一話「ゲームの始まり」
ここは一体、どこだろう。
私は組んでいた腕の上に顎をくっつけさせるようにしてのせた頭を上げて周りを見渡す。天井も床も壁も部屋全体が白い。そんなこの部屋の隅っこで私は体育座りの格好で座っている。いや、これでは多少の誤解が生じるだろう。座っているのではなく、座っている状態のまま寝かされていると言った方が正論である。そんな清らかな白さの部屋であるだけなら驚きはしない。この部屋の中には目で見渡す限り百人以上の人数がいる。その人数が結意義に収まるくらいの広い部屋である。周りにいる人々は私と同様に座っている者もいれば、立った状態でその場を動かずに周りを見渡す者もいる。こんな風にしばらく周りの状況を観察していたら、陽気な女性の声が聞こえてくる。
『ハロー、エブリワン。”Delete Game”へようこそ』
どうやら、天井から声が聞こえてくる。そちらを見つめたまま耳を傾ける。
『皆さんはこのゲームの意味を分かりますよね?えっ、分からないのですか?それは残念ですね。そんなあなた方のために無料で教えてあげましょう。消されるか、消すかのゲームです。死ぬと言うような甘い言葉ではありません。また、あなた方が使用したことのあるゲームのように一度消えてすぐその場で復活するなんてこともありません。この世からあなた方がいたこと自体が消えてしまうのです。あなた方のことを覚えてる人なんていなくなるんですよ。えっ、結婚したからそれはないって。あはははは。あなた方にはそんな”結婚”と言った行いなんてどうでもよいではございませんか。だって消えてしまうのですから。まぁ、あなた方は記憶を思い出している最中かもしれないが、ここにいる百二人全員は死んだ者か、罪のある者だけです。そんな者が消えなくて何の役に立てましょうか。
では、話を戻して説得してあげましょう。消えるあなたが結婚していたとしましょう。その恋人はあなたがいた記憶をこのゲームのせいで消えたとしましょう。それに伴いあなたの暮らしていた品物も消えてしまいます。恋人は自分の過ごしやすい実家か、それともその人自身の過ごしやすい家かのどちらかに暮らします。
ん?自分には子供がいるって。だから言ったではございませんか。あなたの物、つまり子供も消えるのです。それどころか、あなたを産んだ両親にとってさえあなたを産んだことの記憶が消されるのです。それらが嫌なら戦って下さい。
じゃあ、なぜ戦うのか。一つは今まで言ってきたように消えるから。もう一つは頂点に黄金に輝く唐揚げがあるから。
あなた方は気になるでしょう。黄金に輝くとは何かって。普通の唐揚げです。しかしあなた方は今、少しだけ空腹ですよね。戦い続けて空腹の限界が来た時に唐揚げを見ると黄金に輝くように見えるのです。ちなみに壁を蹴りまくっている愚か者がいますが、空腹になるだけで無意味ですしウザいので消しますよ?それにここの部屋には扉がありませんので逃げることはできません。脅しはこれぐらいにしてあげましょう。
では、ここであなた方にやってもらいたいことを言います。今は見ないで下さい。見たら消しますって忠告してから説明させてもらいます。二人組になってポケットにあるトランプカードをお互いに見せ合って下さい。そして数の多い方が勝利。少ない方が消される。ただジョーカーがあると両者共に消えることはありません。さぁ、始めましょうか。究極の運命の戦いを』
こっちに質問権はないかのように一方的な口調のまま話は終わった。どうやら私は最悪のゲームに巻き込まれてしまったようだ。なぜ空腹な自分たちに唐揚げの話をするんだ?ダメだ、そんなことを考えると腹が減る。
周りの様子を見ることにした。私と同様にしている者もいれば動き出している者もいる。後者たちは陽気な声の通りに負けた者は跡形もなく消され、勝った者は私の目には見えない階段を上がっていく。それはスカートを穿いている女性にとっては気まずいものではあったが、消される運命の人に比べればマシなのかもしれない。私はそんな様子を見ながら残れる人数について次のように考えていた。
トランプの種類は赤字の三文字であるハートとダイヤ、黒字の四文字であるクローバとスペードの四種類である。それぞれ十三枚のカードに加えて二種類のジョーカーが入っている。計算式で書くなら、四×十三+二=五十四。したがって五十四枚のカードか一セットとなる。それに対し、この部屋にいた百二人の人に対し五十四枚を割る、百二÷五十四=約一・九。これはセットの数になる。つまりに二セット必要になる。それもそのはずだ。割るのではなく引いたら百二-五十四=四十八枚。ほぼ二セット使うのは確定だ。そして最悪の場合、どちらかが勝って生き残る人数は百二÷二=五十一人。それに加えてジョーカーの生き残りが二から四人増える。したがって五十一人から五十五人が生き残ると解いた時、私はある女性に話しかけられた。
「ごめんなさい。あなたなら勝てそうな気がしたから。私の名前は理沙。風呂場で自殺しようと手首の脈を切ったら朦朧してここに来てしまったの。死ぬのは怖くなかったのに消えるのは怖いのよね。君の名前はなんていうのか教えてくれないかな」
「僕は……」
私は自分の名前を口に出した時、脳裏に記憶という名の映像が流された。ここに来る前に私は殺されたのだ。




