第2話
新緑の季節。5月も終わりに挿しかかる頃。私は、告白をした。そして、彼は、今も私の横にいてくれている。今日もまた、彼と一緒に学校へ向かう。
「おはよ」
「あ、おはよう」
私の彼は、めがねがちょっとインテリっぽい感じだけど、実際の成績は平均ぐらいの上原司君。私の幼馴染で、突然小学校の途中で姿を消した人で、私の初恋の相手だった。
「じゃあ、学校、行こうか」
「うん」
彼は、私の手を握り、学校へ行った。とても暖かいその手を、私は、しっかりと握り返していた。
途中で、達也と玉緒の二人に出会った。
「お、もうそこまで行ったか」
「どこまでだよ達也」
「手をつなぐところまでだよ。俺らだって、まだそこには到達してないぜ」
「なっ…いいだろ?別に、どうだって」
「確かに、どうだっていいな。俺にも、似た者はいるしな」
「似た者って何よ。私のこと?」
「他に誰がいる?美春か?まあ、美春は司の彼女だし、玉緒は美春の親友だし…」
「ちょっと、なに考えてるのよ」
「いや、別に何にも〜?」
「何か隠しているわね。一体何よ」
「なにも隠してなんかいませんもんな〜」
「こらっ、達也、まちなさーい!」
その時、一陣の風が、美春と司の間を駆け抜けた。
「あ」
美春が言った。
「風…」
「そうだな、風だな…」
司は腕時計を見る。
「やべっ、遅刻する!」
「え?本当?」
「ああ、ほら、急ぐぞ!」
司は美春の手を強く握り、走り出した。美春は、司の力に身をまかせ、走った。その手は、不思議なぬくもりがあった。
「はあ、はあ、間に合った…」
教室に入ると同時に、チャイムが鳴った。
「はい、司と美春はぎりぎり。それ以降のやつらは、みんな遅刻だ」
後から来る人達は、不平不満を言った。
「ぎりぎりじゃないっすか〜」
「そうすっよ。大丈夫でしょう?」
「駄目だ。早く座らんと、昨日も遅刻と言う事にするぞ」
その声で、みんな座った。
「じゃあ、今日の連絡は、まあ、特にないな。じゃあ、みんな、1時間目の準備をしとけよ」
それだけ言うと、先生はさっさと教室を出て行った。
そして、昼休み。司は、食堂に行っていた。その道の途中、階段を降りて、1階についた時、さらにその下から話し声が聞こえてきた。しかし、詳しくは何を言っているかわからなかった。司は、周囲を捜して見たら、偶然にも隠し扉を見つけた。
「なんだ?これは…」
下に降りようとしたら、誰かに肩をつかまれた。
「もう、どこに行っていたの?」
美春だった。
「ああ、ごめん。この扉の中から話し声が聞こえてきたから…」
「……あやしいわね」
いつの間にいたのか、玉緒と達也もいた。
「中に入ってみる?」
達也が提案した。
「じゃあ、私から入るね」
何も聞かずに、さっさと階段の中に入って行った。
「ちょっと、玉緒、急ぎすぎだよ」
続いて、達也も入る。それにつられて、結局、司と美春もその扉から下に続く階段を降り始めた。
「ちょっと、暗いわね」
足元がどうにか見える程度の明るさが、壁についている電球から照らされていた。そして、階段が終わり、平たい場所に出てきた。その場所はちょっとした部屋になっていた。しかし、話し声はどこからも聞こえてこなかった。その部屋の一番奥に、何かの機械が置かれていた。
近寄って見ると、中に、人が眠っていた。
「なに?これ…」
玉緒がつぶやいた。その時、強力な光が4人を包んだ。
「何やってるの!」
それは、校長の声だった。
「こ、校長先生こそ、ここで何をしていらっしゃるのですか?それに、この人は?」
校長はため息を一つつき、光を弱めた。
「それを言うという事は、もう、中を見てしまったのね」
「申し訳ございません」
「いえ、いいのよ。……この人の、いいえ、このロボットの秘密を知りたい?」
「ロボット?そんな訳ありませんよ。だって、こんなに精巧なロボットは聞いたことがありません」
玉緒が言った。
「そのロボットは、R-5963と言って、世界で最初に作られた、感情を有する汎用2足歩行人型ロボットなの。私は、校長になる前は、その製作担当者だったの。その後、ロボットの叛乱と言われる事があって…ああ、この事は歴史で習っているわね。35年前、とある研究所で作られたロボットにのみ伝染する病気、ロボット病によって、共通の意識を持ったロボット達が、人間世界に対して「ロボットに対しても平等を」と言って、戦争が起こったわね。あなた達が生れる、30年ほど前の時のこと。その時に、ロボット病に感染したロボットは、全て処分された。でも、この子だけは、私が最初に作った事もあって、愛着があったの。それで、あの混乱の中、この子を、この学校の地下室に隠したの。当時の校長は、私の友達だったからね。それ以後、ここで、再び目覚める時を待ってるの…」
「このロボットの名前は?」
「久美子…若草久美子よ。当時、彼女を開発した、渡辺、柿元、黒椎、采等、楠貴、美春、神足の7人の頭文字をとったの」
「じゃあ、彼女を、僕達が育てましょう」
司が言った。
「ちょっと、司。大丈夫なの?そんな事言って」
「大丈夫だって。それに、なんか、悲しいだろ。そんな、確かにロボットの叛乱は歴史の教科書に載っていた。でも、自分に関係ないと思っていたら、こんなところにその生き証人がいる。そんなことって、あんまりないと思うんだ」
「………いいわ。じゃあ、久美子をよろしくね」
そう言うと、校長は、司の前にあった赤いスイッチを押した。すると、久美子を覆っていたカバーが開き、中から、彼女が出てきた。普通に歩けるみたいだった。
「………お母さん?」
「おはよう。久美子。調子はどう?」
「…眠い。もっと眠りたい」
「しかし、そうも言っていられないの。必ず、眠ったら起きる時が来るの。それが今だったと言う事」
「…この人たちは?それに、他の意識がない…他の人達は、どこにいったの?」
「あなたは、長い間眠っていた。昔の人達は、既にこの世界にはいないの。彼らは、あなたが起きてからのことを任せてあるから大丈夫」
そして校長は、一言言った。
「司君、一つだけ久美子について注意しておくわ。久美子は、甘い物が大好きで、1日に1回、甘い物を食べないと死んでしまうから。気を付けてね」
「何でそんな仕様にしたんですか?」
「実は、開発者の一人である柿元は、甘いものが大好きだったの。彼女の要望によって、取り入れられた機能なの。他の6人ははっきりと反対したんだけどね…」
「じゃあ、他に機能とかないんですか?」
「それは、この本に載っているから。はい」
その本は、表紙に「関係者以外閲覧厳禁・久美子専用取説」とかかれてあった。
「なんですか?この分厚い本は…」
「彼女についての説明書。分からない事があったらそこに書いてあるから読んでね」
そして、校長はいなくなっていた。
「……………どうしよう」
「どうしようもないじゃない。司の責任だよ。勝手に引き受けてさ。でも、彼女のこと、どうやって説明しよう…」
「そうだ!転校生と言う事にしておこう」
「それ、いいね」
こうして、彼女は、この高校に転校してきた事になった。




