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二重人格王子Ⅲ~異世界から来た俺は王子と砂漠を目指す~  作者: さつき けい


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16・転移者は護衛を雇う



 この町の仕事斡旋所へ行く。


今日は、十四歳だという新地区のリーダーの少年の登録だ。


「こんにちは」


食堂の暇な時間を狙って来たので、親父さんも娘さんも手が空いている。


「あら、いらっしゃい。 今日も仕事の報告?」


「いえ、この子の予備員登録をお願いします」


少年たちは、この町では美人で評判の看板娘の前で少し恥ずかしそうにしている。


むぅ、思春期の少年に若い女性の相手はちょっと無理だったかな。


「親父さん、ちょっと」


俺の肩に乗っている鳥が声をかける。


「あー?、わしでなくても」


と言いながら、俺と一緒にいた少年たちを見て、座っていた椅子から腰を上げた。


「お前ら。 何しに来た」


威圧気味な親父の視線に、少年たちは完全に腰が引けている。


俺はクスクスと笑いながら「登録をお願いします」と事情を説明する。




「こいつらに斡旋所の仕事をさせるだと。 本気か?」


「ええ。 十四歳といえばもう一人前でしょう?」


成人前ではあるが、成長の早い者はすでに大人に負けない体格をしている。


少なくとも王都では大人と同じ扱いで仕事を斡旋してもらえた。


「まあいいだろう。 それで何をさせる気だ?」


ジロジロ見ていた親父さんから、とりあえず承諾を得られた。


今日のために俺は少年をしっかり洗い、服も魔術で少しはマシな感じにしておいたからな。


「小鬼退治を」


「なんだって?」


親父さんは驚いた。


「こんな子供にさせる仕事じゃねえぞ」


この町では小鬼退治は何の収益にもならないが、森に入る者たちの護衛仕事としては需要がある。


「私は研究者でして、この森の調査に入りたいのです。 それで彼らを護衛として連れて行きます」


トニーと少年リーダーを指差す。


娘さんは戸惑っていたが、親父さんは頷いてくれた。


「なるほど。 まあ、お前さんほどの腕がありゃ、小鬼は軽いだろう。 だが、子供たちに怪我はさせんでくれよ」


「分かっています」


俺は一見、華奢きゃしゃで弱そうだが、魔術師で攻撃力もそこそこあることは知られている。


王子ほどではないけれど、精一杯ニコリと微笑むと娘さんの顔がポッとなった。




 俺の仕事歴を知っている食堂の親子は、リーダーの少年のカードを作ってくれた。


そして、ミランから出された依頼を俺と少年たちで受ける。


「今朝早くにロイドの爺さんが持って来た依頼だ。 なるほど、お前さん用だったんだな」


森の調査の仕事を出してもらった。


ミランには返り討ちにした獣の肉を提供する約束もしてある。


「ネスです。 しばらくはこの町に居ますのでよろしく」


俺は親父さんに手を差し出し、改めてしっかりと覚えてもらうために握手をする。


看板娘も俺に手を出そうとしたが、親父さんにしっかりガードされていたので握手出来なかった。




「まずは、君たちの装備だな」


俺は二人を連れて、ある店へ向かった。


木工屋の主人に紹介された店は、その隣の店である。


ここは皮革中心の小物や防具を作る工房らしい。


「こんにちは」


「へーい」


奥から出て来たのは背の低い女性だった。


若そうだがどこかおじさんぽいところがある。


「あれ?、あなたはドワーフですか」


まさかこんなところでドワーフ族に会うとは思っていなかったので、俺は驚いて、いきなりそんなことを口にしてしまった。


胸倉を掴まれ、ひとりだけ店の奥へ連れ込まれる。


「そうだけど、そうじゃないことになってるんだよ」


一目で俺が見抜いてしまったので否定せず、苦笑いした女性は小声でピティースと名乗った。


「この町じゃ人族以外はあんまり居ないからね。 種族を隠して修行に来てるんだ」


えっと、ここは革製品の工房のはずだが。


「鍛冶に飽きちゃって、今は皮をなめしたりするのが楽しいのさ」


ガハハと女性ながら豪快に笑う。


まあ、他人の事情はそれぞれだ。 俺はあまり気にしないことにした。




 実は、俺はちょっと困っていた。


俺の鞄の中には武器や防具もいくつかあるのだが、領主として護衛の私兵たち用に作った物なので、この少年たちの体格には合わないのだ。


「えっと、この子たちの装備を探しているんですけど」


少年たちは期待した目で店を見ている。


革の胸当てと腰に短剣を挿すための革ベルトを買い、少年たちに装備させた。


「あとはどんなものが欲しいの?」


ドワーフの細工師が訊いてくる。


「武器ですね。 初心者用の短剣でいいんですが」


少年たちは武器を持ったことがないらしい。


今回は剣と言っても使うわけではなく、持っているだけでいい。


短剣と聞いて二人の少年が少しがっかりしている。


「ふうん」


そう言ってピティースは作業場へ入って行った。




「これでいいなら、私が作ったやつだからあげるよ」


鍛冶を休んでいるとはいっても腕がなまらないように、店の片隅にある小さな鍛冶場で毎日こっそり打っているらしい。


売り物にはならないからと言って金は受け取ってくれない。


「木工屋から金具なんかの依頼が来るから、毎日小さいものは作ってるんだ」


へえ、と俺は感心する。


ドワーフといえば元の世界の小説やゲームでは鍛冶屋の印象が強かったけど、この女性は武器だけでなく細かい作業も得意としているようだ。


「では、井戸の釣瓶の滑車などを作ってくださったのはあなたですか?」


井戸の設備には、屋根の内側に釣瓶の縄を巻き上げる滑車が付いていた。


カラカラといい音をさせていたので、腕の良い職人がいるのだろうと思っていたのだ。


彼女は褒められ慣れていないのか、少し顔を赤くして照れていた。


「これも持って行け」


と、家庭用の包丁のようなものまでくれた。


「ありがとう」


俺は微笑んでお礼を言った。 リタリが喜ぶだろう。


今度また色々とお願いしよう。




 もちろん装備の代金は彼らに働いて返してもらう予定だ。


「さて、行くか」


今日はただ森の浅いところを歩くだけである。


「は、はい」


緊張する二人の少年を連れて、俺は先へ行く。


「えっと、小鬼が出たらどうすればいいんですか?」


リーダーの少年は今までと違い丁寧に話そうとしている。


「まずは逃げて、俺に知らせてくれ」


トニーとリーダーは素直に頷いた。


俺は文字板を取り出し、普通の紙を留める。


「魔獣と獣の数を数えて欲しい。 重ならないよう二人で協力してくれ」


そして、数の数え方を教える。


「こう、一つの獣の種類ごとに分けて、見かけたら印を一つ付ける。


最後にその印を足せば、その獣の数になる」


俺は紙に簡単なマス目を書き、元の世界の表を教える。


首を傾げながら話を聞いている少年たちは、どうやらきちんとした教育を受けていないようだ。


「学校が必要かな」


俺の肩の上で小鳥がぼそりと呟いた。




 俺たちは旧地区のほうの森に入った。


前回、樵の爺さんと入ったのはもう少し新地区寄りだった。


足元が砂混じりの土で、歩きにくい。


しゃがみ込んで砂を掘ってみると、すぐに固い土が出て来る。


「砂の層が浅い。 こっち側の砂は最近入ったのかな」


俺の言葉にリーダーの少年が答える。


「大人たちの話では、砂漠は少しづつ広がっているそうで、前は町中にはこんなに砂は無かったって」


「へえ、そうなんだ」


俺は少しづつ砂漠寄りに進路を取る。


 小鬼の気配はするが、積極的にこちらを襲うことはなかった。


少年たちは足元が歩きにくいせいもあり、すぐに疲れてしまう。


それでも俺が平気そうにどんどん先へ進むので、仕方なく追いかけて来た。




「あれは?」


俺は低木に身を沈めるように指示して、森の奥に姿を見せた獣を指差す。


「灰色狼ですね、たぶん」


砂漠に近付くとだんだんと獣たちの姿を見かけるようになった。


 リーダーの少年は小さな頃に狩人だった親を亡くしているという。


何度か親に狩りに連れて行ってもらっていたそうで、この森の獣のことも良く知っていた。


その頃はあまり小鬼はいなかったようだ。


「小鬼は隣のウザスの町からこっちに移動してきたんだ」


と唇を噛む。


 大きなウザスの町では兵士や猟師がきちんと山狩りで小鬼を処理している。


そこから逃げ出してきた小鬼たちは、碌に狩りもしないこの森に巣くい始めた。

 

その小鬼に追われて獣たちが森の奥へ引っ込んで行った、ということかな。




 あまり森の奥へは入らず、魔術<検索・獣>で探し出した大きな兎を仕留め、鳥がいたので魔術<拘束・網>で捕まえておいた。


「鳥!、珍しいな」


リーダーの少年はうれしそうに抱えている。


「小鬼によく卵を盗まれるから鳥の数は減ってるんだって」


雌なら卵を産んでくれるらしいが、これは雄だと思うよ。


「そっかー、雄か。 でも美味しそう」


それは俺も同感だった。


 

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