068 懐かしの幼馴染と(5)
ポッキーの日短編も読んでな!(ダイマ)
冗談じゃなくみんなと順番にお風呂に入った私はすっかりのぼせて、たまきのお泊り初日の夜は気が付けば終わっていた。
目覚めてみると、右腕をまたに挟むように抱く後輩ちゃんと、左腕を枕にするメイちゃんがいて、見上げると私を膝枕する姉さんがいる。どうやら向こうの部屋から寝起きを見るためにやってきていたらしい。
朝の挨拶を交わし、左右の抱かれ枕をゆり起こしてひとしきりじゃれついて。
なおもじゃれじゃれしてくる後輩ちゃんとメイちゃんを引きずって一階に降りると、朝食前にハミガキ派のたまきが冷ややかな視線を向けてくる。
「おはよう。いいご身分ね」
「お、おはよう。ふたりとも寝ぼけてるみたいだから」
「あらそう」
ふいっとそっぽを向いてしゃこしゃこと歯を磨く彼女を気にしつつ、じゃぱじゃぱと顔を洗う。左右のふたりもスッキリしたようで、さっきよりも密着度を増してじゃれじゃれ……うん、まあ、お泊り会だしね。しかたないね。
朝ごはんは食器の関係でおにぎり。
カップでミソスープを飲むという不思議体験をしつつご馳走様。みんなで洗い物を済ませると、なにやらゼミの方でやることがあるらしい姉さんは部屋に戻った。私たちは特に予定もないので、なにしよっかーとか言いあいながら手慰みにルドーをする。
「たまきどこか行きたいところある?」
「特に予定は決めてないわ」
「そっかぁ」
私に会いに来るというのが理由だと昨日言っていた。
シンプルに考えるとただ私だけを理由に三日予定で来訪してきたわけで、なにげなくしようとしてもついにやけてしまう。どんだけ私のこと好きなんだよっていう。
そんなことをしているとたまきには呆れられるわ後輩ちゃんにはつんつんされるわメイちゃんにはつねられるわと散々だったけど悔いはなかった。
もしかしてこのシチュエーションでのんきに喜んでいる私はかなりひどいクズなのかもしれないとちょっと思うけれど、集まってしまったものはしかたがない。ああ、どうかしてる。
「じゃあとりあえず買い物でも行ってみる?普通に遊びに行く感じで」
「ユミ姉とお買い物行きたーい!」
「ええそうね。ちょうど新しいシャーペンが欲しかったのよ」
「みうはお洋服買うッスー♪」
「よし決まり」
そうと決まれば早速出発。
みんなに内緒で姉さんに行ってきますのキスをして、ワイワイとおしゃべりしながら駅前に向かった。
駅前にはそれなりに大きなデパートがあるから、とりあえずそこにいけば大体間に合う。
左右の腕をそれぞれに占領しようとするメイちゃんと後輩ちゃん、呆れながらもそっと手をつないでくれるたまきという布陣。
そしてそれに囲まれる私。
おかげでひどく目立つようだったけど、あいにくとそんなものに向ける意識はなかった。あれこれと話しかけてくれて目についたお店に引っ張られるというこの幸福な密着感。まるでみんなと一斉にデートでもしているような背徳と贅沢、それからささやかな罪悪感が心臓をどきどきと弾ませて止まない。
しばし適当にお店を冷やかした私たちは、お目当てのひとつである文房具屋さんを発見した。ちょっとだけお高めの文房具っていうのは眺めているだけでもなんとなく高揚する。普段使いするものを贅沢にするっていうのは、なんだかQOLが底上げされている感じがしていい。
「ああ、あったわ。これが欲しかったの」
「おおー。ブルジョワジー」
芯が切れるまでノックなしで書き続けられる上に芯折れしにくいという金属製のシャーペン。当然お高いそれだけど、たまきはまったく気にした様子もない
「シャーペンなんて一生使う機会あるんだから高いものを買ってもささいな問題なのよ。長持ちさせればいいだけだわ」
「なるほど」
確かにそれはそうかもしれない。安物買いの銭失いという言葉もあることだし。
彼女にならってペンを持ってみる。
のしっと持ちごたえがあって、たしかにこれは結構よさそう。
じぃ、と見つめてくるたまきの視線を感じながらも、私はペンを棚に戻した。
「買わないの?」
「私、ペンって壊れるまで使えたことない」
「ああ」
シャーペンなくしにかけては優れた才能の持ち主であるという自負があるくらいだ。
そんな私の言葉はたまきにとって違和感がないらしく、苦笑しながらレジに向かった。
それに後ろからついて行って、お会計の時に彼女より先にカードを差し出す。
危うく間違えてリルカを取り出しそうになったけど、あいにくこれで女は買えてもペンは買えない。普通のクレジットカードだ。
「ちょっと」
「まあまあ。再開を祝してっていうことで。あ、一括で大丈夫でーす」
遠慮するたまきを押し切ってお支払い。
新品のペンを差し出せば、彼女は困ったように笑いながらも受け取った。
「ありがとう」
「あはは。ペン一本にそんな大げさだよ」
「それでもよ。……大事にするわ」
きゅっとペンを抱きしめるたまき。
そこまで喜んでもらえるとアルバイトを頑張っているかいがあるというものだ。
リルカを踏まえるとほとんど赤字だけども。
「ユミ姉ユミ姉!これかわいーよ!」
「わ。ほんとだ」
「あら。いいセンスしてるじゃない」
そこに突撃してくるメイちゃんを受け止めて、たまきと一緒に笑いあう。
わいわいしているともちろん後輩ちゃんも混ざってきて、しばらく文房具を眺めて回った。
文房具の次は後輩ちゃんの要望に応えて洋服を見に行くことに。
と思ったら、彼女がぐいぐいと先導したそこは水着売り場だった。
「まだセンパイと海行ってないッスから!」
「海かぁ……プールでも?」
「水着の先輩が見れるならなんでもいッス!」
「欲望に正直」
とはいえ望まれたのなら否はない。
実はサクラちゃんたちとすでにプールで遊んだというのは秘密にしておこう。
「なんなら明日にでも行こうか。そしたらたまきも遊べるね」
「いいじゃない。夏休みだものね」
「私も新しい水着買おっかなー」
「ボクも最近サイズが少し上がったんだ」
「へー……ぇ」
振り向くと、にこやかに笑う先輩。
ノースリーブのセーターを着た彼女のサイズに思いを馳せ……いやいや。
「せ、せんぱい!?」
「やあユミカ後輩。偶然見かけたから声をかけてしまったよ。たまき君も、久々だね」
「お、お久しぶりです」
突然やってきた先輩に、そこはかとない不穏な空気を感じるのは……気のせいではなさそうだ。




