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047 コドモな双子ちゃんたちと(2)

「じゃあゆみかちゃんからキスしてください」

「う」


さっそくのいもうとちゃんからのおねだり。

泣きそうな目で見上げられると叶えてあげてしまいたくもなるけど、ちらっと見えてしまう位置にママさんがいるという状況下で女児にキスをするハードルの高さたるや。


「……ウソ、だったんですか?」

「わぁ!そんなことないよ!えと、うんと、でもほら、ママたちが見てる、よ?」

「そんなことどうでもいいです」


とてもよくないです。

けど彼女はそう言って納得するような雰囲気じゃない。

薄い唇を震わせて、ムキになったようにキスを求める姿は幼気な子供そのものだ。


私はおねえちゃんをぎゅっと引き寄せて、彼女に隠れるようにしていもうとちゃんの頬にちゅっと触れた。それからおねえちゃんの頬にもおなじように。


「これで、どう?」

「クチにしてくれないんですか」

「チューじゃなくてキスだよゆみ」


案の定というべきか、まったく満足してくれないふたり。

というかチューとキスを別概念として理解しているらしい。私が求められているのは、じゃあ、やっぱり唇の接触ということになる。


私はママさんたちに視線を向け、心のなかで謝った。


「―――目、閉じて」


私が言うとふたりはハッとして顔を見合わせて。

ぎゅっと指を絡ませ合いながら、期待に頬を染めて目を閉じる。


年上のお姉さんからのキスに対してこんな反応をさせてしまっているのだという重々しい責任が両肩にのしかかるのが分かった。

ちょっと仲睦まじすぎただけのふたりの間に、やはり下手に入り込むべきじゃなかったと、そう思う。


そう、思いながら。


私はそっと、まずいもうとちゃんにくちづける。

触れるだけの、ほんの些細なキス。

次におねえちゃんにも、同じように―――


カシャッ


「え」


慌てて顔を離すと、物々しいレンズと目が合って。

ぎゅっと私の服を握ったおねえちゃんが、私の頬にキスをした。


カシャッ。


「ちょっ」


慌てて止めようとする手をかいくぐって、スマホを持ったいもうとちゃんが私の頬に唇を触れる。そしてカメラに目線を向けながら、その指がとんっと画面を叩いた。


カシャッ。


するりとバッグに収納されたスマホを大事そうに抱えて、いもうとちゃんがにこりと笑う。


「ゆみかちゃんは、これではんざいしゃさんですね……♡」

「え゛」


さきほどまでの物寂し気な表情はなんだったのか、物騒なことを口にしながらうっとりと頬を歪めるいもうとちゃん。

唖然としておねえちゃんを見ると、彼女はどことなくバツが悪そうに俯いていて、だけどちょっぴり口角が上がっているのが分かった。


混乱する私に、いもうとちゃんが触れそうなほどに顔を寄せる。


「ゆみかちゃんがわるいんですよ?わたしとおねぇちゃんをすてようとなんてするから」

「捨てるなんてそんな」

「でも、わたしたちのゆみかちゃんをスキなキモチを、うけとってくれないんですよね?」

「そういうことじゃ……」


彼女の言葉を否定しようとして、それが上手くいかないことに気がつく。

一方的に初めて一方的にやめようとしたのは事実だ。

彼女たちとの触れ合いのなかで、そういう親しいことをしてしまった私になんらかの特別な感情が生まれてしまうことは仕方のないことなのかもしれない。


それを恋愛感情と呼ぶほどの厚顔無恥ではないから、彼女たちと距離を取るべきだとそう結論付けたのも、事実だ。

それが責任であると、私は思っている。


だけど。


「ゆみ、わたし、ハジメテゆみにさそわれたとき、とってもうれしかったんだよ。なにをするのかはよくわからなかったけど……ゆみもわたしをいっぱいスキなんだってわかったの」

「わたしはずぅっとうらやましかったんですよ。おねぇちゃんがゆみかちゃんにもとめられて、わたしはそうじゃなくて。さいしょはそのぶんおねぇちゃんのカワイイところをいっぱいおしえてあげようとおもって、でも、やっぱりそんなのズルいです」


ふたりが揃って私へと迫る。

まるで、まるでリルカを使う前から気持ちはあったのだというような口ぶりで。

胸に秘めるものが、勘違いなんかじゃないと本能的に主張しているみたいに。


「待って、あの、私はそんな、ふたりにそんなふうに思ってもらうような、」

「ゆみかちゃんも、わたしたちをこどもだから(・・・・・・)なんてみくだすんですか」

「わたしたちこどもだけど、ママたちとはちがうって、ちゃんとわかるよ」


ぎゅうと握りあうふたりの手。

互いのことを強く想い合っていると分かる。

幼気なだけではないのだと、ふたりの目を見ればそう感じる。


「分かってるよ、分かってる。だけど、だからダメなんだよ。ふたりの気持ちが本気だって分かる。だから、子供であるふたりの気持ちを不用意に受け取ることは、私はできないの」


本気だろう。

彼女たちは紛れもなく。

きっと姉妹と、そして私と、どちらもずっと愛し合って、それが幸せだと信じている。

その気持ちを幼さで説明しようとは思わない。

恋愛の感情に年齢は関係ないとそう思う。


だけど、彼女たちがあまりにも幼いのは事実だ。

感情が本物だからなんていう理由で彼女たちを受け入れるのは、ただの現実逃避でしかない。


「っ、なら、ならさっきのシャシンをママにみせますよ!」

「いいよ」

「え」

「でも、そんな脅しに屈してふたりを受け入れた私に、きっとふたりはすぐに愛想をつかしちゃうだろうね」


まっすぐといもうとちゃんを見つめる。

彼女は瞳を動揺させて、苦しそうにうつむいた。


ひどいことを言っている自覚はある。

彼女は賢いから、夢の続きを思い描ける。

その先の現実的なことを、彼女は明確でなくとも理解できてしまう。


私はふたりをぎゅっと抱きしめる。

ふたりも私をぎゅっと抱きしめてくれた。


「どうしても、ダメなの?」

「ごめんね。ごめん……こんな、身勝手なお姉さんで」

「そんなこと言わないでくださいっ!うれしかったんです、うれしかったんです……」


胸が熱く染みる。

泣きじゃくるいもうとちゃんの背をなでる手が、もうひとつのちいさな手と触れる。

おねえちゃんは、じぃと私を見上げていた。


「ゆみは、わたしたちといっしょにして、たのしかった?」

「うん。幸せだった……ちょっぴり驚いたけど、それでも、楽しかった」

「だけど、ダメ?」

「だけど、だめ」


私が頷くと、彼女は考え込むように俯く。

それを横目に、いもうとちゃんの頭頂に囁いた。


「写真、貸してくれる?」

「……はい」


いもうとちゃんが差し出すスマホを受け取ろうとして。

横から伸びたおねえちゃんの手がそれを横取りする。

無垢な双眸が私を見上げる。


「ゆみがダメでも、わたしたちがあきらめるひつようないよ?」

「……えっと」

「!」


なにか壮絶に嫌な予感がする私の傍らで、いもうとちゃんは双子特有の超速理解で目を見開く。そうしておねえちゃんからスマホを奪い取るとまた大事そうにポーチにしまった。


「そうです!ちゃんとわたしたちがオトナになってゆみかちゃんがイイワケできなくなるまでしゃかいてきじゃくてんをにぎりつづければいいんでした!」

「うんんん?」


そんな『うっかりしてた!』みたいな勢いで恐喝宣言することある?

あれ、おかしいな。なんかいい具合にまとめられると思ってたのに……。


「えへへ。ゆみかちゃん。もしわたしたちをすてたりしたらこのシャシンをばらまきますね♪」

「す、捨てる、とは……?」

「イッシュウカンにいっかいはちゃんとあいにきてー、あとあとチューはしてほしい!」

「わたしたちのことをメイワクにおもったらばらまきます♡」


とんでもないこと言ってるよこの子。

どういう教育したらこうなるんだ……親の顔見ても納得感が欠片も得られないよ。


そう思っていると、いもうとちゃんの色のない視線が私をすみずみまで舐る。

もしウソでも吐こうものならポーチに突っ込まれた手がノールックで私の罪をママさんあたりにお届けすることになるだろう。


「―――いま、メイワクにおもいましたか?」

「いや、迷惑というか混迷の思いが沸き上がっているというか……」

「あ、でもあんしんしてください♪わたしたちがゆみかちゃんをスキじゃなくなったらちゃんとシャシンをけしてあげますね♪」

「うーん」


大人になるまで好きでいてね。さもないと社会的に殺す。

ただしその前に気が変わったら解放してあげる(はーとまーく)。

つまりこういうことを彼女は言っている。


「これならゆみかちゃんもモンクはないですよね……♡」

「これならいっしょにいてもいいよね!」


にこにことわらうふたり。

恐ろしいことに、彼女たちの将来を奪いたくないという私の気持ちは取り入れられているような気がする。なにせ向こうが生殺与奪権を持っているし、彼女たちが求めているのは『私がふたりを好きでい続けること』であって『私が彼女たちを受け入れること』じゃない。

週に一度というのがまた絶妙だ。

ヒマな休日とかは以前からこうして遊びに来ることがあったし、これまでだって平均すれば週に一度くらいは普通に遊んでいたと思う。

そこに『チュー』というスキンシップを新規導入するとはいえ、それくらいは彼女たちのことを思えばちょっとしたことに……思えるのはもしかしてマズいのか?ちょっとよく分からなくなってきた。


「あの、ちなみに拒否権は……?」

「そんなにわたしたちがイヤならいいんですよ」


ここで写真を盾に取るんじゃなくてそんな言い草をするというのがひどい。

そんな言い方をされると否定できる訳もない。


私はひとつ吐息して、ふたりの頭をなでた。


「その代わり、ちゃんとやめる時はやめてね」

「うん!でもオトナになってもスキだったらちゃんとおよめさんね!」

「うふふ♡しょうがくせいのおんなのこのジンセイをくるわせちゃったかもしれませんね、ゆみかちゃん……♡」

「分かってるならもう少し手加減をね……」

「わかっていても、メイワクでも、かなえたいからスキなんです♡」

「……いもうとちゃんは大人になったら悪女になるね」


じっとりとした目で見やると、彼女はからからと笑ってスマホをとりだした。


「なっとくしたっていうことはメイワクにおもったということなのでシャシンおくりますね♪」

「判定がシビアすぎる!ひどい誘導尋問だし!」

「とりけしたいなら、ちゃあんとしょうこをみせてください?」

「あ、わたしもー!」


ずずいと顔を寄せてくるふたりの少女。

真剣に言えば説得できるとか、頑張れば都合よく言い包められるとか、私ごときがそんなふうに思ったのが間違いだったんだなあって。


そんなことを思いながら、私はふたりの頬にくちづけた。


やっぱりふたりがかりはよくない……ほんとに、毎回ロクなことになってないんだから……。




帰り際ママさんたちに『とっても仲良しなんですね』とか言われたけど、他意はないと思いたい。

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