閑話1 ある女神の思惑
見ていた2人の内の1人
クックック、本当に面白い。
ん?わたし?わたしの名前は……、いや、言わないでおこう。まあ、女神とか何とか呼んでくれ。
それより、これを見てくれ。子供を助けて、死にそうになっているやつがいるだろう。
全く、こんなことをする人がまだいたなんてな。今の世の中、そういう人間は絶滅したと思ってたよ。
しかも、助けたのが異世界人ときている。平行世界のバランスを、この人間は、間接的に守ったということか。まあ、世界が消えたってどうでもいいんだがな……おっと、今のは聞かなかったことにしてくれ。
しかも、こいつから、ありえないオーラを感じるぞ。このまま死なせるにはもったいなすぎる。
お、呼び出しだ。今回のことで会議でもひらくんだろう。
じゃあ、行ってくる。ここで待っててくれるか。すぐ終わる。
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待たせたね。反対派をねじ伏せるのに時間がかかってしまったよ。
結果として、あの子供はあのままにして、瀕死の奴を転生させることにした。こんなこと初めてだか、なんとかなるだろう。
さてと、そろそろくるじかんだ。あなたは待っていなさい。
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目の前に、男が現れる。いきなりのことで、驚いているようだ。
何を考えているのか気になって、心を読んでみる。
(ここは……オレは子供をかばって死んだはずじゃ……)
ふっふっふっ、いい具合に困惑している。
「その通り」
男がこちらを振り向く。やはり、困惑しているようだが、表情には出していない。やはり、なかなか楽しめそうだ。
すると、男はわたしに見とれたようにこちらを見てくる。思考を読んでみると、わたしのことを女神のような雰囲気だと考えていることが分かった。
「お主はなかなか勘が鋭い。いかにも、私は女神だ」
「っ!!何故オレの考えが分かる」
「それはもちろん、私が神だからさ」
驚いたような声を出すが、やはり表情は変わらない。なんて面白いのだろう。
「はっはっはっ、考えが読まれることを知っても、その無表情か。実に面白い。私が見込んだだけある」
自然と笑い声がでる。
「お前との駆け引きは愉しそうだからな。あなたの考えは読まないであげよう。それで、何か聞きたいことはあるか?」
「お前が女神だとして、オレに何のようだ。女神は、オレみたいな凡人に構ってられるほど暇なのか?それとも、その高圧的な態度で、仕事が回ってこなくなったか?」
わたしを挑発してくる男。それもまた面白い。こんなときに、まだそんなことができる余裕があるのか。
しかし、ムカついたのも事実だ。ちょっとこらしめてやろう。
「お前の命は私が握っているんだ。今回はこの寛大な心で許してやるが……次は無い」
わたしは殺気をとばす。これをくらったら、大抵の生物は気絶してしまうのだが、男は固まるだけですんだ。
やはり、こいつは面白いだけでは無い。強い精神を持っている。
そうじゃないと、異世界で生きてなんていけない。やはり、わたしの目は間違っていなかった。
「な、んで、オレ、をこ、んな、とこ、ろ、に」
うまく開かない口を、開き、途切れ途切れながら質問する男。その様子は、可愛らしく、思わず笑ってしまいそうになった。
可哀想なので、殺気を抑えてあげると、男が深呼吸する。普通は、倒れてしまうのに。
「何故あなたがここにいるか、だな?何となく気付いているかも知れないが、あなたには……」
そう切り出す。すると、男はなんとなく分かっているというような顔をしている。
「異世界へ転生してもらう」
男の顔は、「予想通り」とでも言いたげだ。
しかし、非現実的な話だ。それを信じているのは、状況適合能力が優れているからだろう。
「理由を聞いても?」
しかも、平然と理由を聞いてきた。
「ああ、では話すぞ。まず、並列世界というのを知っているか?」
「何となく、な」
何と、知っているようだ。男が住んでいた世界では、あまりポピュラーではないと思うのだが。
「あなたがいた地球にも並列世界は無数に存在し、バランスを保っている。その中の一つに、魔法や亜人種が存在する世界がある。手違いで、そこの子供が、あなた達の世界に、飛ばされてしまったんだ」
男は、なんとなく分かったというような顔をしている。
「このままだとバランスが崩れ、全ての並列世界が崩壊する。よって、その子供を戻すことになった。その子供が……」
「オレが助けた子供だったと」
「その通りだ」
読みがいい。推理力も問題なしだな。
「子供を戻そうとしたら、車が突っ込んできたんだ。人間が別世界で死んだら、その魂はどこにもいくことができず、そのまま消滅する。そうなると、バランスが崩壊するんだ。全ての神は、諦めかけた。そこに、君が現れ、子供を救ってくれたんだ。それにより、とりあえずの世界の危機は無くなった。しかし、そこからが問題だった。子供を戻そうにも、沢山の人が見ている。このまま戻したら、いらぬ混乱を巻き起こしてしまう。そこで、あなたを子供がいた世界に送り、バランスを保つことになったのだ」
「そうすると、やはりいらぬ混乱が起こりそうだが?」
男は、的確なところを突いてくる。
「大丈夫だ。お前の魂だけを送るからな。あちらの世界には、お前の亡骸だけが残る。魂を強制転移させた痕跡は亡骸に残るが、「魔法」の概念が無いから、大丈夫だ」
納得しているところを見ると、魔法についてもなんとなく知っているようだ。男の知識は底なしのような気がしてきた。
「だが、他の神からの反対は無かったのか?」
「あったさ」
そこまで見抜くとは。
「だが、あなたからは何か他の人には無いものを感じた。わたしもなかなか身分の高い神だからな。緊急時だったこともあったし、多少の反対は無視した」
これは、本当のことだ。男はあまり信じていないようだが。
「では、あなたに聞く。異世界に転移する気はあるか?本人が許可したらという話になったので、今なら断って、冥土へ逝くこともできる」
これが、最後の質問だ。これでNOと言われたらお仕舞いだ。
わたしは、男は何時間か考えてから答を出すと思っていた。しかし……
「異世界へ行かせてください」
早くに答は返ってきた。
「そうか、わたしは嬉しいぞ。では、早速あちらへ飛ばそう」
嬉しさに満面の笑みを浮かべたわたしは、転生の魔法を男にかける。
「では、さようなら。あなたの第2の人生に、幸多からんことを」
男の体を包む光が、さらに強くなる。男の体が消えていき、完全に消えた。
後には、わたしが残っただけだった。
「さあて、バランスを崩さないようにってのは建前で、実は異世界人がどんな風に生きていけるか見たかっただけだなんて、誰にも言えないな」
笑い声が反響する。
「アノ計画がついに成就するかもしれないな」




