269 私とみんなの温泉宿(24)
ふたりの先輩の戦いは入浴後にも続いた。
もちろん全てが全て私のなにかしらをかけた闇のゲームだ。
トランプゲームの大富豪……ひざまくら耳かきを賭けて。
計3戦を通して私は一度も大貧民から成り上がることなく、最終的にはキサラ先輩が勝利した。
耳かきというものの奥深さと、その最中に突然意識外から声をかけられることのリスクを思い知るひとときだった。
ボードゲーム……マッサージを賭けて。
キサラ先輩が提示する名前も聞いたことのないボードゲームを何故か知っているシズル先輩、に挟まれてなにも知らない私という時間だった。
あれこれと私に手を焼いてくれながらもバチバチに争うふたりとは、同じゲームをしているのに別のテーブルにいたような錯覚さえ覚える。
これにはシズル先輩が勝って、お部屋でできる程度のちょっとしたマッサージをした。
ちなみに、リラックス効果のあるお香にも争いをどうにかする力はなかったことをここに記す。
そうこうしている間にお昼ご飯になると、今度は私と並んでご飯を食べる権利を賭けてシンプルなじゃんけんが始まった。
私の計り知れない場所で繰り広げられた読み合いの結果はシズル先輩の勝利に終わる。
高らかにグーをかかげるシズル先輩とチョキの絶望に沈んだキサラ先輩は、さながら合格発表日のごとく明暗をくっきりと示していた。
お昼ご飯は山菜の釜飯だった。
たぶん今回の旅行で唯一なんの思惑もない内容だろう。
昼食を終えると気だるいような眠気があって、欠伸をした私を見てもちろん戦いが始まった。
どちらが私と同じ布団で昼寝をするか、だそうだ。
みんなで川の字になればいいのに……なんて提案はもちろん棄却されて、仁義なき将棋バトルの末にキサラ先輩へと軍配が上がることとなる。
なんでこんなに忙しい旅行になってしまったんだろう……。
「おいで、ユミカ」
「うぅ……」
それでもお布団をぱかぁと誘われてしまえば抗うことなどできるはずもなく、私はキサラ先輩に背中側から抱っこされる形で寝転ぶことになった。
対面に横たわるシズル先輩からの視線が痛い。
だけど先輩は律儀にルールを守って距離を保っていた。
手を伸ばせば簡単に触れられる位置にいるのに。
「どこを見ているんだい」
そうやって視線を交わすことさえキサラ先輩は許さない。
ぐっと顔を持ち上げられたと思ったら視界の全てが先輩に食べられてしまった。
きっと元からこうして見せつけるための体勢だったんだろう。
シズル先輩からの視線は途切れることがない。
……次第に身体が熱くなってくる一方で。
不思議なほどに眠気は遠ざかっていかない。
先輩の腕の中ほど安らげる場所もそうはないけれど、このシチュエーションに安らげるほど肝は太くないはずなのに。
単純に、疲弊しているのかもしれない。
ふたりに奪い合われることに――というよりは。
ああして今、まさに目の前で満たしてあげられない人がいることに、強いストレスを感じている。
たくさんの人と関係を持つことが、畢竟こういった現実を伴うものだというのは何度となくぶち当たってきた壁だ。
誰かと一緒にいるときは誰かと一緒にいない。
だというのに、誰かと一緒にいるときでさえ、その人を満たしてあげられないとするのなら……それはやっぱり、私という存在の破綻でしかないんだろう。
だからやめておけばよかった、とは思わない。
じゃあどうすればいいのか? なんて思い至らないけれど。
――なんてことを考えていると、次第に脳が疲れてくる。
せっかくの先輩たちとの旅行が、本当なら喜ばせてあげられた心の半分もきっと満たせないままに、過ぎていこうとしている。
目覚めたあとには画期的なアイデアが浮かぶだろうか。
それともやっぱり同じことで、また今度、仕切り直しをすることになるのだろうか。
不安とも期待ともつかないまどろみに、私はゆっくりと目を閉じた。




