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二重人格王子Ⅲ~異世界から来た俺は王子と砂漠を目指す~  作者: さつき けい


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45/72

45・転移者は兵士に連行される


 新地区の領主の私兵たちも疲れていたのだろう。


俺の出した茶を飲み、菓子に手を出す。


声が出せない病気なのだと念話鳥を見せて説明したら驚いていた。


「ところで何故、新地区の領主館が襲われたのでしょう」


パンを追加で出してやると若い兵士がそれをパクつきながらしゃべる。


「な、なんでもぉ、地下にお宝がぁ、ぐぁったってー」


何故しゃべるんだ、と他の私兵たちに小突かれている。


「へえ」と生返事をしながら俺は全員の濡れた上着を受け取り、魔術で乾かしていった。


これ以上、家の中を水浸しにされたくない。


どうせもうついでだからと朝食用に用意していたスープも出してみた。


「あ、ありがたい」


春から夏に向かっているとはいっても夜半のこの嵐の中、彼らも寒さで体力を奪われていたのだろう。


スープのカップをうれしそうに受け取った。


エランとソグも彼らの態度に釈然とはしないものの、気持ちは分かるので黙って飲んだ。




「どんなお宝なんでしょうねえ」


俺は微笑みながら雑談のように話題を振る。


「お宝っていうぐらいですから、高価な物なんでしょうね」


若い私兵が先輩の男性に訊いている。


「さあ、俺たちには分からんさ」


俺は知ってるけどね。


 チャラ男が持って来たものがおそらくそうだ。


お宝があの女性二人だと知ったら、彼らはどんな顔をするのかな。


「あなた方がいない間、ご領主様たちは大丈夫なのですか?」


「文官や腕の立つ使用人が付いている。


壁は壊されたが、幸い館は広いのでな」


領主親子は無事らしい。


コセルートは確か私兵ではなく使用人だと言っていた。


「後片付けが大変ですよー」と若い私兵が愚痴をこぼし、他の者たちは皆苦笑いを浮かべる。




 俺はエランとソグに顔を向けた。


「今夜、この嵐の中で何か感じたか?」


この嵐では鼻も利かないとエランは残念そうに言う。


んー、と唸っていたソグは何かを感じていたようだ。


「そういえば、山手のほうで魔力が動いたな」


砂トカゲ族はトカゲ亜人の中でも気配察知に優れている種族らしい。


「そりゃあ、あの館の壁が壊されたのだから、誰かが魔術を使ったのは確かです」


私兵の中でも頭の良さそうな男性が答えた。


「では魔術が使える者、ということでいいのかな」


俺の言葉に私兵の長らしい中年男性は、


「魔術師一人とは限りませんな」


と冷静に言った。


お茶やお菓子では誤魔化されないぞ、と俺を睨む。


「この嵐では船で逃げることも出来ない。 盗賊はこの町の中にいるはずだ」


「なるほど」


盗賊ねえ。




 重い空気を払うように話題を替える。

 

「ところで、皆さんは前日の山狩りの報奨は何に使われましたか?」


俺はわざと下種げすな笑みを浮かべ、ウザスの色町辺りへ行ったのかと若い私兵に訊いてみた。


「えー、いやー、そんな金はー」


少し顔を赤らめながら、若い私兵は首を横に振った。


「え、まだもらっていないんですか?」


外の音に負けないような声で驚いて見せた。


「ご領主様のご子息様はたいそうなものを王都から取り寄せたと聞きましたが?」


それは町ではすでに広まっている噂だ。


私兵たちも苦い顔でお互いに顔を見合わせる。


「今夜、奪われたお宝はソレかも知れませんね」


家宝とかそういったものではなく、命がけで領主を守った者たちの報奨をピンハネして得たお金で買った物。 そういう印象を持った。


「そういえば、あの大きな箱は地下に運ばれたんだったな」


「う、うるさい。 黙ってろ」


私兵たちは疑心暗鬼になっていく。


「それでもワシら雇われている以上、領主の命令に従わなければならん」


彼らはやはり善良な田舎者なんだなと思う。




 やがて空が白み始める。


私兵たちは俺に同行を求めた。


「いいですよ」と俺がいつものローブとバンダナを手に外へ出る。


嵐が去った空は青く、空気も澄んでいる。


 エランとソグがついて来ようとするが、俺が子供たちのことを頼むと顔を歪めたままその場に立ち止まった。


俺はおとなしく領主館に連行される。


 途中で港の側を通ると見張り台の兵士たちがいた。


おそらく逃走する者やお宝を持ち出そうとする船を警戒しているのだろう。


この分ならウザス領との境の峠も封鎖されていそうだ。


「あれ、ネスさん。 どうしたんですか?」


峠の兵士たちは俺が治療したり薬を調達したりしたので、感謝を込めた目で見てくる。


「ああ、何やら領主館で盗難事件があったようで。


私は魔術が使えるので犯人の疑いがかかっているのですよ」


明るく答えると、彼らはギョッとした顔になった。


「ネスさんがそんなことするもんか!」


「うるさい。 ご領主様の言いつけだ」


私兵たちと軍の兵士たちの間で言い合いが始まってしまう。




 そこへ滑るように一艘の船が入って来た。


沖に大きな船の影が見える。 あそこから降りて来たのだろう。


その船から降りて来た人物を見て、俺はまた動揺を隠さなければならなかった。


「そこの者。 ここの領主の関係者か?。 館へ案内しなさい」


灰色の髪をオールバックのように後ろへと撫でつけた細身の、眼鏡をかけた男性。


その後ろにはチャラ男を始めとした国の正規の軍服を来た兵士がずらりと並んでいた。


 私兵や見張り台の兵士たちが戸惑っていると、


「早くしろ。 抵抗したり邪魔をする者がいれば遠慮なく叩きのめせとのお達しだ」


眼鏡の男性が国王の署名入りの紙を掲げた。


「これより、サーヴ領主とその息子の捕縛に向かう」


「おー!」


正規の兵士がバタバタと船から降り、整列を始める。




「ざ、罪状は一体何なんです?」


私兵の長である中年男性が恐る恐る訊いた。


「ご禁制の品の売買だ。 早くいえば奴隷を買ったのだよ」


しかも亜人の女性を、と言うと私兵の長が崩れ落ちた。


「そんなモノのためにワシらは命がけで闘ったのか」


ぼそりと小声で呟いたのが聞こえた。


本来なら主である領主親子を守るために館に戻らなければならない私兵たちは、誰一人動かなかった。


軍の兵士たちが整然と列を作り、坂道を駆けていくのをただ見送る。


 先頭はチャラ男だった。


彼は俺に目配せを一つして、俺はそれには頷いて返した。




 眼鏡の男性が俺の側に来た。


「良かったらご一緒に来ませんか。


この町の住民なら領主がどんな悪事を働いたのか知りたいでしょう?」


眼鏡の奥の瞳が意地悪そうに笑っている。


『どうみてもバレてるな』


王子はもう諦めたようだ。


「ええ、よろしければ」


俺は言葉少なに答え、軍の兵士たちの最後尾について行った。




 俺たちが館に着いた頃にはすべてが終わっていた。


拘束され、連行されるのは領主とその息子の二人だけで、他の使用人たちは無罪とされている。


どうやら領主親子は誰も信用しておらず、食事などの世話も自分たちがやっていたようだ。


 壊された館の壁は地下に繋がっていて、その先に黒い大きな箱があった。


あれが王都から運んで来たという箱なのだろう。


一面が開かれていて、良く見ると中は鉄格子がある檻になっていた。


「これだけの物を田舎の領主が用意出来るものでしょうか」


俺は疑問に思って隣にいた眼鏡の男性に訊いてみる。


「おそらくそそのかした者がいるのでしょう。 その者が用意したようです」


眼鏡の男性は機嫌よく答えてくれた。


う、その笑顔が怖いんだが。




 罪人を乗せた船は隣のウザス領へと移動して行った。


もちろん無事に解放された俺は家に戻る。


「ほお、素晴らしい教会ですな」


何故か眼鏡の男性がついて来た。


旧地区の小さなボロい教会を気に入ったらしい。


「実は私は神官の資格も持っておりましてね。


そろそろ文官という仕事にも飽きて来ましたし、このような田舎の神官も良いですなあ」


「そ、そうですか」


だ、誰か助けてくれないかな。




 俺の部屋にいた女性は、一人が黒豹の獣人の女性で、一人はエルフの女性だった。


「ちょっと!、あたいは早くうちに帰りたいの」


黒豹の女性は言葉は乱暴だが、妖艶で滑らかな肌をくねらせていた。


親の借金がかさんで男性を相手にする店で働いていたらしい。


しかし本人があまり仕事をしたがらないので、店の主から奴隷として売られたようだ。


 もう一人のエルフはまだ成人前のように見えるが、はっきりとは分からない。


美しい薄い金色の髪と緑の瞳、特徴的な耳をしていた。


「わ、私、故郷にも、家にも帰れないの」


どうやら騙されてエルフの森を連れ出されたらしいが、おきてを破ったため戻ることは出来ないそうだ。


眼鏡の男性が俺をチラチラ見てくる。 押し付ける気ですね。


「女性には気をつけろと死んだお婆ちゃんの遺言で」


きっぱりお断りした。



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