかな?
SFでいうところの“ワープ”の理屈だよ』
「ワープ、か……それなら確かに、空間と空間を繋ぐわけだから、魔法が効かなくても移動出来るってことかな」
『あくまで予想だけどね』
リっちの分析に、卓也は思わず何度も頷き、納得してしまう。
(こいつ、確かに分析力や推察力は凄く高いみたいだ。
おまけに魔法も使えるし、何よりこの世界の事情に詳しいのも大きい。
見た目が気にはなるけど、仲間に加えるメリットは確かにあるな)
「リっち、そのワープって、君でも使えるの?」
卓也の質問に、リっちはしばらく唸って、
『やったことないけど、一日に一回くらいなら、多分出来るかもしれないよ』
「よしわかった。
リっち、我が“はしまき”に加わって欲しい。
協力をお願い出来ないかな」
「ええっ?!」
「ちょ、卓也! おま、本気かよ?!」
『ていうか、その“はしまき”って、もしかしてパーティネームなの?』
「うんそう」
『いいネーミングセンスだ! ますます気に入ったぜ!』
「ありがとう!」
(( あ、同類だった…… ))
あっさりと、話はまとまってしまう。
リっちは死を偽装して、澪の代わりの魔導士枠としてはしまき入りすることになった。
だが、次の行動に移る前にどうしてもやらなければならないことがある。
「ねえあなた、そのSAN値が下がりそうな見た目、なんとかならないんですの?」
「そうだぜ、そんなおっそろしい姿で町中歩いたら、みんな卒倒しちまうぞ?」
「第一、君がそのまま付いて来たら国境の魔物を倒したって証明にならないもんね」
『みんなで言いたい放題。泣くじょ』
「涙まで出るのかよ、このガイコツ」
『う~ん、でも確かにそうだ。
罪のない一般の方々を恐怖のドツボに陥れるのは、あーしの望むところではないからな』
「なんか正義の人みたいな事言い始めた」
『そう、本郷猛も一文字隼人も、風見志郎も神敬介も、自身がもう人間じゃない異形の存在だって悲しみを力に変えて闘ったんだしね!』
「二人ほど省きましたわね」
『残りの二人は、その辺ちょっと希薄だったしね』
「んで、どうするの?
街に入る前に別行動でも取る?」
『いんにゃ、こうしよう。
――ぬん! 変っ……身!!』
ポンっ♪
どこかで見た事があるようなポーズを決めたその直後、なんとリっちの姿が……まるでぬいぐるみのマスコットのように小さくなった。
掌に乗るくらいのサイズで、いっちょ前に頭にはキーチェーンまで付いている。
「と、突然可愛くなった!」
「うわぁ……あ、あざとすぎぃ~」
「なんか、幼稚園児の落書きみてぇなデザインだなあ」
テツの言う通り、まるで太いペンで一筆書きでもしたような簡略化デザイン。
確かに頭はガイコツのままだが、迫力もへったくれもない。
これなら、街を歩いていても怪しまれたり怖がられたりすることはないだろう。
『姉さん、あーしをどっかにぶら下げてくだせぇ!
あ、そのドデカっぱいの合間に挟んでくれても、いいのよ♪』
「な、なんという羨まけしからん発言を!」
「み、見た目は変わっても、恐るべき魔物には変わりないですわね、このドスケベマスコット!」
『ニヒヒ、そういうことで、今後ともよろしゅう☆』
そんなこんなで、はしまきは再び四人態勢に戻った。――のはいいのだが。
「なあリっちよぉ。
さっき言ってた、あと二体のモンスターの仲間って誰のことだぁ?」
『ああ、そりゃあn――ムゴゴっ?!』
「あ~ははは!! ばっかだなぁテツ!
俺達四人パーティだぞ? モンスターなんか彼以外にいるわきゃないだろう」
『モゴモゴ』
「はぁ、そりゃあそうだよなあ♪
はぁびっくりしたぜ、まるで澪さんをバケモノ扱いしてるように聞こえたもんな」
「……」
テツは、時折妙に勘が鋭い時がある。
卓也は額の汗を拭いながら、リっちにそっと耳打ちした。
(その話! あの二人には内緒で!)
(え~、なんで? もしかして気付いてないの?)
(そうなんだが……他にも色々あって。
あと、俺の相方はモンスターじゃないからな! そこ間違えるなよ)
(え~あ……そうか、そういうことか。
まあわかったよ)
なんだか凄く歯切れが悪いが、とりあえず話はまとまった。
それから十数分後、はしまき一行はリっちが生み出した“ワープ”で、再びイセカスの街へと戻って行った。
レン達が塔の地下で目を覚まし、書置きの地図を見つけたのは、それから更に一時間程後のことだった。
当然、一階に散乱する懐かしいお菓子の山に戸惑ったのは、言うまでもない。




