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二話「思い出された記憶と黒い影」
日付は六月三日金曜日。いつも通り大学に行っていた。二時限目から四時限目までの講義を受けて帰宅するつもりだったが、四時限目終了後の私は大学内の図書館で月曜日に提出するはずの調べ物の課題を終わらせていた。そして集中し過ぎたせいで時間が過ぎてしまっていた。五時限目の半分、つまり左腕に付けた時計の短い針が数字の五と短い針が二の五時十分を指していた。そしていつも通り二回電車を乗り継ぎして最寄りの駅に到着した。
涼しい風が私の体に当たる。人が多く通る道ではなく、静かそうな道を歩く。人の代わりにたまに猫を見かける道。店の代わりに自動販売機が何個かある道。私はそういう道を好んで歩くのが好きだった。死ぬまでは。この道からしばらく歩いたところに坂が現れる。その坂を十分間上りきれば家に帰れるはずだった。この十分間の坂の途中で私は……。
記憶がおかしい。そこにいたのは人間だったはずが、容姿も何も分からない黒い影がそこにいる。とにかく私はそいつに殺されたのだ。