八話「殺し迷う少女」
扉の先にはツインテールの金髪の少女がいた。見た目だ、が小学二年生ぐらいの年齢のようだ。
「おいおい、いくらなんでもこんなかわいい子が相手なんて無いでしょ」と小宮さん。
「あまりあんたに同情したくないけど今回ばかりはするわ。あんたにも優しい心を持ってるんじゃないの」と理沙さん。
「だまれ、だまれ、おばさんたち……私以外、みんなちね」
「今、なんて言ったかな。謝ったら私は痛いことはしないわよ」
ある意味では人のことを言えないが、同一人物のキャラが変わったと思う瞬間に私は今、遭遇した。今のセリフが常に殺気を立てている小宮さんなら分かるが、血を見たくない理沙さんが言ったのである。
「敵は敵。あんなもん、倒してしまえ」と言って彼女に向ってナイフで襲おうとする。
「男はなおさらちね。どうせ私なんか……」
そういうと少女はナイフを持った男を殺した。いや、違う。彼が自分を殺したのだ。自分の持っていたナイフを自分の心臓に突き刺して。
「何よ。そんな顔をして……あんたもあんたもみんなちね」
彼女はなぜか泣いていた。
「何泣いてるのよ。泣くならやらなきゃいいでしょ」と荒井さんが言う。
「うるさい。あんたたちがちぬのはあんたたち自身のせいだよ」
近くにいた男二人が自分の持っているナイフを自分の心臓に突き刺した。それだけではない。武器を持たない二人の女性は自分の右手を無理矢理突っ込み窒息死した。私たちはその光景を見たりして視線を彼女から逸らしていたため平気だった。
「どうせ、私の神の目の力が怖くて誰も私に近づかないわ」
「そんなことないわ。私はあなたに近づけるわよ」と荒井さんは言葉通りに彼女の方へ近づく。
「近寄るな。あんた、私に殺されたいの」
「一つだけ聞きたいことがあるの。なんで死ねじゃなくて、ちねって言うの。本当に殺したいならそう言えばいいじゃない」
「理沙さん」
私は彼女の名を大きな声で叫ぶ。彼女が死ぬのではないかと思ったからだ。理沙さんの口から自分の心配とは裏腹の次の言葉が返ってくる。彼女は何かに気が付いたのだろうか。
「大丈夫。私は平気よ」
「なんでって。先生に“死ね”という言葉はよくないって言われたから“ちね”ならいいと思ったから。私はこの目のせいで両親から見放され、先生たちには邪魔者扱いされ、クラスメートには嫌われる。だから私は殺しまくったのよ」
何かをたたく音が部屋に鳴り響く。理沙さんが少女の頬を平手ではたいたのだ。彼女の頬が赤く腫れている。
「ごめんね。痛かったでしょ。でもね、死ぬことは私があんたをはたく痛さよりも何倍も痛いの。それに加えていきなり未知なる世界に行かされて寂しくなっちゃうの。私はこの後どうなっちゃうんだろうって。私はそれをあなたに分かってもらえるのなら死んでもいいわ」
あまりの言葉に部屋の中は静まり返っていた。
「……ならちね。……っておばさん、目をつぶるな」
「ごめんね。大事なことを言い忘れてたからつぶったのよ」
目をつぶった理沙さんは少女の頭を自分の胸に寄せる。
「あんた、なんで私が近くに行ったか分かる?私にとって目の力なんてどうでもいいの。私はあんたのその瞳自体がかわいいから近づいたの。もっと言えばあんた自身がかわいいから近寄ってあげたの。だってあんたも私も女なんだから。それでも嫌なら私を殺しなさい」と理沙さんは言って目を開けて彼女に微笑んだ。
「……私は女。神の目を持つけど女の子。目の前にいる人も私と同じ女の人」
「そうよ」
「もう目なんてどうでもいい。私はあなたたちを殺さない。たとえ私が消えてもいいから……」
彼女はそう言うと少女は徐々に上に上がって行く。だんだん消えていく。天井の近くにまで上がっただろうと思ったら完全に消えた。私はこのパターンは何だと思った。とにかくこれでよかったんだ。少女のためにも。理沙さんのためにも。そして天井の声が降り注ぐ。
『まだこんなに残ってるか。奇跡の一人もいるんだな。よし、次の扉を開錠します。複数相手ですがここまで来たなら立ち向かえるでしょう。さぁ、中へ』
声に促され扉へと歩いて行く。ポケットにガムをまた一個取り出し噛む。次のステージが絶望を与えるステージになるとは恐らくこの十二人の内の一人を除いて誰が分かったのだろうか。