初めての魔石開発
新しい魔石を作っていかなくてはなりません。
「父さん、魔石をどんどん作って開発するのは良いけど、平民じゃ使えないわよね」
ある日の昼過ぎ、調合室でポレストとセイリアは調合台に並んで水色魔石を大量に作成していた。向かい側ではリューグが蒼色魔石を黙々と作っている。
「今作っているのは当座を凌ぐ魔石だから平民は扱わないよ。王宮から下町に向けてミスト状の水を風に乗せて撒くんだ。少しは下町の気温を下げられる筈だ。」
「誰がやるの?」
「滅びてしまった町の管理を担当していた貴族の労力をそちらに回すそうだ。たくさんの町が滅びてしまってから、仕事に困っている貴族がたくさんいたのだが、これで貴族も平民も少し助かるだろ。ミストは朝と晩に撒く予定だそうだよ。」
セイリアは話に夢中になってきた為、仕事に手がお留守になっている。
「セイリア、手は止めない。」
ポレストは水の入った壺から目を離さず作業を続ける。セイリアは自分の前にある壺に向くと更に質問を続ける。
「土をたくさん掘ってそこに住もうってことなら、明かりも必要よね。地下って暗いでしょ。地下に籠ったままになるなら、この部屋の灯みたいに昼間い太陽に光を集めた石を使うって訳にもいかないわよね。今はまだ自分自身で光り続ける魔石は無いけれど、どうするの?」
「作るんだ。」
「えーーーーー!これから?」
セイリアはもの凄く面倒くさそうな顔をして、再び魔石作りの手を止める。
「だから、手を止めるなって。」
向かい側からリューグが眉間に深い皺を刻み睨んでくる。
「だから、急いでこの魔石を王宮に収めて、新しい魔石を考えなくちゃいけないんだろ?作り方の分かっている魔石なら、最悪、寝ず作れば良いけど、作り方の分からない魔石を作るのは急ぐって言ってもどれだけ時間がかかるか分からないじゃないか。少しでも余裕を持って作るなら、こっちは早く済まさなくちゃ。」
リューグは額に汗を掻きながら作業を続けた。
「まあね、そうだけどさ。」
セイリアは少し膨れながらダラダラし仕事を再開した。「仕方ないな」という顔で見て見ぬふりをしているポレストとリューグだったが、しばらくダラダラ続けていると、調合台の端にでセイリアの左側に置かれた薬草が花弁をオレンジに変えた。
「セイリア、お仕事は集中して。メリハリですよ。」
「もう、この薬草、なんか最近お小言ばっかり言ってくるんですけどー。」
セイリアは薬草に向いてムーッとしかめた顔をし、更に憎まれ口を続けた。
「そんなことばっかり言ってると、花弁が皺だらけになっちゃうわよ、おばさん。」
「なんですって?私のような優しいお姉さまを捕まえておばさんだなんて!だいたい、あなた!私が此処にきてだいぶ経つというのに、私に名前一つも付けないで。持ち主として怠慢じゃありません?」
「あなた、私の子じゃないでしょう?」
「いい加減にしなさい。」
だんだんと話がズレながら喧嘩を始めたセイリアと薬草にポレストが一言。シュンと項垂れた薬草の横で、同じように項垂れたセイリアが魔石作りを再開する。
その後はシンとした調合室で三人は黙々と魔石を作り続けた。夕飯の後もしばらく作業をして、水色魔石二〇箱、蒼色魔石を十箱完成した。完成した魔石は数日後にヤンに頼んで王宮に運んでもらう予定だ。
魔石作りのノルマが終わったので、次の日から、セイリアとリューグは灯の魔石を考え始めた。これから何が必要なのか分からない以上、思い付いた順に作っていくしかない。
お爺の樹の前にクロスを広げ、薬草を真ん中に置き、両端にリューグとセイリアが座る。初めてポレストが作った魔石の素材は庭の中央の井戸の水、その水が蒸発するところを素材として蒼色魔石が出来た。なんとなく、ここにいれば何か浮かびそうな気がするのだ。
「ねえ、まずは私の名前をつけてよ。セイリアだって毎日一緒にいる人に、あなた、としか呼ばれなかったら寂しいでしょ。」
「そうね。でも、あなた、いつかヤンのところに変えるんでしょ?」
薬草はセイリアにそう言われると元気無さそうに葉を垂らした。
「私は薬草として生きて行くのは嫌なの。セイリアは陽に浴びるのは嫌いだし朝寝坊だし、ほら、私と話が合うじゃない。私たち良いコンビになれると思うわ。ね、だから、ずっと此処に居ても良いわよね?」
薬草は切ない声を出す。
「そんなに此処が良いなら、明日、ヤンが来るから聞いてやるよ。だから、そうやってすぐに気を落とすな。」
リューグが薬草の葉を優しく撫でた。
「まあ、私もお布団に入ってからあなたとダラダラお喋りするのとか楽しいけど。ヤン次第ね。」
ヤンの返答次第、此処に残れれば薬草は名前を考えてもらえる、ということとなった。
次の日は朝から同じように井戸の横にシートを広げて、ヤンの到着を待っていた。
「やあ、この暑いのに日向ぼっこかい?」
「違うわよ、作戦会議。新しい魔石を考えなくちゃいけないの。」
「ふーん、発明ね。それは大変だ。」
ヤンは色黒の顎に拳を当てて「考え中」の体勢になった。
「ねえ、そもそも、魔石ってどうやって作るの?」
そう言いながら、ヤンもシートの端に座った。
「うん、素材から力を借りるって感じね。体の中に流れる力を調整しながら素材に祈るの。どうか力を貸してくださいって。」
「それなら、私と似ているかも。」
薬草がセイリアに話しかけた。
「私たち薬草は土から水を吸っているけれど、お日様が出ている時はこうやって葉を陽に向けてお日様の力も借りるのよ。お日様の力を借りないと葉に十分な薬効が貯まらないのよ。」
真剣に薬草を見つめるセイリアにヤンが不思議そうな目を向ける。
「あ、コイツ。此処に居残りしてるヤツ。また、何か言ってるのか?」
「あ、そうなの。ずっと此処に居たいんだって。どうかな、ヤン。薬草園に迷惑がかからないなら買い取りたいんだけど。」
「やっぱりな。なんとなく、この間の話を聞いて帰ってくる気が無い気がした。薬草が自分の居場所を決めるなんて不思議な話だけど、良いよ。買い取りじゃなくて良いから大切にしてやってくれ。なんか、これからも面白いこと起きそうな気もするから、そっち、教えてくれ。」
ヤンはニヒヒと笑って快諾してくれた。
「それとね、この子、太陽から力を借りてるんだって。そうすると薬効が十分に貯まるんだって。」
「あーそれはその通りだな。この薬草は日光を浴びるとより元気に育つから、お日様の陽をいっぱい浴びさせると良い薬草になるんだ。」
「へー」
説明するヤンの横に座っていたリューグが目を真ん丸にした。
「セイリア、真似してみれば?」
「え、お兄ちゃん何言ってるの?水とか蒸気とかと違ってお日様は触れないじゃん。」
「直接は触れなくても、この暑さはお日様の力なんだろ?それなら触ってるじゃん、今。」
「あー、なるほど。」
セイリアはリューグと薬草を少し眺め、ヤンを見てからお日様を見た。陽の光は目が開いていられないほど眩しい。そこから「どうやって力を借りようか。光と温度は届いているが、お日様ってすごく遠くあるのよね。祈りは届くのかしら。」そんなことを考えながら、もう一度薬草を見た。
「ねえ、セイリア。私を良く見て。私の花弁と葉はお日様を向いているでしょ。あなたも魔石を作るときに素材に掌を向けているわ。どう?参考になるかしら。」
「更に、なるほど。」
セイリアは薬草に答えると、両腕を高く上げ、掌をお日様に向けて目を瞑った。そして祈る。
「お日様、私たち、いずれ地上で暮らせなくなる日が来るそうです。そうしたら地下で生活するようになるかもしれません。でも、あなたの力無くしては薬草も植物も育たなくなってしまう。どうか、私たちに力を貸してください。」
セイリアの体の中に流れる力を掌へ流し、何度もお日様に語りかけ祈った。それを薬草が、リューグが、ヤンが見守る。
少しすると、少しづつ力が集まり、お日様からの力も掌に集まって来る感覚があり、更にセイリアは祈る。
「お日様」
すると掌が急に熱くなった。静かに広げた手を握り胸元に戻すと、手の中には魔石らしい感触がある。
「ヤバい。できたかも。」
セイリアは静かに掌を開いた。するとそこには、見た事の無い黄色の魔石があった。
「効能は調べて見なくちゃいけないけど、すごいぞ、セイリア!大発明だ!!」
「すげー」
驚くヤンと大喜びするリューグの横で、同様に喜びつつもモジモジする薬草。
「ねえ、此処に残れるようになったし、魔石も出来たから、次は私の名前よ。ねえ聞いてる?」
セイリアは初めて開発した魔石を大切に握りしめ薬草に言った。
「ありがとう、あなたのおかげよ。レディサン」
薬草に名前がつきました。




