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067 懐かしの幼馴染と(4)

「あ、結婚らしいッス!よろしくッスセンパイ♡」

「あー!ずるい!」

「そんなシステムないから自分の車に帰ってね」

「あら。私も結婚みたいね」

「姉さーん?」

「あっ」

「え」

「……」

「や、たまきも乗らないでいいから」

「もぉー!なんでわたしはユミ姉と結婚できないの!」

「そういうゲームじゃないからだと思うよ」


―――みんなでワイワイと人生ゲームを楽しみ。


「姉さん姉さん、材料的にカレーくらいしか無理そうだよ。あ、でもお米炊いてないや」

「それならチャパティでも焼きましょう。ユキノの家で食べたことがあるの」

「ふぅぅん」

「わたし手伝うー!」

「おおっと。あはは、じゃあこれ皮むきお願いしちゃおっかな」

「手伝うッスー!」

「あー、じゃあ切ったやつ炒める係で」

「手伝うわよ」

「たまきは椅子温めてて」

「ちょっと」

「たまきは。ダイニングに。いて」

「……はい」


―――みんなで楽しくお料理をして。


「んんー!おいしいよこれ!姉さん!」

「うふふ。それはよかったわ」

「チャパティ……ウチでもなにか使えるかも……」

「メイちゃんのおウチってカレー屋さんッス?」

「パン屋さんだよ。血は争えないのかなぁ」

「ほんとに美味しいわ。しっかりと温まった椅子で食べると格別ね」

「もう、すねないでよたまき。ほら、大好物のにんじんだよ」

「子供扱いしてないでしょうねあなた」

「あー、わたしもわたしもー」

「ッスー!」

「うふふ」

「お、おお。ひな鳥の給餌みたい」


―――みんなで楽しくご飯を食べて。


そんなこんなで和やかに過ぎていくお泊り会。

まるで当然のように後輩ちゃんがお泊りするつもりでいることにはこの際突っ込まないことにする。べつに文句も問題もないし。


食後の片付けも終わったら、お風呂のターン。

ここにきて、仲良しだったお泊り会メンバーの一部にささやかな火花が散ることになる。


きっかけは、姉さんの一言だった。


「―――そろそろお風呂にしましょう。お客さんから先にゆっくり入るといいわ。いちどに多くても三人までしか入れないでしょうし」


その言葉に即座に反応したのが、メイちゃんと後輩ちゃん。


「わたしユミ姉と入るー!」「センパイといっしょがいッス!」


同時に声を上げたふたりは顔を見合わせにらみ合う。

むむっと敵対的なメイちゃんと余裕しゃくしゃくでにやにや笑う後輩ちゃんのふたりに、姉さん(だいさんしゃ)が小さく笑う。


「おきゃくさんよりも先に入るわけにはいかないもの。私たちは後で入るから遠慮しないでちょうだい?」

「昔はユミ姉と入ってたもん!」

「みうは今日こそセンパイの前をお流しするッスー♪」

「いや、一緒に入ってもそれはしないからね」

「一緒に入るのはいいんッスね?」

「ユミ姉はそんなこと言ってない!」

「あらあら」


うふふ、と笑いながら私を見据える姉さん。

それにつられてメイちゃんや後輩ちゃんの視線も私に向く。

これはつまり私に選べということなんだろう。


それがわかってはいたけど、実は返答は決まっている。


我知らずといった様子で手慰みに人生ゲームのルーレットをいじっていたたまきの元に行って、ぽんっと肩をたたく。


「たまき、久々に一緒に入ろ?」

「……あなたをご所望の女性が三人もいるようだけれど」

「私がご所望の女性は目の前にいるかなぁ」


にこりと笑いかけると、彼女はため息を吐いて立ち上がる。


「私、一番風呂が好きなの」

「知ってるよ」


というわけで、不満げな二対の視線に軽く謝罪を告げながらたまきと一緒にお風呂へ向かう。久々に見るたまきの身体は、印象より少し大人になっていた。


「なによ。恥ずかしいじゃない」

「あ。ごめん。キレイだったから」

「……私、あなたにそう言われるのあまり嬉しくないわ」

「え」


そう言い捨てて、一足早く浴室に行ってしまう。

彼女の言葉の理由がわからなくて困惑していると、中からはシャワーの音が聞こえてきた。

戸惑いはひとまず置いて、私もさっさと脱いで浴室に移る。


広くはない浴室で、シャワーで身体を濡らしてからわしわしと洗う。

なんとなく会話はなくて、身体をこする音と水音だけが湿気を震わせている。


やがてどちらからともなく浴槽に入って、だぱぁ、とこぼれていくお湯を何の気なしに眺めた。


「……それで、なによ」

「あー……バレちゃうよね」


わざわざこんなところでふたりきりになった理由は、彼女にはとっくに分かっていたらしい。苦笑する私に、彼女はあきれたような笑みを向ける。


「だてに幼馴染なんてやっていないわ。……といっても、それはユミもそうなのよね」


ほぅ、と天井に昇った吐息が水滴を降らす。

額に落ちたそれに流されるように水面に沈み、明るい色のクラゲがぷわりと舞った。


「―――ただ懐かしくなった。ほんとうに、それだけの理由なのよ」


浮かび上がった彼女は、お風呂のふちに身体を預ける。


「親友とずっと一緒に居られて。ずっと一緒に居られると疑わなくて」


ちゃぷん。

揺れる。


「そしてあなたのことを、たぶんほかの誰よりも好きだったあのときのことが……懐かしく、なったのよ」


彼女の視線が私を見る。

柔らかなまなざしだ。


ああ、私は今フラれている。


さすがというべきか、彼女は私をずいぶんと理解しているようだ。

この愛おしい拒絶が、私を脅かさないことを知っている。


「あなた、このあいだ下着晒していたじゃない」

「うん……うん?え、あ、え……え。……え?……えぁ、ぉん……」


訂正。全力で私の魂を脅かしてきたんだけどこの人。

下着をさらした記憶なんて今までの人生で一度しかない。

いやさらしたのは私じゃないけど。

まさかあんなものを見られていたとは。


え。爆ぜそう。


「あれを見たとき、ああ、私の知ってるユミはいなくなっちゃったんだって思ったのよ」

「それどういう意味?ねえちょっと?」

「だから無性に会いたくなって、でも今更会いたいだなんて言うのもおかしいじゃない。ようやく吹っ切れたのがつい昨日よ」


ふっ、と自嘲的な笑みを浮かべるたまき。

それはいいけど彼女の知っている私の行方をどうか教えてほしい。

あんまり変わっていないんだよね?大丈夫?


ざぱぁ、と立ち上がった彼女が、私を見下ろす。


「ま、そういうことよ。私長風呂嫌いだから」

「うん、まあ、知ってる」


てくてくと出て行ってしまった彼女のぷりんとしたおしりを見送る。

なんだかいいようにごまかされたような、そうでもないような。

嘘ではないのだろうけど、まだ全部ではなさそう。

もちろん、私のこの感覚は彼女も知るところなんだろうけれど……。


「ユミ姉!わたしも入るね!」


ばぁんっ!と扉を開いてメイちゃんがやってくる。

唖然としていると、彼女はるんるんと鼻歌なんて歌いながら身体を洗い始めた。


「えっと、私もそろそろ出るけど?」

「ユミ姉はみんなとお風呂に入るんだよ?」

「入るんだよ????」


わしわしと体を洗いながら当然に放たれる爆弾発言。

爆弾というか軽やかな死刑宣告というか。いや、のぼせそうという意味で。


……え。


あ、じょ、冗談だよね……?

ポッキーの日だったので短編集を書いたよ。


『ポッキーの日にかこつけた百合短編集』

https://ncode.syosetu.com/n8453hh/

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