EXP.141 BOY MEETS GIRL
いつもながら大変遅くなってしまい申し訳ありません。
大規模侵攻から数日後。
ギルドにある多目的ホールのような場所。その壇上に一列に並ぶ男女、そしてその中心から一歩前に出ている男性が演説をしている。
僕は列の右端でその光景を眺めていた。
「この場にいる彼ら彼女らこそ、今回の大規模侵略から見事に我々を守り抜いてくれた先鋭たちだ!」
その人物は声高らかに宣言すると両手を大きく広げ、それに合わせて観客たちから壇上に向けて盛大な拍手が送られる。
因みに演説をしているのは、当然だがこのホワイトワールドを治めているヤスイさんだ。
「それでは……これより各功績に対しての報酬を授与する」
…
「解除……『ソニック』」
自身の認識を超えた最速の剣が三本の刃を叩き落とす。
「成長しないね〜君も。斬撃追尾弾は破壊しない限り何回だって君の事を……」
Lokiも気付いたようだ。
刃が動きを止めた事、正確には罅が入って崩れ始めている事に。
「だから、破壊を……してるんだよ」
他の二本と比べて崩れるのが遅い刃に、純白の剣を突き立てて完全に砕く。
「なっ……剣なんかで斬撃追尾弾をどうやって……どんなトリックだよっ!!」
「機密事項……だから言えないかな」
刃を砕かれた事に動揺を隠せないLoki。そんな彼の焦りを煽るように僕は極力余裕があるように振る舞う。
「これ以上やっても意味がない。だから諦めて帰って欲しい……」
「そう言われてさぁ……はい、分かりました。とはならないでしょうが」
「確かに」
そんなやりとりを終えた僕達は共に臨戦態勢を整え、ほぼ同時に動き出す。
「散弾+散弾」
「飛翔、鎖状」
僕はLokiの視野を狭めるべく天井に向かって飛び、左手に現れた鎖をLokiに向けて放つも最低限の動きで躱されてしまう。
詠唱の終わりを僅かに遅らせたが、Lokiの手元には変形を繰り返す立方体が今にも破裂しそうになっている。
「飛翔、解除、跳躍!」
鎖を強く握り巻き戻す、と同時に見えない壁を蹴り飛ばす。
『徹甲炸裂弾』
景色が変わったと思った時には、強烈な痛みが走り意識を持っていかれる。
「っ!? それでも……なっ」
男の声と共に硝子の割れるような音が聞こえた。
…
「ユウキさん!」
「……林、どうし痛っ」
痛みでぼやけていた意識がはっきりする。視界には天井が広がっており、林が覗き込む形で声をかけていたらしい。
「大丈夫ですか?」
「たぶん大丈夫……。Lokiは?」
林に支えられながら上体を起こすと、メニューを操作するスノードロップさん。そしてその近くには、巨大な三角柱の中に閉じ込められた様子のLoki。
「林、あの柱は?」
「ボクも説明されただけなのですが、管理者権限で指定したプレイヤーを拘束できるんだそうです」
「なら最初からあれを使えば良かったんじゃ……」
メニューの操作を終えたスノードロップさんが此方に近づいてくる。
「本人に触らないといけない。あと囲むまでに時間がかかる……」
「ですよね。すみません」
「大丈夫、気にしてないから。それよりも……」
スノードロップさんは僕の全身を眺めると急に床を指差す。
「……早く」
「な、なんですか?」
「早く寝て。……治療するから」
言われてみれば回復したはずのHPがごっそりと減っている。その上、身体中が痛い。特に頭。
「でも、スノードロップさんの避難がまだ……」
「大丈夫……もう終わるから」
その言葉の意味を理解するより速く外の景色が白く染まる。
「ランさん……?」
「うん。もう大丈夫……だから、早く寝て」
「……はい」
その後、敵の撤退を告げる放送が流れ、ホワイトワールドを賭けた攻防戦に僕たちは勝利を収めたのだった。
…
と、そこで終わりだと思っていたのだが、僕と林、一様カレンも今回の戦いでの功績を認められ(報酬)と記章の贈呈式に参加していた。
「続いてもスノードロップ君の警護並びに敵の捕獲に大きく貢献してくれた。『Requiem』のユウキ君だ」
こんな大勢の前でキャラクターネームとか言われるの凄く恥ずかしい。だけどそれよりも、
「彼にはスノードロップ君から記章の授与を」
目の前に立つスノードロップさん。
彼女を前にして僕が落ち着けるわけもなく。手汗は溢れ、身体は小刻みに震えているしで、もう緊張が半端ないです……。
「……じっとして」
スノードロップの言葉で震えを止める。すると、僕の胸元に手が!? 記章を着ける為とはいえ、もう限界です。
「……終わったよ」
「っあ、ありがとうございます」
声が上擦りそうになったがなんとか耐えた。よく頑張った僕。
スノードロップさんが一礼して後ろに下がろうと足を引く。すると、ヒールが折れて態勢を崩す。
「あぶない!」
咄嗟に伸ばした左腕で彼女の右手首を掴んで身体を引き寄せる。が、二人分の重さに耐えきれず僕は背後に倒れた。
「いたた……大丈夫ですか?」
「……うん、ありがとう」
「いえ、そんなお礼なんて……」
どうしよう動けない上に身体中、特にお腹の辺りに柔らかい物が! 静まれ僕よ、耐えろ耐えるんだ。
そんな僕の内心の焦りを知ってか知らずかスノードロップさんが顔を寄せて、聞こえるか聞こえないかくらいの小声で囁いた。
「ありがとう……早乙女君」
「え」
先程までの荒れていた感情が鎮まり、思考が停止する。
アイツらか? でもアイツらなら名前で呼ぶだろうし、違うか。ってことは現実で僕を知っている人……。
「二人とも大丈夫か?」
考えをまとめるよりも先に林やカレン、周りの人が心配して集まってくる。
「たぶん、大丈夫」
「……ヒールが折れただけ」
「わかった、スノーは私が運ぼう」
僕は林に手を借りながら立ち上がり、カレンにおんぶされたスノードロップさんに質問しようとしてやめた。
まだ敵の可能性がある以上、深く関わるのはデメリットが大きい。
「……スノーでいいよ」
僕の考えなど関係なしに彼女は僕に話しかる。そして僕も下らない事を考えていたと思った。
「またね……ユウキ」
「……はい、スノーさん」
これほど純粋な笑顔の人を疑うなんて、僕も随分と変わったなと。
…
日が落ち始めた頃、色々ありつつも無事終了した贈呈式会場を後にした僕達。
「はぁ……私、今回もあんまり出番なかった」
「そ、そんな事ないですよ。カレンさん達が居なかったら被害は拡大していたと聞いています。ですよね、ユウキさん?」
「う、うん。また次の試合で頑張ればいいんじゃないかな?」
僕と林の励ましもあって、カレンは先程まで落ち込んでいたとは思えないテンションの高さだ。
「皆んな、お疲れ様」
ギルドを出た所で待っていたシアさんと合流して目的地へ移動を開始する。
「今日はギルドじゃないんですね」
「そんなに大勢じゃないからね」
「ち、ちなみに今日は何人くらい来るんだい?」
声をかけたけど断られたのもあるからなぁ……。楓月さん達や知り合いの『Seeker』の人だけだし……まぁ、大丈夫だろう。
「数えてないですけど、いつもお世話になってる人とかだけなので」
「そ、そうかい。ならいいんだ、全然……」
なにやらブツブツと独り言をこぼしているシアさん。と、その対極で、通りを歩くだけで道行く人と挨拶を交わしているカレン。
「ところで、今日はどこの会場で騒ぐんだ?」
「できればあまり騒がない方が……」
「予定してる人数も少ないからギルさんのお店だよ」
そんな事を本人の前で言おうものなら「小さくて悪かったな」と言われる事だろう。
それから暫く、雑談を交わしながら歩いていると目的の店に辿り着いた。
「当初より人数が増えたが、報酬もあるし……それじゃあ、今日は全力で楽しむぞー!」
「オッー!」
「「お、お〜」」
…
数時間後……打ち上げもお開きになり、他の人達は店を後にしていった。
「それで……これはどういう事かな、ユウキ君?」
散らかった店内。そこには瀕死の従業員二名、酔い潰れが数人、そして椅子に腰掛けるシアさんと床に正座の僕。
彼女の問いかけに対して僕は素直に答えた。
「すいませんでした」
土下座をしながら。
「聞いてないぞ! 大人数じゃないって言うから経費の全負担をOKしたっていうのに……」
「居ない予定の方が多く来られたので……」
「今回の報酬どころか貯金にまで大ダメージがいってるじゃないか! どうしてくれるんだい!?」
そう、誘ったけど断られた人や呼んだ人が連れてきた人などが居合わせた事で、予定よりも十人ほど多く経費がかかった。
なによりも人数の多さから会場のスタッフ(二名)が瀕死になっている。
「明日からまた頑張って稼ぎますから……」
「ふん、まあ今回は許そう。だが、もう二度と君に幹事はやらせないからな!」
「はぁ……」
確かに今回の件は僕にも責任があるし……頑張るか。
「やっぱり今から行ってきます」
「え、今からかい!?」
「はい!」
店の扉を開き、一歩を踏み出す。
「あ……ボクも……行きます……」
「ん? 私も、気分がいいから行くぞ!」
いつまで経ってもお金は貯まらないし、なにかと巻き込まれる事も多いし、偶にはゆっくりもしたいけど……このゲームを続けて良かったな。
そんな事を想いながら僕は仲間と共に夜の街に駆け出した。
これでこの作品はひとまず終わります。
続きは書くかもしれませんし書かないかもしれません。ですが、いつか書きたいとは考えています。
後半にいくにつれ更新が不定期になってしまった事、大変申し訳ありませんでした。並びに最後までこの作品を読んでくださり、ありがとうございました。
次回作はまだ考え中ですが、いつかそちらも見て頂けると幸いです。
改めてこの作品を今まで見てくださり、本当にありがとうございました。




