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二重人格王子Ⅲ~異世界から来た俺は王子と砂漠を目指す~  作者: さつき けい


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49・転移者は予感に怯える


 無事に洞穴の呪詛は解呪された。


エルフの補助をしていた王子も引っ込み、俺は黒目黒髪に戻る。


一日に二か所は無理だと判断して、その日は家に戻ることにした。


お婆さんの様子も気になるしね。


「お婆さん、どうですか!」


エルフさんは一番先に家に飛び込んで、老婦人の身体を確認した。


「まあまあ、何なの?」


驚いている老婦人の身体はまだ元通りにはなっていない。


「でも、少し楽になった気がするわ。 ありがとうね」


そんなお婆さんの様子にエルフさんはガクリと肩を落とす。


「解呪すればすぐ元通りになると思ったのに」


「仕方ないよ。 まだ呪詛は残っている。


それに長い間お婆さんは足が動かなかったのだから、歩くための筋肉も落ちているしね。


これから少しずつ動かしていかなければならないんだよ」


元の世界でいうリハビリというやつだ。


 この老婦人は先代の当主が亡くなった後、呪いをその身に受けた。


それからだと約二、三十年は動いていないのだから、それを動かすのは難しいだろうと思う。


俺も手術などでしばらくの間寝たきりになった時、治っても急に身体を動かせなかった。


どんなに魔法が便利になっても筋肉がすぐに付くわけじゃない。




 エルフさんはその日からお婆さんの家に寝泊まりし始めた。


「私、王都へ行くのは辞めます。


ここでお婆さんのお手伝いがしたいです」


もう一つの洞穴の解呪も終わった後、彼女はそう言った。


何となく予想はしていたので俺は頷いた。


お婆さんは、


「そんなに責任を感じなくていいのよ」


と言ったが、エルフさんは首を横に振った。


「いいえ。 あの呪詛が私でも解呪出来たということは、やはり私の一族の術だったということです。


長い間、お婆さんの一族を苦しめたことをお詫びします。


私に出来ることがあれば何でも言ってください」


老婦人は困っていた。


「私からもお願いします。


そうしないと彼女はいつまでもあなたのことを気にかけ続けるでしょう」


俺が、せめて彼女が気が済むまで置いてやって欲しいと言うと、老婦人は頷いてくれた。


「そうね。 この子のために必要だというなら、お互いに助け合って過ごしましょうか」


老婦人とエルフさんは手を取り合って微笑んだ。


 ミランはエルフがこの町に住むと聞いて「また厄介ごとが増えた」と頭を抱える。


だが、美少女にしか見えないエルフがじっと懇願の瞳で見つめると、


「仕方ないなあ」


と、この町に住むことを許してくれた。




 俺たちが呪詛の件で動き回っている間、ミランは黒豹の妖艶なお姉さんとヨロシクしていると思っていた。


お礼がてら様子を見に行く。


「酒はしばらくは見るのも嫌だ」


珍しい事にミランが酒瓶を受け取らなかった。


どうやら地主屋敷では、退屈しのぎに「盤上の戦略」を始めたらしい。


これはノースターでも雪に閉ざされる冬の間、大人の遊びとして親しまれていた。


元の世界でいうチェスのようなものである。


 早い話が勝ち負けに何かを掛けてやるのだ。


「黒豹のお嬢さんはなかなかお強いですな」


ロイドさんが褒める。


「酒場じゃ、これくらい出来ないと客が付かないのよ」


負けたら一杯飲むというルールでやっているそうで、ミランが負け越していた。


遊びも、酒の強さも、歓楽街育ちの獣人のお姉さんに敵わないとは。




「しょうがないな」


俺は酒の代わりにとリンゴのドライフルーツを出す。


「こちらではあまり見かけませんが、私の住んでいた町でたくさん取れる果物を干した物です」


薄くスライスして室内で陰干ししただけだが、オヤツにはちょうどいい。


健康にも良いしね。


「勝ったら食べる、にすれば良いでしょう」


獣人のお姉さんがさっと一つ摘まんで口に入れた。


「あら、思ったより甘いのね。 でもスッキリしてて甘過ぎないのがいいわ」


「おい、これからそれを掛けてやるんだ。 まだ食べるな」


ミランがお姉さんに文句を言う。


「いいじゃない、味見くらい。 美味しくないと勝負に身が入らないわ」


あはは、これは完全にミランが押されてるな。




 俺は帰り際に、見張り台の元隊長のトニオさんを呼んで一緒にやったらどうかと提案した。


これは兵士たちが発祥なので軍人は必ずと言っていいほどやる遊びだ。


「ネス、お前はやらないのか?」


ミランに訊かれたが「弱いのでやりません」と笑って答える。


王子と何回かやったが、一度も勝てなかった。 もうやらない。


『大人げないな』


「うるさいよ」


元いた世界でもオセロとかボードゲームは苦手だったんだよ。


 今思うと薬のせいだったのか、あんまり集中出来なかった。


それなのに病院の連中は容赦なかったしね。


「相手は病人の子供なんだから負けてくれてもいいのにさ」


『勝負は甘くないってことか』


う、何でお見舞いのお菓子掛けて勝負してたって知ってるんだー。




そのうちに王都へ行っていた眼鏡さんが戻って来た。


「向こうでの受け入れ先が決まりました」


獣人のお姉さんの母親が名乗り出て来たそうだ。


「チッ」


どうやら親子仲は良くないようだ。


ともかく王都へ戻れるのはうれしいらしく、「王都に来たら遊びに来てね」とミランを誘っていた。


「獣人のいる店なんてすぐに分かるわよ」と笑っている。


いやいや、王都は広いよ。 絶対無理だろ。


そして黒豹のお姉さんはチャラ男を護衛に付けて、王都へ帰る事になった。




 俺としては眼鏡さんにも早く王都へ帰って欲しい。


「事件の裁定は終わったのでしょうか?」


眼鏡さんに問いかける。


「はい。 ただウザス領主がかなり反発しておりますので今後も警戒は必要かと」


王都と南の辺境地の間は船で五日、陸路だと道が悪いため倍以上の日数がかかる。


つまり、何か事があっても王都の軍ではすぐに対処出来ない。


自領に駐留している辺境警備隊はすでに懐柔済みだから、ウザス領主はやりたい放題だったのだ。


「辺境の軍隊の増強、もしくは完全に領主と切り離してもらうしかないですね」


俺はため息を吐いた。 




 峠の隊長のほうは、しばらくはウザス領にいる軍隊の長が兼任になるそうだ。


チャラ男がウザス領の国軍兵舎を強襲し、心身共にかなり厳しく鍛え直したらしい。


あー、脳筋が暴れてる姿が目に浮かぶ。


「それと新しい見張り台の兵士がもうすぐ参ります。


北の辺境地出身ですが、領地で問題を起こしまして、飛ばされて来ます」


「はあ」


そんなのが来て大丈夫なの?。


俺の顔に疑問が浮かんでいるのを見て、眼鏡さんがニンマリと笑う。


嫌な予感に俺の身体がビクッと震えた。




 王都へ帰る黒豹のお姉さんの送別会というか、お別れ会が開かれた。


旧地区の住民総出で外でバーベキューもどきをするだけである。


 網元が大きな魚や、貝やエビに似た甲殻類の海産物を持ち込んだ。


子供たちと協力して教会横の簡易炊事場で焼き、配り、話しながら食べる。


酒は各自の持ち込みだ。


子供たちがいるのでほどほどにして欲しい。


 足の悪い老婦人も、ソグが抱き上げ、エルフさんが付き添って連れて来た。


椅子や食器はそれぞれが自宅から持ち寄って賑やかな食事会になった。




 ひと段落したところで、俺はソグの隣に座った。


若い住民は粗方ミランが酔いつぶしてくれている。


「ソグ、あの洞穴の呪詛を見てどう思った?」


酒を注いでやりながら、ぼそりと訊く。


ソグは呪詛と聞いて笑顔を引っ込めた。


まあ、そもそも笑っているのか無表情なのか、分かりにくいんだけどね。


「主はワシにあれを見せたかったと言ったな」


俺は肩に乗った鳥と共に頷く。


「その、ソグはデリークトの姫の、その護衛だったんだろ?」


俺は周りに聞こえないように小さな声で話す。


「ああ、姫様の呪詛のことか?」


俺は手に持っていたカップを握りしめた。




「ソグ。 実は、俺は王都でフェリア姫に会ったことがある」


トカゲ亜人の目が訝し気に俺を見た。


「姫は本当に美しい人だ。 俺はあの人が呪詛で苦しんでいるのが残念でならない。


何か俺が出来ることを探しているんだ」


ソグは俺の言葉に驚いて目を見開いた。


「自分の国の姫でもないのにそんなことを思うのか?」


俺はソグの顔を真剣に見つめる。


「国や種族なんて関係ない。 ただ俺は姫様がー」


しばらく俺の顔をマジマジと見ていたソグは口元を少し緩めた。


「惚れたのか?」


俺はたぶん真っ赤になったのだろう。


顔を背けて「そんなことない」と言うが、ソグの笑みは深くなるだけだった。


「姫にもあの呪詛が関係あるのだとしたら、ワシも手を貸すぞ」


「あ、ありがとう」


楽しそうな住民たちの声を遠く聞きながら、俺はフェリア姫の悲し気なやさしい笑顔を思い出していた。



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