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第8話 遺跡内部で発見されたもの

 それはエリナ用の新たなボディスーツを作成し、エルフの小間(こま)使いに預けて彼女に渡してくれるよう頼み、夕食を摂って眠りに就ことした矢先の出来事だった。

 板間を踏む慌ただしい足音が聞こえたと思ったら、俺の部屋のドアが外からノックされた。


「どうぞ」


 俺が入室を促すと、そこに現れたのはヴァレリアだった。


「グレン、こんな時間にごめんなさい」


「いや、構わないよ。それより遺跡の調査はどうした? たった一日で戻ってくるとは」


 死の砂漠から出土した遺跡の調査が新たな展開を迎えていると彼女は発つ前に言っていた。数日間くらいはあっちに滞在するものだとばかり思っていたが。


「遺跡の内部から発見されたものの解析に、あなたの力が必要になりそうで」


「それで俺のところへ?」


「ええ。急な事で申し訳ないんだけど明日、私と一緒に遺跡へ行ってくれない?」


「そりゃいいけど、何が見つかったんだ?」


 ヴァレリアは冷静さを欠いているようだった。それも、何か凄い歴史的発見をした時のような昂揚感からではなく、忌むべきものと遭遇したかのような……恐怖や畏怖、か?


「広大な石室と壁画、それに古代文字」


「へぇ、興味深いな。太古の文明について知る足がかりになりそうだ」


「それが、そう単純じゃないの」


「どういう事?」


「死の砂漠については以前に話したことがあったわね」


「あぁ」


 かつて、俺がヤンク王国から薬法師としてこのアルフヘイムに派遣されていた頃にヴァレリアから聞いた話だ。

 エルフの国は豊かな自然を持っていて、その土壌には世界樹から湧出する豊富な魔力が染み渡っている。木々の成長も早く、エルフやここで暮らす動物達にとっては楽園のような場所だった。

 だが唯一、例外がある。いかなる生物も棲み付かず、木々すら一本も生えない枯れ果てた地。大森林を抜けた先に突如としてその姿を現す砂漠地帯。エルフはそこを“死の砂漠”と呼称して忌み嫌っていた。


 数千年もの昔、そこには古代文明が大いに栄えており、土地も今のような砂漠では無かったという。何らかの理由で彼らの文明は滅び去り、無念のうちに死んでいった者達の恨みの念が一帯を砂に変えてしまったと言い伝えられているそうだ。

 ここに長期間滞在すれば呪いで体を(むしば)まれるとエルフ達から忌避(きひ)されている不気味な場所。


「その昔、栄華を極めていたとされる古代文明の滅び去った理由らしきものが、そこには記されていたの」


「おぉ……それじゃあ大発見じゃないか!」


「でも、壁画はまだしも古代文字については読み取るのが困難ね。現代では使われていない文字によって(したた)められているみたい」


 なるほどねぇ、古代文字か。死の砂漠にかつてどんな文明があったのか、またどのような種族がそこを治めていたのか。エルフか人間か、はたまた別の種族か。この世界には種族固有の文字を持つ者達は数多い。しかしどの文字にも種族特有のパターンがあるし、それらと一つ一つ照合をかさねてゆくことでいずれ、古代文字の全容を解明することも出来るだろう。時間はかかるが。


 ん、だが妙な感じがするな。過去の文明が滅び去った理由が判明しそう、というニュースは驚きこそすれ、恐怖するようなものではない。ヴァレリアのこの焦りの表情は一体何を意味するのか。


「で、俺がその調査に同行して何かの役に立つのかい?」


「ええ、恐らくは……」


「歯切れが悪いな。はっきり言ってくれていいぞ」


「見てもらった方が早いと思うわ。明日、日が昇ると共に遺跡へ行きましょう。そこで話すわ」


 ヴァレリアは言い、俺のことを不安げな眼差しで見詰めていた。

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