069 懐かしの幼馴染と(6)
「―――へぇ。じゃあ今ユミカ後輩の家にみんなでお泊まりをしているんだね。楽しそうだ」
にこやかに笑う先輩。
私たちは顔を見合わせて、みんなが頷いてくれるので誘ってみる。
「先輩もいらっしゃいますか?」
「あはは。お誘いは嬉しいけれどボクは遠慮しておくよ。さすがに他の女と寝てるキミを見たらさらいたくなる」
「おぉ……」
全然まったく冗談めかせてない。そう言われては無理に誘うわけにも行かない……色々な意味で。
そんな先輩の言葉にたまきが『この人もそうなのね』とでも呆れるような視線を向けてきているけれど、今更といえば今更なので粛々と受けとっておく。
そうしていると、先輩がうっすらと目を開いて私の顎をくいと上げる。
「けれどキミとのプールには興味があるね」
「明日にでも行くつもりなんですけど」
「よければご一緒させてくれないかい?そこのパン屋さんの子とユミカ後輩の後輩君が気にしないのであれば、だけれど」
面識のある私とたまきは受け入れることを前提に、彼女はふたりに視線を向ける。
向けられたふたりも特に否定的な様子はなく、むしろ並々ならぬ迫力のある彼女への対抗心みたいなものが燃えている気がする。仲良くしてほしいと私が言うのはお門違いなのだろうか。
ともあれそうと決まれば、先輩も混ざって私の水着を選ぶことになる。
……いやなぜ?
そもそも先輩はなにか用があって来ていたんじゃないかときいてみてもにこやかにスルーされた。私の水着を選ぶ以上に重要なことはないらしい。絶対間違ってる。
釈然としないものを抱えつつ、みんなが水着を捜索に散らばってしまったので大人しく待つことにする。自分の水着も自分で選べない生き方に、本当にこれでいいのだろうかと少しだけ思ったけど、後輩ちゃんとか先輩とか楽しそうだしいいかな……。
待っていると、一番最初に戻ってきたのはたまきだった。
「とりあえず無難なやつを選んでみたわ」
「たまきの言葉ほど信用できるものもないね」
布地を受け取って試着室に。
広げてみると、なるほど確かに無難なビキニ。パレオ付きで優雅な雰囲気が私好みだ。似合う似合わないは置いておいて、こういうのをヒラヒラさせるのはけっこう好き。
披露してみせると、たまきはうんうんと頷く。
「想像通りね。よく似合ってるわ」
「ありがと。多分みんなネタ枠に走るからまともなのがあってよかった」
「ネタ枠?」
「うん。まあ、少なくとも普通に着ようと思えるとはあんまり思えない気がする」
「それはひどいッスよー。ジッサイそれめちゃ似合ってるッスけど」
次に戻ってきた後輩ちゃんが唇を尖らせる。
つんつんとおへそをつついて不満げな彼女の頭をなでつつ、その手に持つ布地でさえない代物を広げる。
「で?どの口が言ってるの?」
ひらり、と広がる……垂れる?のはほぼヒモ。なぜ一般的な水着の店にこんな代物が落ちているのか。エプロンの下に着てた奴と比べれば多少マシかもしれないけど、周囲の視線がある海でこんなもの着ていたら痴女だ。
じっとりと睨みつけると、後輩ちゃんは下手な口笛とともにそっぽを向く。
これは試着さえするつもりもないので、戻してくるように言いつけた。
「わぁ。それタマちゃんの?かわいいよユミ姉!」
「ありがと。メイちゃんはどんなのを選んでくれたの?」
「えへへ。ユミ姉は大人びてるのがいいかなって思ったから、これ!」
にこやかに差し出される水着を受け取り、試着室に引き込もる。広げてみると、ワンピースタイプの水着だった。ぱっくりと開いた胸元と背中を紐が交差するようなもの。綺麗な人が着こなすとかっこいいけど、私にはちょっとハードルが高そう。
着てみて鏡を見ると、案の定背伸び感というか着せられてる感がひしひしと感じられてしまう。私の貧弱なボディではメイちゃんのイメージにはそぐえなさそうだ。
試着室から出ると、いつの間にかそろっていたみんなの視線に晒される。
「おぉ、エロいッス」
「いいじゃないか。ステキだよ」
「メリもハリもないわね」
「えー!キレイだよユミ姉!」
「あはは。うん。ご好評賜りましてウレシイデス」
たまきみたいにしっかり批評してくれればいいのに、思いのほか褒められて上手く受け取れない。そもそもエロいは褒め言葉なのか。今まで服の感想にそんなこと言われた経験がないから分からない。どの辺が彼女の琴線に触れたんだろう。
なんだか無性に気恥ずかしくなってカーテンで身体を隠す私は、最後の刺客である先輩に視線を向ける。
心得た様子で差し出される布地を受け取って、すぐに試着室に引きこもった。
そして着替えようとするんだけど、なかなか上手くいかない。
形状としてはたまきと同じようなビキニタイプのやつになりそうなんだけど、どう着ればいいのかよく分からなかった。
困っていると、外から声が届く。
「ああ、そういえば持ってくる時に結び目をひとつ解いて分解してしまったんだけれど、ちゃんと着れるかい?」
「ちょっと、いまいちどうなってるか分からないかもです」
「そうかい。なら手伝うよ」
「え」
かさ、とカーテンの揺れる音。
恐る恐る振り向くと、そこにいた先輩がにこりと笑って密着してくる。
「さ、貸してご覧。きちんと着せてあげるからね」
「は、はぃ」
水着を奪い取った先輩はそれをするると結んで私の首にかける。
思いっきり上裸で下もショーツだけというあられもない姿を見られているけど、彼女がまったく気にした様子を見せないので動揺もできない。
硬直する私に上を着せた彼女は、今度は下に手をかける。
「ちょっ、お、そっちは自分でできますから!」
「遠慮しないでいいよ」
「遠慮とかじゃないですけどっ」
しゃがみ込んだ彼女が、私の三角と目線を合わせて水着の紐を合わせる。
彼女の視線の先、布切れ一枚の向こうがあまりにも頼りなく思えて落ち着かない。
吐息が透けているような気さえして私のメンタルがごりごりと削れていく。
ふに、と、ぎりぎりの下腹部に手が触れる。
「思ったよりも面積が小さいけど、キミは大丈夫そうだね」
「おっ、あ、」
「処理しているのか、元々ないのかな」
さすさすと下腹部をさする手。
それどころかするりと下着の隙間から潜り込む手に心臓が止まりそうになる。
「ないですっ、ないですから手っ!てっ!てッ!」
「ああすまないね」
にこにこと笑って立ち上がった先輩が、私を上から下まで眺めて笑う。
「よく似合ってるよ」
「……そうですか」
―――けっきょく。
水着選手権はたまきの一人勝ちだったけど、購入したのは彼女の分と先輩の
分になった。
着る機会は多分ない。




