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ビーシュリンピア  作者: クラウンデイジー
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変わった報告

中央広場と城壁のすぐ外側に珍しい変化があり、その報告を受けたセイリアと長老。その内容は・・・。



「井戸が綺麗になったところで本題だが」


オットーは苔と土で汚れた手をドラゴンの井戸の水を汲んだ桶の中でバシャバシャと洗い、その水を近くの草木に向けてバシャーッと撒いた。


井戸の水を受けた草木は、葉や花弁についた雫をお日様に照らしキラキラと光った。こころなしか、ジリジリと焼かれた葉や花弁が涼しげにお日様に向きを変えたようにも見えた。


「実は、中央広場の管理をしている者と西の門番から変わった報告があったのだ。」


「変わった報告ですか。何かしら。」


「中央広場の草木はこの1ヶ月の成長が著しく、西の城壁のすぐ外側の砂地にも草が生えたそうなのだ。」


「はぁ。草木の話ですか。それなら、長老さまの出番ですね。」


セイリアは話序盤でサラリと降参した。


「詳しく説明しますと」


キラキラな笑顔を向けるオットーは全く意に介さず続ける。


「中央広場の植物は、貴族の庭師たちが日々管理をしていて、この干ばつでも緑を保てるよう、各花壇には広場のドラゴンの井戸の水定期的に撒き、弱った植物はジェッソン薬草園へ預けて状態の保持に努めている。だが、この暑さで、保つので精一杯だった。」


「確かに。ここ何十年かは、枯らさず、茎や幹が細らないようにするのが精一杯でしたな」


「長老の言う通り、そうなのです。西の城壁に至っては、再三、砂地にならないようにと他の城壁の外よりも多く水を撒き、感想に強い植物を植えてみたりと工夫もしてみたが、努力の甲斐も無く、今ではすっかり砂漠化してしまっている」


「地熱が強く、根が持たないのです。水も撒いたそばから乾いてしまうのでなぁ。」


長老も下町内外の土や植物の様子が詳しいようで、オットーの話に次々と相槌を打っている。


グレコリウスはと言えば、いつも通り、目を瞑ってオットーに話を任せている様子で、自ら何か行動しようという空気は無い。そして、セイリアから見ると、やっぱり、だいぶ偉そうな態度のようで、なんとなく感じ悪い気がして時々ギロリとグレコリウスを睨んでしまうのだった。


「それが」


オットーは構わず話を進める。


「セイリア嬢のところへ魔石を取りにくるようになった頃から、中央広場の一部の草花の茎が太くなり、葉も少し厚みが出始めたそうで、西の城壁のすぐ外側には何やら雑草らしき草が生えてきたそうなのだ。」


「ほぉー、ほぉー!それはそれは」


長老がオットーに嬉しそうな笑顔を返した。


「それは、変わった報告ですなぁ。私らジェッソン薬草園でも草木の栄養状態向上には常に悩むところで、まして、枯れた土地に何かしらを植えるのは、この干ばつではナンだですからのぉ。して、その要因は?」


「それが、分からないのです。」


やや興奮気味に喜ぶ長老に、オットーが真顔を返した。いつもヘラヘラ、いや、キラキラ笑顔なので、真面目な顔をされると、セイリア的には少し恐い顔に感じて、シートに座ったまま上半身だけ逃げ腰な体勢になってしまった。


「セイリア孃、オットー様は怒っておりませんので大丈夫ですよ。真面目な話を真面目にされただけですよ。」


顔まで引きつってきたセイリアに長老が静かにゆっくりと声をかけた。


「そうですよ、私も真面目にやろうと思えば出来るのですよ。」


今度はオットーがいつものキラキラ笑顔でセイリアへ声をかけた。


オットーの真面目な顔に怯えたり、笑顔にドキッとしたり、セイリアはオットー自体に疲れてきた。


「要因については、貴族の庭師たちが調査していますし、ジェッソンにも頼んでいるので、いずれ分かるでしょうが、これまではポレストにも報告していたので、セイリア孃にも一応。魔石に関係するかもしれませんしね。」


「魔石に関係するんですか」


オットーは軽く言ったが、セイリアは魔石という単語に体がピクリとした。


オットーとグレコリウスが来るのは魔石の為で、確かに他の用事は無い。「なるほど、父さんは王宮でこういう話をしていたのか」なんだか、スッと納得してしまった。


「魔石ねぇ。オットー様とグレコリウス様が来始めた頃ねぇ。」


セイリアは腕を組んだ片方の拳を顎に当て、「フムフム」と考えを巡らせた。そして、つい、いつもの調子で


「レディサンはどう思う?」


と言ってしまった。


「ちょっと、セイリア」


慌てたのはレディサンだ。植物と会話できる人など普通にはいない。長老ですら、「なんとなく分かりあっているかなー」という感じなのに、お貴族様の前で花と会話など、おかしな行動と思われても仕方ない。レディサンはいつも通りに返事して良いとは思えず困ってしまった。


ところが、セイリアは全くお構い無しに


「レディサン、どうしたの?具合でも悪いの?黙っちゃっておかしいわよ」


など、心配まで始めた。この場合、おかしいのはセイリアが正解だが。


困りきったレディサンは花弁を水色に変えて項垂れてしまったので、花は地面を向いて萎れたような様子になった。


セイリアは不思議そうに鉢を持ち上げてレディサンの全身を眺めた。すると、その横から、先ほどまで目を瞑って腕組みをしていたグレコリウスが覗き込んだ。グレコリウスは地面を向いた花を真下から覗き込み、真剣に見つめた。


レディサンは俯いて土しか見えなかった視界に、突然、可愛らしい顔が見えたのでビックリし、今度は花弁を紫に、グレコリウスの顔の可愛さにキュンとなり、今度は花弁をピンクに、忙しく色を変える羽目になった。


これはおかしなことになった、というのは、レディサン自身、自覚していたが、もう、止められない。セイリアと話をしていた方がまだ「おかしいのはセイリアだけ」となるので「最初からいつも通りにセイリアに答えれば良かった」と後悔したが、後の祭りだ。


「セイリア、この植物は何かおかしくはないか?色がチラチラと変わるし、花の癖に何か言っているようだぞ。」


グレコリウスはレディサンから全く目を離さない。レディサンは困惑が止まらず、当然、色の変化も止まるところを知らない。


「この花はソナタの名前を呼んだと思うが」


グレコリウスがレディサンを覗き込みながら言った。


今度はセイリアとレディサンが同時にビクンっと驚き、セイリアのダラッとしていた背筋も、項垂れていたレディサンの茎や花も、直立して良い姿勢になった。


「あ、やっぱり変だ!今度は真っ直ぐになった!ね、見た?オットー、長老」


グレコリウスはいつもの少し偉ぶった雰囲気は全く無くなり、クリクリの大きな眼を更に大きく丸くして、急に幼児が両親に駆け寄る時のような可愛い表情で、オットーと長老に話しかけた。まるで「大発見の報告をしたので褒めてね」と言っているようにも見える。


「これはこれは。さすがですな、グレコリウス様は。私には言葉までは分かりませんが、セイリア嬢とリューグ坊っちゃんは、このレディサンと友達なのですよ。特にセイリア嬢とレディサンは毎日良くお喋りされて、のぉ」


長老は背筋がピーンと伸びたまま固まっているセイリアにニッコリ笑いかけた。その笑顔を見た途端、ホッとして元のダラッとした姿勢に戻ったセイリアは


「そうよ、何も悪いことしてないのに、なんでビクビクする必要があったのだか」


とブツブツ言いながらシートに座り直し、グレコリウスの方を体を向け


「そうなのです。レディサンは優秀なお友達」


と言いかけ、止まった。この方は何を聞いたと言ったっけ。


「グレコリウス様、レディサンが私の名を言ったのが分かったのですか?!」


「分かるも何も、そう呼んでいただろ?」


「オットー様も分かったのですか?」


「いや、私は何か言ったかなとは思ったが、何を言ったかまでは」


セイリアはグレコリウスだけがレディサンの言葉を聞き取れたことに、グレコリウスはオットーにはレディサンの言葉が聞き取れなかったことに驚き、


「えー!」


とハモった。


「なんでぇ?」


「なんでだ?」


驚くタイミングも、眼をまん丸くするその表情も似ているセイリアとグレコリウスに、ホッとして余裕の戻ったレディサンは


「二人とも可愛いですね」


と、花弁をいつもの黄色に変えながら微笑まし気に言った。

先日、疲れが出たのか、ダウンしてしまいました。夏の疲れが出る頃なので、皆様もお気をつけください。

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